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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
75/112

75話

 当たって欲しくない嫌な予感ほどよく当たるものだ。

 愛用の“でんでん銃”を撃ちながらケンは思う。目の前のマンハンターが倒れた。

「まだ来る!」

 団員の1人が叫ぶ。


 武器屋旅団は要塞の前に存在する巨大廃墟エリアに侵入した。

 そこではマンハンターとの戦闘が予想され、実際にその通りになったのだが、マンハンターの規模が予想以上に多かったのだ。


 これに対して、旅団は反撃しつつ一部の団員をマンハンターから見て反時計回りに移動させ、マンハンターの後ろに回り込むように指示を出した。そして後方と前方から挟撃しようと図る。


 しかし、攻撃が激しいのに加えて、ここの廃墟はあちこちの建物が崩れ落ち、瓦礫の山になって通行出来ない場所が多々ある為に思う様に移動出来ないのだった。


「多分、ブルタンクとの戦闘でもあったんでしょう」


 瓦礫の中に高温で溶かされたような物が混じっているのを見付けた先生が言った。


「クソ、ここも駄目か……」

 瓦礫の行き止まりにケンが舌打ちをして言う。

「うっ……」

 次の瞬間、呻き声とともに倒れた男がいた。

 黒田である。旅団でも古株の男だったが、心臓をレーザーで貫かれ、即死していた。


「くそっ! 黒田さんが死んだ!」

 ケンが声をあげる。

 一瞬、旅団内に動揺が走った。

 しかし、マンハンターの激しい攻撃がそれをすぐに打ち消す。悲しむのは後でも出来るからだ。

 今はとにかく生き残る事。それこそが最優先事項である。


「囲まれてるわ!」

 そう言ったのは泉である。

 マンハンターの攻撃が両側面からも行われつつあるのに気付いたのだ。


「どうする……!」

 アキラはライフルを撃ちながら考える。ここまで追い詰められれば挟撃作戦は不可能といっていい。


「皆、聞いて!」

 団長であるユウコが叫ぶ。

 思わずアキラが顔をあげてユウコを見ると、彼女はアキラを一瞥して頷いた。


「このままじゃ、いずれは囲まれて全滅するわ! その前に旅団は2人から3人の少集団に別れて分散して逃げるのよ!」


 少人数であれば、逃げるのも隠れるのも容易い。それに追手も分散するために、それぞれの相手をする数も減ることになる。

 場合によっては、各個撃破も可能かもしれない。

 勿論、これは逆もまた然りであるが、このままでいるよりかは生存の可能性が高いという判断である。


「やむを得ない、か……」

 アキラが呟く。

 もっとも、この方法を最初に思い付いたのはアキラ本人である。廃墟エリアに入る前に、もし何かあればこういった方法があるとユウコに進言していたのである。


「出来れば、それぞれが持っているトランシーバーの通信範囲内から外れない程度の距離で別れたいけど、おそらく難しいと思うわ! その場合はこの廃墟エリアの出口、もしくは要塞で落ち合いましょう!」


 ユウコの判断に団員は戸惑いを隠せない。

 今まで1つの大きな集団として動いていたのが、急に少人数の集団になれというのである。

 その上、全体の指揮をとっている者から別れて自分達の判断で動かなければならない。

 それらの不安は多かったが、そうせざるを得ない事が判断出来ない程、団員達も愚かでは無かった。


 アキラがマンハンターの囲いが薄い部分を指差した。

「あそこの包囲網が薄い! グレネードを投げて、3連斉射の後に突破するぞ!」

 そう叫ぶとグレネードを手に取って、指定した場所に投げ込む。


 ギジの世界に存在する特有の武器であるグレネードは、外の世界のそれとは違いプラズマグレネードともいうべきものであり、強烈な光と熱が混じった電撃を発する。

 マンハンターはそれを受けて四肢を融解させた。


「今だ! 斉射3連!」


 団員全員が手持ちの武器をグレネードが爆発した方向に発砲する。

 薄かった包囲網が崩れて、その部分に穴が開く。


「とっ……」

「突破!」


 それはユウコの叫び声だった。アキラの声をかき消して叫んだのである。

 俺が言いたかったとアキラが呟くと同時に団員達が包囲網の穴に殺到した。


 それぞれが得物を手にマンハンターを撃ちながら各々別方向へ向かって走っていく。

 通りを正面から突っ切る者。建物の中に逃げ込む者。瓦礫を乗り越えようとする者。

 アキラもユウコの手を引いて狭い路地に入り込み、柵を乗り越え、建物の中に侵入して走り抜けて外に出て、更に別の建物の中に消えていった。




/*/




 他の団員と同じ様に廃墟エリアを駆け抜け、マンハンターを倒して辺りが静かになった時、ケンの周りには2人しかいなかった。


「ユリさんと、ミクさん……」


 白河ユリと水野ミクである。

 ギジの世界に飛ばされて初めて会った者達だった。

 今回もその2人がケンの側にいたのである。


 どうにもこの2人には縁があるらしいとケンは思った。

 もっとも付き合いが長いからこそ、この2人が自分の目に見える範囲にいることに安堵する。

 元を正せば、自分を追ってここまで来たのだ。その原因が少なからず自分にもある。

 自分の目の届かないところで2人のどちらかにでも死なれたりすれば、悔やむに悔やみ切れないだろう。


「落ち着いたみたいだな」

 ユリが言った。

「みたいだねー。誰かトランシーバー持っている?」

 ミクの問い掛けにケンとユリは横に首を振る。


「どうやら旅団と連絡をとるのは無理そうだねー」

「ここを抜けて合流するしかないな……」


 気の抜けた声でミクが言い、それを聞いたケンが嘆息する。

 だが、例えトランシーバーがあっても通信範囲内に誰かいるとも思えないと3人共内心で思っていた。

 初めからこうなる事は予想済みだったのだ。


「それにしても、こうして3人だけでいるのって随分久し振りじゃないか?」


 ユリが言った。


 ケンが最初にいた集落以来、確かにこの3人でいるのは初めてと言っていい。

 あの集落をケンが出ていってから、再び3人が揃ったのはトウの街である。


 しかし、トウの街ではケンはユリとミクの2人に関わろうとしなかったし、たまに会ったと思えば、そこは大衆食堂のオアシスであり、そこの店主である泉がいた。

 もしくはケンを狙うチンピラとの喧嘩の真っ最中である。


 その後はずっと武器屋旅団と一緒だった。


「そういえばそうだねー」

 思い出したようにミクも答える。

「……」

 しかしケンは何も答えなかった。


 それを見てユリは嘆息する。

 このケンという少年は感慨深いとか思わないのだろうかと憤りを覚える。


「先へ行こう」

 ケンはユリの憤りを無視して言った。


 彼自身は旅団から離れた事を、元に戻ったのだと思っていたのだ。

 思い返してみれば、武器屋旅団に着いていったのは成り行きであり、本来は何処の勢力に属さない事を良しとしていたのではないか。


 そんな事を思いつつケンは歩き出した。

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