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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
74/112

74話

 オーバロードナイトと行商人連合の関係。

 その情報を得た事に武器屋旅団団長であるユウコは高揚していたが、時間が経つにつれて冷静になっていった。

 そして、夜には自分の判断は正しかったのかと思うようになっていた。


「だからといって、今更引き返す訳にもいかんだろ?」

 副団長であるアキラが言う。

 隣に座っているユウコは「そうね」と言いながらアキラに身体を寄せた。

 不安なのだろうとアキラはユウコの心情を察する。


 確かに、ユウコは女性としては度胸もあり肝も座っている。

 しかし決して単なる猪突猛進では無く、冷静な部分もあった。


 それどころか、彼女の本質はその冷静さにあるともいえる。

 普段の自信溢れる、見方によっては傍若無人ともいえる言動は団員達を不安がらせない為に行っているのだ。

 旅団のリーダーである自分が不安がったり冷静さを欠けば、それは団員達に伝播して組織としての武器屋旅団が成り立たなくなる可能性がある。

 組織のリーダーは常に堂々としていなければならないというのがユウコの持論だった。


「正直、面倒事に顔を突っ込むのは気が引けるんだけどね」

「何を柄にも無い事を言ってるんだよ。大体、ここにいる奴等は危ない橋ばかり渡ってきた連中だぞ?」

「それはそうだけど……」

「大体、ギジの世界の謎を明かすって張り切っていたのはお前だ。今更怖気付くのか?」


 確かにオーバロードナイトを追うことを決めたのはユウコ自身である。

 というよりも、この武器屋旅団の行動は全てユウコが決めているのだ。団員達はそれに従っているに過ぎない。


「オーバロードナイトはともかく、行商人連合とは俺達も何度か取引をしている上客だ。どうにかなるだろ」

「そうね……」


 ユウコは短く嘆息すると更に身体をアキラに寄せる。

 ここまで弱気なユウコを見たのは初めてじゃないだろうかとアキラは思いながらユウコの肩に手を回した。



/*/



 同じ頃。

 水野ミク、白河ユリ、大高エミリの3人も焚き火を囲んで談話をしていた。


「オーバロードナイト。それを追えば世界の謎、もしかしたら元の世界に帰れるかもしれないって話ですけど……」

 そう口を開いたのはエミリだ。


「そんな気がしない?」

 それに答えたのはミクである。


「はい。行商人連合とかオーバロードナイトとかよく解りませんが、結局は派閥争い……、権力闘争ですよね? 世界の謎って感じはしませんよ」

「まぁ、世界の謎って言うとファンタジーとかSFとかってイメージたけど、それらとはかけ離れているもんねー?」


 ミクはクツクツと笑う。


「でもエミリの言う通りだとも思う。ここまでオーバロードナイトの話を聞けたのに、外の世界に帰る事に関しての話は全く聞けなかったからな。例の要塞にはそんな方法は無いんじゃないか?」


 ユリが言った。理想的な話を好むユリがこのような現実的な話をするとは珍しいとミクは内心で驚く。

 それともこの場合は不安から出るネガティブな意見だろうか?

 そう思考を巡らせるがミクは能天気そうな微笑を崩さない。


「外の世界かー」

 ミクがこの世界にやってきて約3年近くの年月が経った。

 すっかりギジの世界に染まった自分が今更になって外の世界に帰ってやっていけるのだろうか?


「ユリちゃんとエミリちゃんは外の世界に帰ったら何をしたい?」

 埒も無い話だと思いながら尋ねる。


「普通に生活したいです。この世界に来て、退屈で平凡な日常がどんなに良いかよく解りました」

 エミリがキッパリと答えた。


「確かに……。こっちに来なければ私とミクはおそらく大学生活を満喫していただろうな」

 ミクとユリは既に成人を迎えている。

 彼女らがケンと初めて会った時は18歳だったのだ。 

 ミクはユリの言葉を聞いてその事に気付く。


「そうか……。私達はもうそんな歳だったんだね」

「成人式は迎えていると思うよ?」


 2人は溜息をついた。


「年齢が気になるなら、永遠の17歳とでも言ってみては?」

 何処かで聞いた風聞をエミリが提案する。


「それはそれで痛い人だよ」

 ユリ、エミリの提案を却下。



/*/



 ユリやミクといった女性面々が談話している一方で男性陣も焚き火を囲んでいた。

 もっともこの場合は休んでいる訳で無く、見張りであるが。


「問題はこの先の廃墟エリアでしょうね。その先に要塞がある訳ですが、この廃墟エリアが非常に大きいんですよ」


 そう言ったのは先生である。

 先程手に入れた図面を眺めて、更にレーザーライフルなどのパーツを並べていた。


「通常の廃墟エリアなんて面積で言えば5平方キロくらいが平均だが、この要塞前の廃墟は20平方キロはあるみたいだな」

 ケンが言った。

「丸々、1つの都市が廃墟エリアになっている、といったところかなぁ……?」

 そう返すのは加村だ。


「外の世界でも結構な規模ですよ。このくらいだと」

「そんなものですか?」


 加村は外の世界よりもギジの世界にいた時間の方が長いので、あまりピンとこなかった。


「厄介ですね。物資が足りるかどうか……」

 先生が呟く。

 武器屋旅団の物資は少なくなりつつあった。

 しかし、何よりも問題なのが要塞への道中である。


 男から受け取った地図によれば、現在の武器屋旅団の位置からオーバロードナイトの要塞ではそこまでの距離は離れていない。

 だが、そこへ向かうには廃墟エリアを抜けなければならないのだが、この廃墟エリアが通常のものに比べると4倍近くの広さを持つ。


 オーバロードナイトが工場を完全に制圧していないのならば、廃墟にマンハンターが闊歩していることは間違いない。

 おそらく大型種である“ブルタンク”もいるだろう。

 しかし度重なる戦闘で武器屋旅団はこれらに対抗する為の物資が枯渇し始めていたのだ。


「かと言って、物資が補給出来る集落はこの近辺には無いからな」

 最後に立ち寄った集落は和学の村である。

 戻ったところで物資どころでは無いだろうとケンは思う。


「まぁ、武器やそのバッテリーなんかはマンハンターから奪うしかないんじゃないかなぁ?」

 加村が言った。


「それはそうでしょうが、食糧と水は……」

 武器などは確かにマンハンターを倒して奪えば良いのだが、食糧や水となると話は別だ。

 相手は機械である為に倒しても食糧にはならない。


「その辺にいる野犬でも何でも狩るしかないみたいだねぇ。水は……、運次第かなぁ……?」

「どちらも運賦天賦だろ」


 加村の言葉にケンが返す。

 そして3人は前途多難な事に対し、内心で嘆息した。



/*/



 次の日である。

 先生が団長であるユウコに物資不足について報せるとユウコは旅団の脚を止めさせた。

 そして、それぞれ2人から3人のグループに分けると周囲を探索をさせる。

 そこで、採取と狩猟を行わせて食糧と水の問題の解決を計った。


 1日進むと、次の日は脚を止めて採取と狩猟を行う。そして再び1日進んで、次の日は再び脚を止めては採取と狩猟という行程を繰り返しながら進む事にしたのである。


 これによって進む速度こそ遅れるが、同時に食糧の減るスピードも遅らせる事にも成功した。

 途中で雨も降った為に、僅かながらも水を確保する事も出来たのである。


「運が良かったんだろう」

 アキラは後にそう言った。


 しかし、それでも満身創痍になりつつあるのは間違い無く、団長のユウコは内心で焦りを感じていた。


「せめてこれから先の廃墟エリアでそういった物が補充出来ればね……」

 それは高望みし過ぎだろうとユウコは思う。


 そして2週間という期間を経て、武器屋旅団はその巨大な廃墟エリアに辿り着いたのだ。

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