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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
73/112

73話

 それは意外な事実だった。

 都市伝説と言われていたオーバーロードナイトが行商人連合と繋がりがあるとは誰も思わなかったのである。


 行商人連合というのは、名前の通りに様々な行商人が集まって組織化したものである。

 各地域を巡った行商人は定期的に彼らの拠点に訪れ、そこで得られた物資や情報を連合内で交換し合い、更に様々な地域を巡るのだ。

 この行商人連合の拠点は様々な場所にある。ケン達がいたトウの街にも小規模ではあるが、これがあった。


「でもそうなると何でオーバーロードナイトが都市伝説になっていたの?」


 そう尋ねたユウコに男が答える。


「おそらく、お前らの地域の連合は現地の人間が多かったんだろう。全員が全員、行商人連合の本部の人間という訳でも無し」

「そういうもの?」

「後は、本部と連絡が長い間出来なかったんじゃないか? だから支部独自で動いていたんだろう」


 つまりは行商人連合の本部と支部の間で情報のやり取りが出来ていなかったということだ。


 確かに、それまでケン達や武器屋旅団が旅をしていた地域と、この辺りの地域ではかなりの距離がある。

 道中には山もあれば谷もあり、廃墟に入ればマンハンターとの戦闘もあった。


 ギジの世界では外の世界の様にテレビ、ラジオ、ましてやインターネットといった遠距離間で高速による情報交換を行う手段が無い。

 したがって、この世界での情報交換は口語体や誰か記録として残したものが殆どなのだ。

 それらは正確性や俊敏性に欠け、情報としてみるとアテにならないものとなる。

 オーバーロードナイトが都市伝説になったのもそれらの事象が重なった結果なのだ。


「ちょっと待ってください。本部と連絡が取れていないってどういう事?」

 男が言った言葉にユウコが疑問をぶつける。


「あぁ……。今、連合本部とオーバーロードナイトは面倒なことになってるのさ」

「面倒?」

「冷戦とでも言うべきかな?」


 穏やかな話では無さそうだとユウコは顔を曇らせた。


「行商人連合、というよりオーバーロードナイトがマンハンターの工場を見付けたって話は聞いてるか?」

「はい。でも本当なんですか?」

「あぁ、とりあえずはな」


 団員達がざわめく。

 オーバーロードナイトの都市伝説では特に信憑性に欠ける事柄だったからだ。


「だが、見付けただけで完全制圧には至っていない」

「戦場だって話ですけど?」

「そりゃあ、かなり前の話だな。今は戦闘も落ち着いて、マンハンターとは小競り合いがたまにある程度さ」

「制圧はしていないけど、戦闘は落ち着いている?」

「そうさ。工場……、そもそもあれが工場かは知らんが、とにかくそこの上層部はオーバーロードナイトが完全に制圧した。たが、最下層部はまだ制圧出来ていない。だからそこでマンハンターと睨みあっている訳だ」


 男の口から語られる話はどれも衝撃的であった。

 あまりにも突飛な話であり、ケンやミク、加村といった物事を冷めた目で見る事の多い面々は、この男は法螺吹きか何かでは無いかと疑う程である。


「でも睨み合いと、行商人連合本部と連絡が付かないのは関係無いんじゃ?」


 男の口から語られたのはあくまでオーバーロードナイトとマンハンターの睨み合いという事である。それと行商人連合同士の連絡が付かないで、オーバーロードナイトが一部の地域で都市伝説化するのは結び付かないようにユウコは思ったのだ。


「さっきも言った通り、オーバーロードナイトは行商人連合の戦闘部隊が元になったものだ。あいつらは行商人連合の指示で戦闘を行う」


 オーバーロードナイトはあくまで行商人連合の中の組織という事である。


「で、マンハンターの工場を攻撃していた訳だが、戦闘が長引いてな……。いよいよ物資も無くなりはじめて、行商人連合が工場制圧の中止を命じたのさ」


 どんなに規模が大きい組織でも、戦闘が長期間続けば物資は消耗する一方である。

 しかも、この世界ではその物資の補給もままならないのだ。

 その限界点に達した為に連合は攻撃を中止したのである。


「が、問題はここからだ」

 男は肩をすくめた。


「戦闘を中止した連合は、工場の制圧した階層を調査することにしたんだ。何だかんだでマンハンターの拠点だからな。得られる物は多い」

「まぁ、そうでしょうね」

「で、得られた物や技術を使って連合は要塞を作り組織の規模を広げる事に成功した。おそらく、この辺りからだろうな。行商人連合が各地域に拠点を作り出したのは……」


 トウの街やその周囲に行商人連合が現れた時には、既にマンハンターとの戦争は一段落着いていたのだ。


「多分7、8年前くらいだと思うが……」

「意外と最近ね……」


 もっとも、その時にはユウコはギジの世界には来ていない。

 そもそも人死が多いギジの世界では、その位の年月でも、外の世界に比べれば長い歳月に値する。


「で、落ち着いてきた時だ。何時の間にかは知らんが、2つの派閥に分かれる様になった」

「派閥?」

「まるで政治だな」


 組織が大きくなれば派閥というのも出てくるだろう。それを思い、ユウコの隣で話を聞いていたアキラが皮肉を込めて「ふっ」と笑う。


「まぁ、連合を更に大きくしようとする派閥と、工場を再攻撃しようとする派閥だ。当然、再攻撃派はマンハンターの工場を攻撃していた戦闘部隊が殆どだ」


 そこまで聞いてユウコ達は話の行く末の予想が付いた。思わず顔を曇らせる。


「まぁ、大体予想は付いていると思うが、この再攻撃派が所謂オーバーロードナイトだ。奴等は再攻撃を命令しない行商人連合に愛想を尽かして独立勢力になった訳だ。もっとも再攻撃しないだけが独立した理由でも無いがね」

「大方、工場を完全制圧出来ないのは戦闘部隊が悪いとか言いがかりを付けられて、物資をあまり回さなかったとか、そんなんだろ?」

「それに加えて連合が工場から得られたものを独占しているというのもあるがね」


 どうにも行商人連合とオーバーロードナイトとの関係は面倒な事になっているようだと思い、アキラはこのまま旅団を要塞に向かわせるのは危険では無いだろうかという思考する。

 もっともそれを決めるのは団長であるユウコであるし、そもそもこれらの話が真実という証拠も無いとも思ってみた。


「それもあって連合側はオーバーロードナイトとも睨み合いをする事になり、そこに人手を回すようになったおかげで、外に行商をさせる人手が足りなくなったんだろう。おそらく、それが原因でお前達が来た地域と本部で連絡が取れなくなり、それが何年か続いてオーバーロードナイトの都市伝説が生まれたんだろうさ」


 男はそこまで言って溜息をついた。

 明かされた都市伝説の真実に旅団一同はそれぞれ思いを巡らせて黙り込む。


「派閥争いの生み出した都市伝説か……。つまらない話だ」


 沈黙を破ったのは加村だった。


「君もそう思うだろう?」

 そしてケンに同意を求めた。

「……」

 ケンは黙って何も言わなかったが、加村の意見に同意だった。

 苦労して追ってきた結果が単なる派閥争いから生まれたとは滑稽じゃないかと思う。


「まぁ、だとしてもマンハンターの工場や技術には興味があるわね」

 まるで観光名所でも案内されたかの様にユウコが言った。

「おいおい、観光旅行じゃ無いんだぞ」

 それを咎めるアキラ。


「似たようなものよ。どうせ、ここまで来たら戻るのも癪だし、私達にとっては行商人連合とオーバーロードナイトの争いも関係無いわ。なら、要塞とやらを見せてもらうのも乙でしょ?」


 相変わらず、とんでもない事を言い出す奴だとアキラは思った。


「随分、クソ度胸のある団長だな?」

 男はフフンと笑う。

 他人事だからこそ出る笑いだ。


「まぁ、それがコイツの取り柄ですから……」

 やれやれとアキラは頭を振る。

 何時もの事ではあるが、振り回される側としてはもう少し大人しくしてもらいたいと何度も思っていた。


「さて……、私が知っているのはここまでだ。もう満足だろう? さっさと昼寝の続きをしたいんだが?」

 男は頭をかいて言った。


「そうね。ありがとうございました」

 そう言うとユウコは団員達に振り返る。


「さて、情報も得られた事だし私達はこれからオーバーロードナイトの要塞に向かうわ!」


 ユウコは団員全てに聞こえるように高らかと宣言した。

 異論があるのならこの場で言えという彼女なりの意思確認である。

 団員達は特に何も言う事無く、お互いに顔を見合わせたり、「おー」と抑揚の無い声をあげた。

 異を唱える団員は1人もいなかった。


「面白い奴らだ」

 男は1人思う。それは若者の行く末を楽しみに思うものとよく似ていた。


「そうだ。ついでにこれも持っていけ。何かの役に立つ」

 思い立ったように男は紙切れを懐から取り出して、それをアキラに渡す。


 その紙は図面であった。

 直線や円、殴り書きされた単語や文が複雑に描かれている。

「丁度、旅団にはこういった類の専門家がいる。助かりますよ」

「そいつは良かった」

 アキラが礼を言った。


 その後、10分程休憩をとったところで旅団は再び進み出す。

 最後にユウコが男に礼を言おうと思った時には、既にその当人が自宅に引き篭もって昼寝の続きをしていたのでユウコは肩をすくめて何も言わずにその場を立ち去った。

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