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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
72/112

72話

 ヒントは確かに見付かった。

 しかし、それでも事実に辿り着くには未だに遠い。

 結局、その廃墟からは死体以上の痕跡は見付けることが出来ずに、武器屋旅団はその場を去るより無かった。


 そのまま、3日程は何も無い平原を進んだ。

 途中、道から外れた場所に1つだけポツンと建っている掘っ立て小屋を見付けた。


 ただの廃屋か、人が住んでいるのか、遠目からは判らなかったが、少なくとも意に留めるようなものでは無いと通り過ぎようとした時である。

「ちょっと待って」

 と、団長であるユウコが旅団の脚を止めた。


「どうしたよ?」

 アキラが尋ねる。

「あの家、気になるわ」

 指を指してユウコが答えた。


「何の変哲も無い様に見えるが……」

 アキラはユウコの指差した方向を見る。

 ふむ、と思ったのは加村だ。

 自身の狙撃銃こと“物干し竿”を持ち出し、狙撃用スコープを望遠鏡代わりに覗き込む。


「家の側に人影は無いですね。しかし、人は住んでいたか……、いるか? 何か作物を育てているような形跡はありますよ」


 小屋の丁度右側に耕されたような土茶色のでこぼことした地面があった。植物こそ生えていなかったが、間違い無く畑のそれである。


「ま、人がいればこの辺りの情報が手に入るし、いなけりゃあの小屋で休ませてもらえばいいか」


 アキラがそう言い終える前にはユウコは既に小屋に向かって歩き始めていた。

「おい、待てよ!」

 それに気付いて声を上げた時には何人かがユウコの後を追ってアキラの横を通り過ぎた時だ。


 何事も無く小屋の前まで辿り着き、ユウコが扉の前に立つ。

 アキラは無言で団員達に周りの警戒を促した。


「いないのかしら?」


 もし、中に誰かいれば既に気付いているだろう。


「すいませーん」

 扉をノックしてユウコが声をあげた。

 しかし、返答は無く物音も聞こえない。

 小屋の窓はすりガラスとなっており、白いカーテンのような物がかかっている為に中の様子は判らなかった。


「誰かいませんかー?」

 もう一度ノックしてみる。

 すると、部屋の中からガタガタと物を動かすような音が聞こえた。


「悪いが昼寝の邪魔をしないでくれるか? 私はようやく惰眠を好きなだけ貪りながら誰にも邪魔されずに好きな事を出来る生活を手に入れたんだ」


 それは男の低い声だった。

 その言葉を聞いてユウコはただの怠け者じゃないかと顔を曇らせたが、アキラとその後ろに立っていた先生はなんと羨ましい生活だと思う。


「それに、見ての通りそちらが欲しがる様な物資なんぞ置いていない」

 声の主は言葉を続けた。若干の苛立ちが声に出ている。


「なら、この地域の情報とか欲しいんですが」

 何時だかに手に入れた地図は大まかな情報しか載っていなかった。道中で手に入れたものも似たり寄ったりであり、武器屋旅団が現在進んでいる地域の情報は皆無なのだ。


「……少し待ってろ」

 ややあって男が言う。


 しばらくすると小屋の扉が乾いた音を起てて開いた。

 その奥から声の主である男が現れる。


 その姿であるが、中肉中背でロクに手入れもされていないであろうボサボサの髪、眠たそうな半開きの目、裾が伸びてヨレヨレになっている無地の白いTシャツ、下は上と同じ様に使い古されたのであろう紺のジャージ、そして素足にサンダルという、だらしないという言葉を形にしたような出で立ちであった。


 思わずユウコは顔をしかめる。

 それが人に見せる姿かと思ったのだ。


 その一方でアキラと先生は男の格好を不快なものとは思わなかった。

 というのも、休日の男性ならこの様な格好はごく当たり前であり、下手をすればこの様な格好で近所のコンビニくらいは普通に出向くからである。

 中にはこの様な格好で平然と街中を歩き、映画を見て飲食店に入る猛者もいるのだ。

 といっても、流石にそこまでやられると同じ男性でもドン引きする者が多数ではあるが。


 閑話休題。

 男はユウコを一瞥すると「ほれ」と1枚の紙を差し出す。

 それは地図であった。


「この辺りの地図のコピーだ。これで満足だろう?」

 不機嫌そうに男が言う。

 ユウコは「はぁ」と言ってそれを受け取った。


「さぁ、用件は済んだろう? 何処へなりとも行くがいい」

 男はそう言って欠伸をする。


「あー、あと1つ質問が……」

「何だね……?」

「オーバーロードナイトって知ってます?」


 ユウコの質問に男は「あぁ……」と唸ると頭を掻く。


「そりゃあ知ってるが……。アイツらがどうかしたのか?」


 アイツら?

 まるで実際に見聞きした様な言い回しだとユウコは思った。


「私達、オーバーロードナイトの要塞へ行こうと思っているんですが……」

 そのユウコの言葉を聞いて男は「はぁ?」と声を上げる。

 驚きというよりも、それが何だという様な声だった。


「もし、何か知っている事があれば教えて欲しいんですが……」

 どうにもこの男はやり辛いなとユウコは思う。何時もの様に強気でいきたいのだが、何故かそう出来なかった。


「知っているも何も、奴らの要塞に行きたいならここに向かえば良い」

 男はユウコに渡した地図のある場所を指差した。

 何を馬鹿な事をとでも言うような、半ば呆れたような口調である。


「え? ちょっと待って下さい。オーバーロードナイトって実在するんですか!」


 単純に噂話程度でも聞ければ儲け物だと思っていたユウコは、あっさりとオーバーロードナイトの本拠地の位置を教えた男に驚いた。


「当たり前だろう。そんな事も知らないとは、お前ら何処から来たんだ?」

 男はまるで田舎者でも見るかの様な目で旅団の面々を見回す。

「いや、ここからかなり南の方ですけど……」

 自分達がいた地域は辺境なのかとユウコは思った。


「あー、そっちには奴らは行ってないのか? でも行商人連合はいるんだろう?」

「行商人連合? そりゃあよく見ますけど、オーバーロードナイトとどんな関係が?」


 男はやれやれと頭を振る。


「オーバーロードナイトってのは、元は行商人連合の戦闘部隊なんだよ」


 それは衝撃的な話であった。

 思わず、団員の数人が「なんだってー!」と声をあげる。




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