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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
71/112

71話

 妙なものを見付けた。水野ミクの報告にユウコとアキラは、その妙なものが発見された商社ビルに案内される。


 入った瞬間、鼻を突くような腐敗臭に2人は顔をしかめた。

「こっちです」

 ミクの案内で奥に進んで行く。


 建物の内部にはレーザーで焼かれたような後があちこちにあり、ここで銃撃戦があったことを知らしめていた。


 そのまま奥に進んで行く程に腐敗臭も強くなる。そして、とある部屋の前でミクが立ち止まる。

「ここです」

 そう言って2人に部屋の中を見せた。


「これは……」

 部屋の中には3人の男の死体が倒れていたのだ。臭いと崩れ方から死後数週間程は経っているだろう。


「酷いもんだな……」

 アキラは鼻をつまみながら言う。死体では無く臭いである。

「うっ……、ちょ、ごめん……」

 ユウコは腹から込み上がるものを感じて、そのまま立ち去った。


「こんな光景は珍しくも無いだろうに……」

 アキラが言う。

 誰かが自分達より先に廃墟に訪れていて、マンハンターと戦闘になっていれば、死体が転がっているのは珍しいことでは無い。

 それどころか、その死体の持っている物を拝借することで稼ぎの足しにしているくらいなのだ。


「しかし、これの何処が妙なんだ?」

 アキラがミクに尋ねた。

「ほら、皆同じ格好ですよ」

 確かにミクの言う通り3人の死体は全員同じ格好、というより同じ物を着ている。


 それはマンハンターの装甲を利用したのであろう鈍いグレーの鎧だった。

 形だけならケンが身に着けている物と似通っている。


 もっとも、ケンの場合は幾度の戦闘により破損と応急修理の繰り返しで、今や胴体を覆う部分しか残っていなかった。

 しかし、これらの死体は肩当てからすね当て、スカートを模したような腰当てといった部分まであり、まさしく鎧というべきものだったのである。


 勿論、こうした鎧を着ている者はギジの世界では珍しくないが、その殆どはハンドメイドであり、同じ形というのは有り得ない事であった。

 しかし、この3体の死体は全員同じ形の鎧を着ているのだ。

 これは、こうした鎧を複数生産可能な地域が存在する事を意味する。


「これを見て下さい」


 ミクが死体が身に着けている鎧の肩当てを引き剥がしてアキラに見せた。


「こりゃあ……」

 そこには盾とその前でバツの字に交差する2本の剣、その下には“Over Lord Knights”と書かれたマークがあったのだ。

 更に死体をよく見れば、胸当には305という数字も見受けられた。


「どうしたの?」

 口元を拭いながらユウコが現れる。

「これを見てくれよ」

 アキラとミクの説明にユウコの顔はみるみる明るくなっていった。


「やっぱり! オーバーロードナイトは存在したのよ!」

「偽物って筋もあるが?」

「そんなセコい事する連中がこんな鎧をいくつも作れる訳無いでしょ?」


 そういうものだろうかとアキラは思う。


「でも、これ以外に何か手がかりみたいのは見つかりませんでしたよ」

 彼らの持ち物は全て焼かれていた事をミクが伝えた。

「でも、この辺りを進んで行けば何らかの手がかりに辿りつけるのは間違いないわね!」

 ユウコが断言する。


 こうした妙に前向きな性格をアキラは羨ましく思う。少なくともアキラ自身はどちらかといえば後ろ向きな性格であり、物事に対してメリットよりもデメリットの方に目を向ける傾向にある。

 それ故に前向きな性格のユウコの抑えにもなり、旅団を運営していくに当たって均衡がとれているともいえた。



/*/



 オーバーロードナイトの存在あり、その報告を聞いた旅団の面々のその殆どは目を丸くして驚いていた。

 そんなものは所謂、都市伝説の類いであると思う者が殆どだったからだ。


 オーバーロードナイト。

 このギジの世界の何処かでき巨大な要塞を作り、日々マンハンターとの戦闘を繰り広げているというのが世間で言われている噂である。

 更に言えば、その要塞の近くにはマンハンターが生産されている工場があり、その要塞周辺は巨大な組織同士が引き起こした戦場そのものと化しているという話でもある。


 元々、ギジの世界は外に比べると物資の数は少なく、それを手に入れるにはマンハンターが闊歩する廃墟から手に入れなければならない。

 さらに手に入れたとしても、その物資そのものが経年劣化で破損している場合もありマトモな物は中々手に入らないのだ。


 だからといって、新たに物を生産しようと思ったら、その為の設備も必要になり、それこそ廃墟のマンハンターを全て排除して、そこを制圧する必要がある。

 更にそれを維持する為の物資や、外敵からの防衛などを考えれば、途方も無い労力が必要になるのだ。


 それを考えればオーバーロードナイトの話は眉唾物であり、都市伝説と思われても不思議は無い。

 しかも、そのオーバーロードナイトなる者を見たという話もあまり聞かないのだ。

 これでは誰でも都市伝説だと思うだろう。


 しかし、目の前にその都市伝説が事実であるかもしれないという可能性を直視させられ、団員達は脳天に電流を浴びせられたような衝撃があったのだ。


「酔っぱらいの戯言だと思っていんだけどなぁ……」

 そう感想を漏らしたのは加村である。

 それは団員達全員の思いを代弁したものであった。


「勿論、こいつらが偽者という可能性もあるけどな」

 アキラが肩をすくめる。

「そんな事をして、何の得があるのよ?」

 ユウコが尋ねた。

 それに対して、アキラは反論が思い付かない。


「もし、これが本当のオーバーロードナイトならマンハンターの工場も本当の話……、ということになるのかなぁ……?」

 アキラに詰め寄るユウコを見ながら加村がケンに尋ねる。

「……全部が全部、本当の話でも無いだろ」

 確かにオーバーロードナイトは実在するのかもしれない。だからといってそれに関わる全ての話が真実だとはケンは思えなかった。

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