70話
和学の村から出て1週間。
武器屋旅団は廃墟エリアを見付け、そこで探索をすることになった。
しかし、ここでマンハンターとの戦闘になる。
その数は武器屋旅団がトウの街を出てから数人が戦死して29人。
対するマンハンターは35体。
戦力的にはマンハンター側が有利だった。
偵察に出した団員からマンハンターが数の上で有利と聞いた時、団長のユウコと副団長のアキラは黙り込んだ。
「うーん、どうしようか?」」
珍しくユウコが考え込み、アキラに意見を求めた。今まで対峙してきた時に比べると数が明らかに多かったからである。
それまでは大体5、6体が1つの部隊として徘徊しており、やられ次第逐次増援が来るというのがマンハンターの戦術だったのだ。
10体を越える場合は人間の集落を襲う時や大型のブルタンクと呼ばれる機体の護衛ぐらいのものである。
「この辺りはこれが普通なのか?」
やれやれ唸るように言うと、ややあってからアキラが指示を出した。
まず、旅団を射撃が得意な者と近接戦闘が得意な者、更にそのどちらでも無い者の3つの部隊に分ける。
そして射撃部隊の指揮は加村に、近接部隊の指揮は旅団の中でも古株である黒田という男に任せ、そのどちらでも無い部隊の指揮を団長であるユウコと副団長である自分達で執ることに決めた。このどちらでも無い部隊は所謂総司令部みたいなものである。
「じゃあ頼むぞ」
アキラが加村に声をかけた。
その数分後、加村率いる射撃部隊はマンハンターの集団を狭い路地に誘い込む事に成功する。
そこは崩れ落ちた建物の建材や、この世界に飛ばされたのであろう自動車などが障害物となるおかげで数が少ない加村側も何とかマンハンターと射撃戦を繰り広げる事が出来た。
そこで加村は自分の部隊を更に2つに分けて、マンハンターの右翼に3連斉射を行い後退。そして初めの部隊が後退している間にもう1つの部隊が、今度は左翼に3連斉射を行うように指示を出す。
更に左翼攻撃の後にその部隊も後退。その間に先程後退させた部隊が右翼に攻撃。
そうした攻撃と後退を繰り返させ、マンハンターを引き付けたのだ。
マンハンターは左右を交互に攻撃されて足並みを揃えることが出来ず、加村の部隊は被害らしい被害を受けることは無かった。
これには加村の後退と射撃の指示を出したタイミングが的確だった事も大きい。
加村達の攻撃を受けたマンハンターの攻勢が弱まった時を狙って部隊の入れ替えを行ったのだ。
「意外と用兵の才能もあるのかもな」
その様子を近くの建物の屋上から眺めていたアキラが呟く。
「そろそろじゃない?」
隣にいたユウコが尋ねて、アキラも頷く。
「黒田、今だ!」
トランシーバーでそう指示を出した瞬間である。
黒田が率いる近接戦闘部隊がマンハンターの背後を襲った。
それらの部隊は狭い路地の左右にある建材や建物の陰に隠れていたのだ。
加村の部隊はそこまでマンハンターを引き付ける役割を受けていたのだ。
突然の背後からの奇襲により、マンハンターは反撃もままならず撃破されていく。
背後に反撃をしようと振り返れば、加村の部隊が狙い撃ち、そうでない機体は近接戦闘部隊に蹴散らされた。
そして10分も経たない内にマンハンターは全滅した。
「やれやれ、団長も大胆な事を言うものだ」
戦闘後、近接戦闘部隊を率いていた黒田が言う。
「いや、これを思い付いたのはアキラよ?」
若干、不満機な表情でユウコが答えた。
「タイミングが違ったら各個撃破ですからねぇ……?」
加村は皮肉っぽく笑い名指しされたアキラを見る。
「まぁ、奴等は攻撃しながら索敵、みたいな一度に2つの事をするのは苦手なのは今までの傾向で分かっていたし、瓦礫や建物の陰みたいな障害物を盾にした物を見付けるのも苦手なのはケン坊の話で知っていたからな」
苦笑するアキラ。
「それにしても加村の指揮は中々良かったじゃないか? 用兵家とかやってみないか?」
そのアキラの言葉に3人は話を誤魔化したなと思う。
「いいえ、ヒヤヒヤものでしたよ。出来れば、もうやりたくありませんねぇ」
加村は肩をすくめた。
「でも、また何でこんな事をしようと思ったのよ?」
ユウコが尋ねる。
基本的に武器屋旅団の戦い方は突撃、後退、防御といった大雑把な命令の元で、後は個人の好き勝手に任せる事が多く、先程の戦闘の様に幾つかの集団単位に分けて、更にその集団に指揮官を設けて戦うという事は無かったのだ。
つまり、戦略を立てて戦うことが皆無だったのである。
「確かに、武器屋旅団は個人の技量も高くて士気も高い。だが、これから先もこのままでやっていけるのかと思ってな」
「確かに今回の敵の数はいつもと違ったわね」
「それだけじゃ無いさ。何時だかにケン坊の後輩が1人はぐれた事があったろ?」
「エミリちゃん?」
「旅団が何らかの理由で分断された時に、ユウコや俺がいなくてもやっていけるかと思ってな」
それは確かにと、黒田と加村は思った。
何だかんだで、この武器屋旅団は団長である星ユウコという1つの柱を中心にした旅団だ。
もし、それが無くなったら集団として統率された動きが出来るのか?
彼らにはあまり自身が無かった。
「ま、今回は及第点だろ?」
黒田が尋ねた。
「まぁ……、な?」
結果として勝てたのだから、そういう事になるかとアキラは頷く。
そんな3人の元へミクが駆けつけて来た。
「あ、良いですかー?」
気の抜けた声で尋ねる。
「どうしたの?」
ユウコが聞き返した。
「実はさっき妙なものを見付たんですよ」
その言葉を聞いてアキラとユウコはお互いの顔を見合わせた。