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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
7/112

7話

 事件が起きたのはそれから数日が経った時だ。

 その日のケンは仕事が特に無いので、村の中を意味も無くフラフラしていた時に起きた。


 村の住人が慌てた様子で走っていくのを見て、「何だ?」とケンもそれに着いていく。


「何かあったんですか?」

 ケンはざわざわと話し声をあげる人だかりの中にいる男に尋ねた。


「あぁ、田崎の奴が死んだらしい……」

「死んだ?」


 田崎というのはこの村の男である。

 それも、この村では珍しく戦闘が十分に出来る男であり、実戦慣れしたベテランであった。

 ケンもその名前は知っており、何度か会話をしたこともある。もっとも、事務的な会話であり、お互いに同じ村の住人という程度の関係であったが。

 

 人だかりの中心には泣き崩れている眼鏡の少女と、その少女の背中をさすって慰める中年の女が見える。

 その2人はケンが初めて村に入る時に出会った門番2人であった。


 少女の方の名前は“吉岡真帆”。


 年齢は16歳と、この村の中では最もケンに近い歳である。

 ただ、関係に関しては戦死した田崎とさほど変わらず、やはりお互いに名前を知っているだけであった。

 

 ちなみにケンが村で親しくしていた人間は、志村恭平と、その恋人である水野ミク、ケンを助けた張本人である白河ユリである。


 もっとも、ケンから彼らに接触する事ことは少なく、志村やミクとユリの方から話かけられることが多い。

 その辺りの人間関係に関しては、未だに馴染めていないのである。


 繋がりがある人間が誰もいないコミュニティ……、しかも閉鎖的なそれに入ったことを考えれば当然かもしれないが。


 一応、この村の村長もケンのことを悪く思ってはいないようだが、余所者は警戒するという村の特性から、複雑な心境らしい。


「また、女共の発言力が強くなるな……」

「田崎の奴が、クソッ!」

「真帆ちゃんをかばって、何とかここまで来たらしい。あいつらしいよ」

 村の住人は口々に言う。


 ケンは泣き崩れる吉岡の近くで倒れている人影を見止めた。それは田崎の亡骸である。

「私のせいだ……」

 吉岡が泣きながら、そんな言葉を繰り返す。ケンはその吉岡の近くに倒れている田崎の亡骸を見ようと近寄って行った。

 

 すると、いきなり誰かに後ろから手で目隠しをされる。

「見ないほうがいい」

 それはユリの声だった。そういうものかとケンは思って、自分の目を覆うユリの手をどかして振り向く。


「いや、見といたほうがいいと思うよ?」

 ユリの更に後ろからミクが現れて言った。どうやら洗濯の途中だったらしく、大量の衣類が詰め込まれていたカゴを両手で抱えている。

 ミクは「よっと」といいながらかごを下ろして、自分を見ているケンの肩越しに田崎の亡骸を一瞥した。


「ケンちゃんも見といたほうが良いよ。マンハンターに殺されたらどうなるか、それと人が死ぬっていうのはどういうことかを知るためにもね」

「それは……」

 何かを言いかけるユリ。

 

 ミクは右手の人差し指を立ててユリの額を小突く。

「ユリちゃんのいけないところ。そうやって、嫌なものから眼を逸らそうとする。この世界で生き残りたかったら、人の死から眼を逸らさないことだよ?」

 その言葉に黙り込むユリ。


「生き残る為、ですか……」

 ケンはそう呟いて田崎の亡骸に眼をやった。全身をレーザーで焼かれているのか、あちこちが炭化しているかのように黒く焼け爛れている。

 そして臭いだ。肉を焦がしたような鼻をつく臭いに思わず顔をしかめる。

 成程、これでは見ないほうが良いと言いたくもなるな、とケンは思った。


「私たちもこうなるかもしれない。覚えておいたほうが良いよ?」

 ミクが後ろから声をかける。


「いつもと口調が違いますよ」

 ここになって、ケンはミクがいつものような気の抜けるような声で無く、どこか人を突き放すような冷たい声であることに気付いた。


「ほら、私って演技派だからねー」

 ケンの一言を聞いてミクはいつものような間の抜けた声に戻す。その落差にケンはユリが二面性のある人間であることを感じた。




/*/




 その夜、村長の部屋。

 部屋には村長と志村がいた。机の上に置かれた蝋燭の炎だけが2人の姿を照らす。


「女衆はケンを戦闘要員に加えたがっていますか……」

 志村が言う。


「どの道、田崎君の穴埋めは必要になる」

 沈痛な面持ちで村長が言った。その様子を見る限り、14歳の子供を戦闘に出すことにはやはり抵抗があるようだ。


 おそらく、ケンを戦闘に出すと言い出したであろう女衆は中年の世代だ。

 若い人間を戦闘に出して、自分たちは歳をとりすぎたと言い訳をして安全な村に篭っている。全く不愉快な連中だと志村は歯噛みする。


「もっと先に死ぬべき人間はいると思いますがね」

「私だって済まないと思うよ」

「でしょうね」


 村長はどちらかといえばケンに対して好意的である。

 しかし、村の人間……、特にこの村の過半数を占める女衆はケンに対して懐疑的だった。

 それも、過去にこの村を余所から来た賊の襲撃を何度も受けた事と、単純に自分たちの身の保身のためである。


「ミク……、いやユリに何を言われるか……」

 志村は嘆息して言った。


「白河さんか。佐原君を助けた張本人からすれば当然だろうな……」

 村長は椅子の背もたれに寄りかかる。


「とりあえずは分かりました。ただ、戦い方は俺が教えますよ?」

 そう言って志村は立ち上がった

 

「頼むよ」

 村長はそう言って部屋から出て行く志村を送り出した。

 そして、次の日になってケンが戦闘要員に加える事が本人たちに知らされることになる。

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