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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
64/112

64話

「どうやら無事そうだな」

 ケンはエミリの顔を覗き込む。

 そして、逃げ出した者達の姿が見えなくなるのを確認した。


「助かりました……」

 力無くエミリは言う。膝がかくかくと踊るように震えていた。


「しかし、何があってアイツらに襲われていたんだ?」

 ケンは震えるエミリを横目で見ながら尋ねる。

 尋ねられたエミリは一度息を吐いて、今までの事を一気に話した。

 長髪の男に着いて行き、忌々しい食事を取り、解体されていたそれを見付けて襲われたことである。

 ケンはそれを黙って聞いて、全てを聞き終わると話の内容を頭の中でまとめる。


「まぁ、確かにこの辺りは岩ばかりで何も無いし、川も流れが速すぎて魚もいないからな。この辺りを通りかかる奴を食い物にするというのも分からなくは無いが……」


 それにしたって本当にそんな事があるとはと顔をしかめた。


「しかし、ライフルがあれば何とかなったんじゃないか?」

 ケンはエミリが落ちる時に彼女がライフルを持っていたのを知っている。

「部屋から出た時にそのまま……」

 エミリが小声で言う。

 確かにライフルを持っていれば、飛び道具を持っていない彼らもエミリを殺そうとは思わなかったかもしれない。

 そもそもライフルがあれば反撃が可能なのだ。


「ふむ」

 こういうのを平和ボケと言うのだろうかとケンは思った。


「でも、信じられません! あんなの人がする事じゃ無いですよ!」

 エミリが声を上げる。

「どうかな……? 物資を手に入れるのに苦労して、人間を襲ってくる敵だっているんだ。生きるのに貪欲になればああいう行動を取る奴だっているさ」

 ケンは嘲笑するように答えた。

「当然、あいつらの事を肯定する気は無いが」

 更に言葉を付け足す。


「でも、あの人達どうするんでしょう? これからも同じ事を繰り返すんでしょうか?」

 ようやく落ち着きを取り戻しエミリは立ち上がった。尻についた砂埃を払い落とす。

「そうだろうな。あの辺りを通りかかる奴を狙うんだろう」

 何て事も無いかのようにケンが答えた。


「良いんですか? 放っておいたら被害者が増えるかもしれませんよ」

 あまりに無関心な様子のケンにエミリは憤りを覚える。正義感の様なものを持ち合わせていないのかと思い、明らさまにそれを表情に出した。


「たかが数人だろ? それもロクな武器も持っていない。そんなのに襲われる方が間抜けなのさ」

「間抜け?」

「ここにはマンハンターって危険なのがウロウロしているんだ。そんな中を武器も持たずに1人でいる奴は間抜け以外に何がある?」

「この世界に来たばかりの人は?」

「それは……、運が悪かったとしか言いようが無いな。事故みたいなものだ」

「随分理不尽ですね」


 唸るようにエミリが言った。


「そうだろうな。でも俺達がいるのはそういう世界だ」

 エミリの言う事は正しいだろうとケンは思う。

 しかし、それはこの世界では通じないのだ。

 国が違えば言葉も違うように、世界が違えば人の在り方も違うのである。


「それともあいつ等を殺してくれって頼むか?」

 ケンが尋ねた。

「殺す?」

「そうだろう。あいつ等を止めるにはそれ以外の方法は無いだろ?」

 そういえば大分前にも似たような事があったとケンは思う。


 そんなケンの言葉を聞いて、殺しを頼むのかとエミリは自問自答する。

「あの人達がいなくなる事で、もっと多くの人が死ななくて済むならそれも良いと思います」

 先程よりも小声だが、キッパリとエミリは言い切った。

 ケンはそれを聞き、目を丸くさせる。

 思った以上に大高エミリは冷徹な人間だったのだ。


「だったら自分でやれ。俺は直接襲われた訳じゃ無いから、これ以上あいつらに手出しをする理由が無い」

 ケンが同じ人間と戦うのは、あくまで相手が襲って来た時と仲間に危害を加えた時だ。

 それ以外の理由で戦うつもりは無いのである。


 もっとも何時ぞやに獅子王会という一種のヤクザの本拠地に自ら乗り込んだ事もあり、必ずしもそうである訳では無い。

 だが、それは泉という知り合いが拉致されたからであり、その原因が自分にあることから行った事である。


「とにかく、早く旅団と合流するぞ」

 恨めし気な目で長髪達が逃げ出した方向を見ていたエミリの肩を叩く。

「わかりました」

 エミリが言う。すっかり落ち着きを取り戻していた。


「そういえば、どうやってここまで来たんです?」

 落ち着いた事でエミリはそんな疑問が思い浮かぶ。

「なんて事は無い」

 ケンは軽く答える。


 その内容はこうだ。

 旅団は賊徒を全滅させ、その後エミリを探すことにした。

 エミリは谷底に落ちたので、下に降りる道を探そうとしたのだが、ケンがそれでは遅すぎると命綱を付けて谷底へ降りたというのだ。

「ロッククライミングだったけど、途中で踏み外して結局バンジーになったな」

 その時の事をケンは後にそう語ることになる。


「わざわざそこまでして……」

 中学の時、無口、無愛想、無関心な佐原ケンがそこまでして助けに来てくれたのはエミリにとって驚きであった。

「大した事じゃない」

 もっと無茶苦茶な事をやっていたこともあるケンは短く答える。


「さぁ、行くぞ」

 それだけ言うとケンはエミリを連れて旅団と合流する為に歩き出した。その後ろにエミリも着いていく。


 彼らが旅団と合流したのはそれから3時間後であった。

 また、この時の事がトラウマになり、大高エミリはこれから先に渡って肉という肉が食べられなくなったのである。

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