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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
62/112

62話

 何が起きたのか分からなかった。

 立ち上がろうとした瞬間に体が沈み下に落ちたのだ。

 ザバっという音と身動きが取れないくらい強い流れの水流に襲われ、そこで初め自分が谷底に落ちたことにエミリは気付く。

 服に染み込み、靴に入り込んだ水は重石になって体が思う様に動かない。体が沈みそうになり、もがいて何とか頭を水面から出すが、水流が再び体を水底に引きずり込む。

 息が出来ない。酸素を吸おうと口を開ければ、それ以上の水が入り込む。


 手を伸ばして、何かを掴んだ。それが何かは分からなかったが、とにかくそれを使って流れに逆らい何とか水流から抜け出して地面に身体を横たえることが出来た。

 咳をするように気管に入り込んだ水を吐き出す。


「一体ここは?」

 空は既に暗い。

 辺りを見れば黒い岩陰が見えるばかりで、人どころか動物の気配すら無かった。


 エミリは仲間からはぐれた事を悟り、不安になる。

 体が震え、息が詰まりそうになった。


「こういう場合、どうしたら……」

 ギジの世界に来てまだ間もないエミリの頭は混乱する。

 とりあえず濡れた顔と髪の毛を拭って歩き出す。その途中で川岸にレーザーライフルが引っ掛かっているのを見付けて、それを拾った。

 おそらく、先程掴んだ物はこれだったのだろう。谷底に落ちた時に無くしたと思っていたが、何かの拍子でその場に落ちていたらしい。


 ため息をつく。

 すると、背後からジャリジャリと音が聞こえた。足音である。

「誰?」

 もしかして旅団のメンバーかと思い振り向いた。


「うわっ! 撃つなよ!」

 そこには肩までかかるくらいの長髪の男が立っていた。手には鉄パイプの先にナイフを縛り付けだ手製の槍を持っている。

 エミリが持っているレーザーライフルに驚いたようだ。


「全く、何なんだお前は?」

 エミリが銃を下ろし、それに安堵して男が尋ねる。

「あ、仲間とはぐれて……」

 エミリは賊に襲われたこと、その戦闘の最中に谷底へ落ちてここまで流されたことを説明する。


「なるほど、あいつらだな……」

 賊に思い当たる節があるのか男が言う。


「知ってるんですか?」

「ああ。あいつらがこの辺りを通る行商人を襲うから俺達は物資が中々手に入らないんだ。この辺りは見ての通り荒れ地だからな」


 男に言われてエミリは辺りを見回す。

 確かに岩ばかりあって、動物や植物の気配も無かった。


「とにかく、ここにいたら危ないだろう。もう夜も更けてくる。俺達の住んでいる家に来ると良い」


 是非も無い。

 エミリは喜んでそれに応じた。良い人に巡り会えたと思う。



/*/



 男の住んでいる家は周りを岩やトタン板で囲われている以外にはごく普通の2階建ての木造住宅だった。

「帰ったぞ」

 男が玄関に入って言う。


 すると、中から女が現れた。年齢は30半ばくらいだろう。

「その娘は?」

 女が尋ねる。


「あぁ、あいつらに襲われて仲間とはぐれたらしい」

 男が答えた。

 女は男とエミリの顔を交互に見て頷く。

「あら、それは大変だったわね。食事を用意するわ」

 エミリを見た女は微笑んで言った。


「ありがとうございます」

 この世界では物資は少ないと聞いていたが、他人である自分に快く分けてくれるなんてとエミリは喜んだ。

 思ったより酷い世界では無いんじゃないかとも思う。


 エミリは家のリビングに通された。

 そして、この家には4人の男女が住んでいることを知る。


 先程の長髪の男に坊主頭の男。中年の女に、髪の毛を後に引っ詰めた若い女。

 皆、エミリを見て同情の言葉を口々に言う。

「でもここなら今夜は安全に過ごせるわ」

 引っ詰め髪の女が微笑んだ。

「ありがとうございます」

 エミリは礼を言う。


「さぁさぁ、出来たわよ」

 奥から中年の女が皿を持って現れた。その皿には串に刺さっている肉がいくつも積み重なっている。

 裸電球の小さな灯りのせいか、影のある串焼き肉はあまり美味しそうには見えなかった。


「スマンな。これくらいしか出せるもんが無い」

 坊主頭がエミリに謝る。

「いえ、まさかお肉が食べられるなんて思っていませんでした」

 エミリはそう答えて天井に取り付けられた電球に目をやった。この世界に来て、灯りといえば火であった為に珍しいと思ったからである。

 そして電球から伸びるコードを追いかけ、その最終点にある四角い鉄の箱のような物をに行き当たった。


「あの箱は?」

 それが何なのかと尋ねる。

「あれは、マンハンターのバッテリーさ。あのロボットを長時間動かせるんだ。結構な容量なんだぜ」

 長髪が答えた。

「もっとも最近はあいつらのせいでバッテリーが手に入らないから、あまり使えないがな」

 今度は坊主頭がムスッとした顔で言う。

 旅団を襲ってきた奴らかとエミリは思った。


「さぁさぁ、食べて食べて」

 陽気な声で中年女が言う。テーブルの中央に皿が置かれた。

「まぁ、あまり良い肉じゃなかったが食べないよよりかはマシだ。食べると良い」

 長髪がカカっと笑いながら肉を勧める。


「じゃあ……」

 エミリは遠慮がちに串焼き肉を手に取った。久し振りに嗅いだ肉の匂いである。

 そして口に運んだ。


「うん……?」

 筋張って固い。そして僅かに酸味があった。何の肉だろうと思う。

「これ、何の肉ですか?」

 肉を飲み込んで尋ねる。

 次の瞬間、胃の中に流し込もそうとした肉が逆流した。

 喉に詰まったとか、むせるとかいう感覚とは違う。生理的な不快感だった。


「ゲホッ! ゲホッ! すいません……」

 咳をしながら言う。

「あぁ、大丈夫?」

 引っ詰め髪の女がエミリの背中を擦る。


「やっぱ、駄目だな。この肉」

 頭を振りながら坊主頭が言う。そして串焼き肉を食べて顔をしかめた。

「奴等の肉だからな。状態が良くない」

 長髪が答える。

 どうやら、この肉は先程まで話していた賊から奪ったかしたものらしい。

「苦労したんだけどねぇ」

 中年女がため息をつく。


「無理しなくて良いわよ?」

「いえ、せっかく出して貰ったですから」


 エミリは好意で出してくれた食事を残すは無礼だろうと思い、再び肉を囓る。

 再び強い不快感を覚えるが、それを押し込んで何とか飲み込めた。


 そして食事を終えた後、エミリは久し振りに屋根のある部屋で睡眠をとる事が出来たのである。

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