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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
60/112

60話

 武器屋旅団はその日、川に沿って進んでいた。

「古代3大文明はどれも河を基盤にしているの。だったら川に沿って進めば街があるはずよ!」

 とは、ユウコの談である。


「川ってもなぁ……」

 アキラが呟く。

 それは川と言うより、谷であった。

 眼下6メートルはあるだろう。

 かなりの勢いで流れている水流が谷底に見えた。

 その周りには大小様々な岩が立ち並んでいる。


「何だか、岩山の中を進んでいるみたいですね」

 団員の1人が言った。

「実際、そうみたいだ」

 加村がこの周辺の地図を見せる。それは先日、例の工場で見付けた物の写しであった。


「もう少し楽な道は無いのかよ」

 団員が口を尖らせる。


 それと同時だ。

 突如、その団員の頭はレーザーで撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちる。


「敵だ!」

 加村が叫ぶ。

 同時に弾幕。


「何だぁ!」

「撃たれたぞ!」


 団員達が叫び、その周りをレーザーが飛び交う。


「反撃は良い! まずは隠れろ!

 アキラが叫び、団員達は各々近くにある岩陰に隠れた。


「一体何なんです!」

 エミリは全く状況の判断が出来ていない。そんな彼女をケンは無理矢理岩陰に押しやる。


「襲撃だ」

 短く答えて同じ岩陰を背に周りの様子を伺う。

「お邪魔します」

 そこへ先生も飛び込んでくる。

 ケン達が盾にしている岩はそれなりに横幅があり、3人は余裕で隠れることができた。


「わ?」

 エミリのすぐ後ろでバチっという音が聞こえた。

 岩の横幅は大きいが背丈は低いのだ。


「頭焼かれたく無いならもっと姿勢を低くしろ」

 ケンが舌打ちをしながら言った。


「一体何なんです?」

 姿勢を低くして、頭を抱えながらエミリが尋ねる。

「敵だよ」

 ケンは短く答えると岩の上から手だけを出して“でんでん銃”のトリガーを引きながら左右に振った。牽制の弾幕である。


「マンハンター?」

 エミリが再び尋ねると敵側のレーザーがケンの手を目掛けて飛んで来た。すぐに手を引っ込めるケン。

「いや、奴らは奇襲はするが、隠れるということはしない。同じ人間だろうな」

 そう言って“でんでん銃”を握る手を眺める。レーザーが少し掠めたらしい。


「人間同士で?」

 エミリが驚く。

「別に珍しい事じゃない。この世界じゃ物資は限られているし、国や政府、司法機関なんて無いんだ。だったら好き勝手にやる奴だっているだろ?」

 かつての自分も人類共通の敵がいるのに、同じ人間同士で戦うことに驚いた記憶があったなと思う。


「繋がりました」

 先生が顔を上げて言った。通信機の準備が完了したのだ。


《皆、無事?》

 通信機からユウコの声が聞こえた。


《無事です》

《見ろよ! こいつレーザーで髪の毛焼かれて逆モヒカンだぜ!》

《俺の大切な髪がぁっ!》

《冗談やってる場合か!》


 それぞれ団員達の声が通信機から聞こえる。


「あの、1人撃たれたのは……」

 エミリが思い出したように、先程撃たれた団員のことを尋ねる。彼の死体は先程まで旅団が進んでいた道の真ん中に倒れていた。


《頭を撃ち抜かれてた。即死だな》

 ザッという短い音の後に加村が答える。

《そう……》

 次に低く残念そうなユウコの声。そして沈黙。


「死んだって……」

 驚いて目を見開くエミリ。

「あっさり死ぬと思うか? この世界じゃそれが普通さ」

 あまりにも人が簡単に死んだことに驚きを隠せないエミリにケンが声をかけた。

 自分もかつてはそうだったと思う。


「納得しろとは言わない。ただこの世界ではこれが普通だ」

 かつて自分も同じ事を言われことを思い出し、同じ事をエミリに言った。何だか妙な感じだと思う。


「俺も納得していない……」

 そして言葉を付け足した。


《それより敵は何処にいるのかしら?》

 今度は泉の声だ。トウの街で食堂を開いていた中年の女である。


「おそらく俺達より高い位置にはいないだろう。もし、いたら俺達の隠れている岩の高さじゃ狙い撃ちされる」

 ケンが通信機に答えた。

「おそらくグレネードも無いと思いますよ」

 それに続いて先生も言う。


《姿を見せずいることから、人数も少ないと見るな》

 今度は副団長であるアキラの声だ。


《どうしたものかね?》

 通信機からそんな声が聞こえ、辺りは静かになる。今の状況をどう打開すべきか思考を巡らせているのだ。


「……」

 ケンは辺りを見回して膝を動かす。

《おい、ケン》

 次の瞬間、通信機からユリの声が聞こえた。

《自分が囮になるとか言うなよ》

 ケンが顔を曇らせる。

《ククッ。見抜かれているみたいだね》

 嘲笑する加村の声がした。

「援護射撃が下手な奴がいるからだろ」

 それに対してケンが皮肉を返す。


 しかし敵の姿が見えない以上、迂闊に囮として敵の前に姿を出すのは確かに分が悪い。


《しかし、そうなるとどうしたものか?》

 アキラが呟く。

《白旗でもあげるかねぇ?》

 それに対して泉が返す。


「やってみましょうか? 白旗ならありますし」

 通信機にケンが言うと、自分の荷物を漁り出した。そして60センチほどの木の棒を取り出してそれに合ったサイズの白い布を縛り付ける。


「何処でそれを?」

 本当に白旗を振るのかと先生が驚きながら尋ねた。

「競闘のです」

 ケンが答える。

 その白旗は競闘で降参の意思表示に使う物だった。

 以前、ケンが武器屋旅団と競闘の試合をした時につかったものである。


「振りますよ。見ていて下さい」

 そう言うとケンは白旗を岩の頭から出して左右に大きく振った。


 ややあってレーザーがケン達の盾になっている岩を焼く音が聞こえた。ケンはそれを確認して白旗を不規則に振る。そして何度か岩が焼かれ、いよいよ白旗にレーザーが命中した。

 そしてケンはレーザーで真ん中に穴の開けられた白旗を放り投げる。


《降伏は無いみたいね》

 ユウコの声だ。

 

「でも分かった事もありますよ」

 ケンは通信機に言う。


《言ってみ》

 再びアキラの声がする。

「まず、狙撃手は大した腕じゃ無い。何発か外している。少なくともユリさんより射撃が上手いって事は無い。初めの射撃は立ち止まったとこをたまたま当てただけでしょう」

 加村やユリなら一発で白旗を撃ち抜くだろう。しかし、敵は何発も撃って、ようやく当てていたのだ。


《ついでに今ので狙撃手の場所は大方見当がついたよ》

 今度は加村である。彼は白旗を敵が撃ち抜く事を予想して辺りを観察していたのだ。


《流石!》

 ユウコの感嘆する声。

 そして再び通信機越しに団員が打開案を話し始める。


 それを見ていたエミリは、仲間が死んでいるのに彼らは何故冷静でいられのかを疑問に思っていた。

「随分冷静なんですね」

 思わず先生にそう言った。


「まぁ、慣れもありますが、今はこの状況をどうにかしないといけないですからね。仲間の死を悲しむよりも生き残ることを優先しているんですよ」

「人が死ぬのって慣れるんですか?」


 エミリが驚く。


「慣れますよ。どんなものでも、それがずっと続けばね。この世界では人が死ぬのは珍しい事じゃありません。まぁ、外の世界でも人は死にますが、この世界ではその頻度がたかいですからね」

「危ない世界ですね」

「どうでしょう? 人の死が身近に無い分、死について意識しない外の世界も、こことは違う意味で危ないかもしれませんよ?」

「どういう意味です?」


 エミリが尋ねると同時に作戦が決まったようだ。ケンが通信機から顔を離す。

 それを見た先生が自分の顎を撫でてエミリを見つめた。


「そうですね。貴女がこの世界にもっと馴染めば分かるようになると思いますよ?」

「答えになってません」

「死ぬ事が身近にあるから生きる実感も感じることが出来るということですよ」


 その答えの意味が分からずにエミリは「はぁ?」と声をあげる。

 そんなエミリを見ながら先生は思った。


 このギジの世界は地獄だ。

 でもそんな地獄の中だからこそ見えるものがある。それは何処にでもあるものなのだが、普段はとても見え辛いものなのだ。

 それに気付かせてくれた、この地獄を先生は気に入っていた。


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