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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
6/112

6話

 ギジの世界と呼ばれる異世界。何時から存在するのか、そもそもここはどういった世界なのか、その全てが謎の世界。


 そこに住む人々は、ある日突然この世界にやってきたという。


 そこには、マンハンターという人間を襲うロボットが存在しており、人々はその脅威に怯えながら生活をしていた。


 何もかもが違うこの世界であるが、人間というのは不思議なもので、そこに動物や植物などがあれば、それらを食糧や道具として利用することで生きていくことができるのである。


 その内に人々はマンハンターから武器を奪って、これに対抗するようになり、マンハンターが徘徊している廃墟の町から物資をかき集めて生活の糧にしていた。


「人間、生きていこうと思えばどこでも生きられるもんだ」

 とは志村の談である。




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 そんな世界のとある村にケンが生活するようになって2週間が経過した。

 その2週間の間にケンはこの村の特徴のようなものを理解する。


 まず、この村は女の発言力が強い。

 理由としては、男の人数が少ないからである。

 そして、その少ない男達も五体満足な者は少ない。


 当然ながら、それはマンハンターとの戦闘のせいである。


 戦いは男のするものというのは何処の世界でも同じな様で、異世界の中にあるこの村でも戦闘は男が率先して行っていた。


 その結果として、ある者は戦死し、ある者は負傷で戦えない体になる。

 そのうちに男の人数は減り、代わりに女が戦闘に駆り出される事になった。


 それにより、徐々に村の女衆の発言力が強まって今に至るのである。


 次の特徴は、この村は余所者をあまり好ましく思っていない。

 それもそのはずで、この村はかつて余所者の襲撃を何度か受けたことがあるのだ。

 いわゆる賊と呼ばれる輩であり、物資に恵まれていないギジの世界では、こういった存在は珍しくは無い。

 

 その時の事もあり、この村の人間は余所者に対してあまり好意的ではないのだ。


 また、志村とミクも元々この村の人間では無く、当初は住人から冷遇されていた。

 しかし、何度も戦闘をこなし、襲撃してきた賊を撃退するなどしていくうちに、彼らは村の住人として受け入れられることになる。


 もっとも、その戦闘で志村は左腕を失い、まともに戦えなくなったことも彼が村に受け入れられた理由の1つでもあったのだが……。


「気に入りませんね、そういうの」

 それらの話を聞いたケンが言った。


「だろうよ。だが、仕方ないっちゃあ仕方ないのさ」

 そう言って志村は自分が冷遇されていたときのことををしみじみと思い出す。


「仕方ない?」


 ケンは作業をしていた手を止める。

「それだけこの世界が荒んでいるってことさ」

 志村は嘆息して言った。それを聞いて黙り込むケン。そういうものだろうかと志村の話に疑いと憤りを持つ。


「おーい、手が止まってるぞー」


 志村に言われて「おっと」と声を出すと再びケンは作業を開始した。

 ジャガイモの皮むきである。2人は料理当番なのだ。


 その時である。厨房の出入り口の方からドタドタという音が聞こえてきた。

「やっほー」

 間の抜けた声。水野ミクである。


「おかえり」

 志村が鍋を見ながら手を振って返答した。鍋の中には野菜と鶏肉のスープがグツグツと煮込まれている。材料は全てこの村で作られたものだ。


「美味しそうだねー」

 ミクは鍋を覗き込む。

「味付けはケンがやった」

 志村が言うとケンは「フフン」と笑い、皮を剥き終わったジャガイモをざるの中に放り込んだ。

「料理同好会に入ってたんで」

 ケンが言った。


「あぁ、お前の料理は評判良いよ」

 お世辞では無い。

 当初は中学の料理同好会でやるような料理と、物資が少ない上に食材も限られてしまうこの世界の料理とでは勝手が違う事もあり、そんなものが役に立つものかと村人からは思われていたのだ。

 

 しかし、どういう訳かケンはその辺の事をうまくやりくりして、少ない食材と手間で美味い料理を作り、村人たち、特に男衆か高評価を得ていた。

 同好会を楽して早く終わらせる事ばかり考えていた結果というのが本人の談である。


「キョウは料理苦手だもんね」

 ミクが言った。

「無理言うなよ。こちとら片手しかないんだ」

 そんな志村とミクのやりとりを見ながら、ケンは初めて料理同好会に入っていて良かったと思った。

 どうでもいい事が変なところで役立つものだ。


「欲を言えば、もっとマトモな調味料が欲しいですね」

 そう言うとケンはあまり物が置かれていない調理棚を一瞥する。

「それは……、難しいかな」

 ミクが苦々しい顔で答えた。


「この近くの廃墟は既に物資を取り尽くして、何も無いからな」

 そう言ったのは志村だ。それを聞いたケンはミクを見る。

 ミクはタクティカルジャケットにレーザーライフルを抱えていた。

 彼女は先程、その何も無い廃墟の探索から帰ってたばかりである。


「その割には定期的に廃墟に行ってますね?」

 ケンはつまみ食いをしようとしていたミクの腕を払いのけながら尋ねた。


「あぁ、俺たちの使っている武器は元々マンハンターの物を奪ったものなんだ」

 志村が答えて竃の火を止める。


「そのせいもあって、俺達ではこれらの武器を修理することが難しくてな。定期的に奴らを倒してその武器を奪わないといけないんだよ」

 つまり、敵を倒す為の武器を奪う為に敵を倒しに行くという事だ。

 全くもって妙な話だとケンは思う。


「後は牽制の意味合いがあるな」

「牽制?」

「そうだ。定期的に俺達が廃墟に行けば、奴らは廃墟を警戒してそこから動かなくなる。そうなれば、奴らがこの村を襲ってくる可能性が減る訳だ」

 志村がそう説明する。


「マンハンターって、たまーに廃墟の外へ移動して、人間の集落を襲ってくることがあるからねー」

 ミクが鍋の周りをウロウロしながら言った。チラチラとケンと志村が作った料理に視線を向ける。

 それを見た志村が半ば呆れながら、「もう少しだから待て」と言う。

「厄介な話ですね」

 ケンが言った。


「全くだよ」

 志村が同意する。

「その厄介の相手をしてきたんだから、そろそろ食事にしてくれないかなー?」

 ミクが待ちきれないとばかりに、厨房をウロウロと歩きながら言った。

 それを見た志村とケンの2人は顔を合わせてため息をつく。


「あぁ、じゃあ皆を呼んでください」

 ケンが呆れた声で答える。


「やったぁ!」

 ミクは指を鳴らして1人で喝采した。そのまま勢いよく厨房から出て行く。食事の時間の住人を呼びに向かったのだ。


「志村さん、何であの人と付き合っているんです?」

 ケンが尋ねた。


 そう、志村恭平と水野ミクは恋人同士なのだ。


 もう少し正確に言うと、2人は同じ頃にギジの世界にやって来て、同じ集落で一緒に過ごしていたのである。

 その集落は、今過ごしているこの村よりも遥かに貧しく、マンハンターや賊との戦闘が耐えない場所であった。

 志村とミクの2人は、その中で共に助け合い、時にはお互いの命を背中に預けあっていたのである。

 そうしていく内に2人はいつの間か、戦友とも、兄妹とも、恋人ともいえる仲になっていったのである。


 しかし、そんな2人がいた集落もマンハンターの襲撃を受けた事によるトラブルから内紛に発展、2人を残して全滅してしまう。

 何とか助かった2人は、あちこちを彷徨ってこの村に辿り着き現在に至るのだ。


 だが、しっかりして落ち着いている志村に対して、ミクはおっとりしていて能天気に振舞っており、2人の性格は正反対に見える。

 にも関わらず2年近くも、お互いに背中を預けあっていたというのがケンには信じられなかった。


「いや、あれでいてミクはしたたかなところがあるからな。まぁ、何と言うか腹黒だよ。頼りにはなるけどな」

 志村はミクが出て行った方向を見ながら答えた。

「腹黒ですか?」

 ケンは疑いの眼差しで志村を見る。ケンは、ミクがいつも間の抜けた声で「あははー」とか笑っているような人間にしか見えないからだ。

 しっかりしているというのなら、自分を助けてくれた白河ユリのがしっかりしているように思えた。


「誰が腹黒なのかなー?」

 厨房の出入り口からミクが顔を覗かせながら言った。

「ぎゃあ!」

 2人は驚いて叫び声を上げた。どうやら、ミクはまだ厨房の出入り口付近にいたようだ。

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