表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
59/112

59話

 かつての後輩である大高英美里が来てから、ケンにとって面白くないことだらけだった。

 彼女はお喋りな性格であり、ケンの過去を仲間に話して回っていたからである。

 特に、ミクやユリはその話に特に関心を示していた。加村もそのことでケンをからかうようになった。


「好奇心猫を殺すって知っているか?」

 あまりにしつこい団員にはそう言って銃口を向けることも珍しくない。


「君の場合は過去が殺しに来る感じじゃないかなぁ……?」

 加村がクツクツと笑う。


「過去が殺しに来る……。大人では本当にある話ですね」

 加村の横で先生が言った。メガネのレンズが光を反射して光る。


「ん?」

 加村とケンの2人は先生を見る。


「まぁ、貴方達には分からないでしょうが学校の勉強とかそうですよ」

「どういう事です?」


 疑問に思い、尋ねたのはケンだった。


「貴方達は学校の勉強なんて意味の無いものだと思っているでしょう?」

「まぁ……」


 外の世界で同じ事をケンは常々考えていた。こんなくだらないことより、もっと社会に出て役に立つことを教えるべきだと彼は思っていたのである。


「そう思って勉強していないと、社会に出て大変な目に会いますよ」


 そう言った先生の後ろから団長であるユウコがひょっこりと姿を現した。


「だって学校よりも社会に出てからの方が勉強すること多いしね」

 そう言って苦笑する。どうやら一部始終を聞いていたようだ。

「それを初めから学校で教えて欲しいと思うんです」

 ケンはそう言うと、この世界では意味の無いことかもしれないかと内心で思う。


「無理、ってことは無いけど難しいわね」

「何故です?」


 当然疑問に思うケン。


「まずは学校にどうして通わないといけないかを話す必要があるわね」

「こればかりは社会に出ないと分かりませんからね……」


 ユウコの言葉に先生が頷く。


「確かに学校で習う勉強そのものには意味が無いわ。でも勉強をしたという経験はそうでも無いの」

「経験?」

「勉強の仕方ね。どうやって単語を覚えたとか、どうやって素早く正確に計算を出来るようになったとか、人に分かりやすく物事を説明する方法とか……、そういうのは実際にやってみないと分からないわ。それを目に見える形で身に付けたかどうかがハッキリ分かるのが学校の勉強よ」

「分かるような、分からないような……」


 ケンが頭を傾けた。


「効率よく物事を覚える方法ってことですかねぇ?」

 そう言ったのは加村である。

「そうそう! それそれ」

 手を叩いてユウコが声をあげた。


「これが出来ないと、仕事も覚えられませんからね。というか、仕事を教える場合って、その人は仕事の時間を削って物事を教える訳ですから、これが出来ないと困るんですよ」

 そう言ったのは先生だ。

「まぁ、教わる側も同じですがね。効率よく仕事を覚えられず、周りに迷惑かけて総スカンなんてことも……」

 そこまで言ってため息をつく。

「ここで、初めて学校の勉強をしっかりやっとくべきだったと後悔するんですが、もう後の祭りです。過去の勉強していない自分に殺される訳です」

 やれやれと先生は頭を振った。


「何にせよ、それは外の世界の話だ。このギジの世界では関係無い話ですね」

 このギジの世界で必要なのは勉学では無く、生きる為の術と武器の扱い方だとケンは思う。


「それは分からないわよ? 関係の無い知識や知恵が意外な所で役に立つことだってあるんだから。メンデルがえんどう豆から遺伝子を閃いたようにね」

 一見すると全く関係の無い事柄のように見えて、意外なところでそれが繋がっているという事はよくある話だ。

 ユウコは外の世界にいた時に、それをよく経験していた。


「そういうものですか」

 実感の無いケンは無表情に答える。


「先輩!」

 後ろから大高英美里ことエミリの呼びかける声が聞こえた。

 そら来たと言わんとばかりにケンの頬が引き攣る。



/*/



「……なんて話がありましたよ」

 その夜だ。焚き火を挟んで向かい合いながら先生と副団長のアキラが話をしている。


「社会人として外の世界にいた俺達には耳の痛い話だ」

 アキラが苦笑する。

「全くですね」

 それに同意する先生。


「将来、少しでも苦労しないために若い内に苦労する。まぁ、結局苦労する訳だが、今も将来も苦労苦労って嫌な社会だな、おい」

 やれやれとアキラが頭を振る。

「この世界はどうです?」

 先生が尋ねた。


「頭使わなくても、武器さえ使えればどうにかなるっていう意味なら楽は楽だが、結局は命張る訳だから苦労することは変わらんな」

 そう答えて焚き火に木の枝を放り込んだ。パチパチと音をたてる。


「あ、そうなると人間、どんな世界に行っても苦労することは変わらないな。何だそりゃ? 何時になったら人間は楽になれるんだ?」

 ややあって言う。


「死ぬまで苦労しかないって事ですかねぇ」

 先生がフッと笑う。

「冗談だろ」

 同じようにアキラも苦笑した。

 どうにも人間というは楽をして生きることは出来ないようだと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ