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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
58/112

58話

 武器屋旅団が旅団がオーバーロード要塞を目指して数日が経った。

 しかし、未だにそれに繋がるようなものは見当たらず、移動、探索、戦闘を繰り返しているだけである。


「こっちは片付けた」

 倒したマンハンターの頭を踏み付けながらケンが言った。

 今、武器屋旅団は廃墟エリアで探索をしている。


「仕事が早いね」

 加村がそれに答えた。

「他に出来ることが無いからな」

 そう言って足元に転がるレーザーライフルを拾う。


「敵と戦うしか無いって、ことかなぁ……?」

「アンタも似た様なもんだろう?」

「他にやる事といえば、ショボい博打くらいだからなぁ……」

「この世界じゃ、そうもなるさ」


 無表情に言ったケンに加村は肩をすくめて見せた。


「きゃああああっ!」


 2人の背後から甲高い叫び声が聞こえる。それは女の声だった。

 しかし聞き覚えの無い声だ。

 そう思いながらも2人は叫び声の方に走り出す。


「ひぃっ!」

 声の主であろう女が走っているのが見えた。

 マンハンターに追われているのだ、

 それを見止めると加村は足を止めて“物干し竿”を構える。ケンはそのまま走りながら“でんでん銃”を乱射した。


「追っているのは1機だけだ!」

 ケンが叫ぶ。

「オーケー」

 銃口を僅かに上に向けて加村が答えた。援護は必要無いという事である。


「……!」


 マンハンターの背後に回り込み、ケンはもう一度“でんでん銃”を撃つ。

 命中。

 マンハンターはそのまま前のめりに倒れ込んだ。


「え……?」

 女が振り返りそれに気付く。

「無事なようだな」

 ケンが声をかけた。


 女の年齢はケンと同じくらいであり、クリクリとした大きい眼に、黒い髪を後ろでまとめている。

 その大きな眼はケンをじぃっと見詰めて動かない。


「初心者……?」

 女は白いワイシャツの上に黒いベストを着て、グレーのスカートを穿いていた。その妙に小奇麗な服装からケンは思い付いた言葉を口にする。


「どうかしたのかなぁ?」

 加村が尋ねた。

「いや……」

 キョトンとしている女を横目にケンが答えにならないことを言う。


「ん? 随分綺麗な格好だね」

 加村も女の格好に気付く。

「学校の制服だろう」

 女の格好は学校の制服そのものであり、今まさに学校から帰ってきた様でもある。


「先輩……?」

 女が小さく呟く。

 2人はそれに反応して女を見た。


「やっぱり! 佐原先輩!」

 女は喝采するような声をあげた。


「何?」

 佐原という名前にケンは怪訝そうな顔をする。確かに、自分の苗字は佐原だったからだ。

 最近は下の名前で呼ばれる事が多いので若干忘れかけていたが……。


「知り合いかい?」

「いや……?」


 ケンは女の顔を見る。

 ぼんやりとだが、何処かで見た覚えがある顔だ。


「忘れたんですか? 同じ同好会じゃないですか!」

 女は信じられないとでも言うような刺々しい視線でケンを見た。

「同好会……?」

 その言葉で記憶がフラッシュバックする。

 外の世界の記憶だ。

 確かに彼女は自分の後輩だった。


「そうですよ! 大高英美里です!」

「あぁ!」


 大高英美里と名乗った女に同調したようにケンは声をあげる。

 だが、実際の所は彼女が後輩であることは思い出したのだが、名前はここで初めて知ったのだ。

 ケンにとって外の世界の料理同好会など、楽しい思い出では無かったからだ。


「一体、何なんですかここ? どうして先輩はそんな格好なんですか?」


 訳の分からないものから襲われるという恐怖から開放されたからか、マシンガンのように質問を連発する。


「順序立てて説明する。黙って着いて来い」

 面倒臭いと思いながらケンが言う。

 自分もこの世界に来た時はこんな感じだったのだろうかと思った。



/*/



「ギジの世界……? 異世界……?」

 旅団の全員が集まり、その中心で大高英美里は説明を受けた。

 あまりに突飛な話に驚きの表情をする。


「そんな……! 信じられない……!」

「だろうな」

「私、帰らないと……! 帰る方法は……?」

「さぁな。俺も知りたいもんだ」

「そんな……」


 大高英美里はそのまま力無くしゃがみ込む。

 不安と絶望に全身を震わせて唸り声をあげる。


「大丈夫、大丈夫だから」

 ユウコがそう言って大高英美里の肩に手を置いた。

「お前も何か言ってやれよ。後輩なんだろ?」

 先程から冷たい態度をとり続けるケンにアキラが言う。ケンは頷くと一歩前に出る。


「まぁ、俺らに着いて来れば死ぬ確率は減る。それに帰る方法も見つかるかもしれない」

 その冷たい言葉にアキラは額に手を当てる。もっとマトモな言葉があるだろうに、と思った。

「そうよ! 私達はこの世界の謎を解き明かそうとしているの! だから帰る方法も見つかるかもしらないわ!」

 ケンの言葉にユウコも乗る。


「もう少し気の利いたことは言えないのか?」

 アキラが小声でケンに呟く。その声はケンには届かなかった。


「だから、エミリちゃんだっけ? 私達と一緒に行きましょう?」

 ユウコの言葉に大高英美里は一度しゃくり上げてから小さく頷く。

「分かり、ました……」

 大高英美里、ユウコはエミリと呼んだが、武器屋旅団に加わることに同意した。


「まぁ、こんな所に放置って訳にもいかないよな」

 ケンが1人で呟く。

 外の世界にいた時の記憶は朧気になりつつあったが、あまり良い思い出は無かったような気がした。

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