57話
「オーバーロード要塞、ですか?」
団員の1人が不思議そうな顔をする。
「そうよ。“オーバーロードナイト”の本拠地ね」
ユウコの言葉に団員達はざわざわと言葉を交わす。
「何だ、それは?」
ケンがミクに尋ねた。
しかし、ミクも聞いた事が無いらし肩をすくめて見せる。
周りの団員達も知らない者が多いのか、疑問の会話が成されていた。
「まぁ、知らないのもいるでしょうね」
「都市伝説みたいなものだからな……」
それらを見回したユウコとアキラが言う。
「オーバーロードナイト。この世界で唯一の軍隊として成り立っている組織よ」
「軍隊? それを名乗る組織はこの世界じゃ珍しくないと思うが……」
「規模が違うわ。ちゃんと組織の構成が明確化されているって話よ」
団員のほとんどが眉をひそめる。
組織として明確化されているという言葉に胡散臭さを感じたからだ。
「そのオーバーロードナイトと俺達に何の関係が?」
団員の1人が茶化すような声で尋ねる。
「実はそいつらの要塞の側にはマンハンターの本拠地があって、長い間戦争をしているって話なのよ。面白い話だと思わない?」
ヒュウと口笛がどこからか聞こえた。
確かに面白い話ではある。
「まぁ、あくまで噂話に過ぎない。マンハンターの本拠地っても怪しいものだからな」
アキラが言う。
「まぁ、私もこの話が全て正しいとは思ってないわ。でも、この世界の謎を解き明かす鍵になるかもしれないじゃない!」
世界の謎。
その言葉に団員達は顔を見合わせる。全く興味が無い者。面白そうだと思う者。また団長の思い付きが始まったと笑う者。
様々な反応が見られる。
ユリは横目でケンの顔を見た。
しかし、ケンは無表情にユウコを見ているだけで、その感情は分からない。
少なくとも自分には興味のある話であった為に、ケンの反応を見てユリは残念に思う。
一方でミクは、世界の謎という言葉に盛り上がるユウコ達を冷ややかな目で見ていた。
彼女にとってどうでも良い事だったからである。
世界の謎といえば聞こえはいいかもしれないが、所詮は都市伝説を調べるのと大差は無い。そんな事に意味など無いと思う。
しかし、ケンがこの話に乗るのであれば、それに着いて行くつもりだ。
ミクの関心はケンに向けられている。
自分の半身ともいえる志村が死んだ出来事の引き金にもなった彼がどのような人生を進むのかを見ていたいと思うのだ。
今更、その事を恨んでいるという訳では無い。
ただ、ケンは志村に似ている部分が多々見られた。
命を惜しまないような戦い方に、無鉄砲な性格、斜に構えているようで実は正義感が強い。
それは昔の志村に非常に似ていたのだ。
性格もそうだが、志村はケンの面倒をよく見ていたし、戦い方の基本も志村が教えたからそうなったのではないかとミクは思う。
そんなケンを見ているのは中々愉快だった。
もしかしたら志村の影を追っているからなのかもしれない。
「もし、嫌ならここで抜けてもらっても構わないわ。個人の行動を強制するつもりも無いし」
ユウコが言う。
去る者を追わないというのが彼女の中にはあった。
個人の行動を強制するものでは無いということである。
その言葉を聞いて、旅団を抜ける者はいなかった。
元々、武器屋旅団の行く先はユウコの気まぐれで決まっていたのと、抜けたところで行く当てもないからだ。
それはケン達も同じ事で、特に反対するような発言も無しにその場にいた。
「君は抜けなくて良いのかい?」
嘲笑するような笑みで加村がケンに尋ねる。
「どの道、行くアテも無い」
ケンはぶっきらぼうに答えた。
「ここから先は武器屋旅団でも行ったことの無い地域だ。危険かもしれないよ?」
「この世界で危険じゃ無いことがあるのなら教えて貰いたい」
「ま、それもそうだね」
加村が肩をすくめて見せた。
その横でケンは“ストロベリーミント”の匂いで顔をしかめながら、燃え上がる工場を見ている。
「行ったことの無い地域か……」
そう呟いた矢先に工場が轟音と共に爆発した。