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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
54/112

54話

 武器屋旅団は基本的にあちこちを巡り、様々な物資の取引を生業としている。

 それは武器だけでなく、生活雑貨など含まれていた。


 ブルタンクを撃破してから数日。武器屋旅団はとある街で露店を開いていた。

 以前の戦いで武器弾薬を消費した為に、それらを補充したいところではある。


「このライフル、随分安いな?」

 商品を見ていた男が尋ねた。 


「あぁ、それは壊れかけてるんですよ」

 店番をしていたケンが答える。

「壊れている?」

 男が怪訝そうな顔をした。


「えぇ、バッテリーパックの接続部分が大分古くなっていまして、機関部にエネルギーが伝達し辛いんですよ」

 隣にいた武器屋旅団の武器の整備や改造担当の先生と呼ばれる男が説明を始める。

「機関部は生きてますから、その部分をパーツ取り用なんかに使うと良いですよ」

 その言い草は確かにあだ名の通りに先生の様だとケンは思った。


 説明を聞いていた男は「もう良いよ」と遮る。

「安くて良い武器は無いもんだな」

 そう言い残して立ち去っていく。


「そんな物があればこちらが欲しいさ」

 ケンがボソッと呟いた。


 その反対側。ケンの後ではミクとユリが廃墟で手に入れた衣類を売っている。


「このシャツ随分安いわね?」

 今度は中年の女がミクに尋ねていた。


「あぁ、それは古着ですよー。旅団の子が着ていたんですけど、サイズが小さくなったので」

 ミクが説明する。

 それはケンが着ていたものだ。ここ最近になって小さくなって着れなくなったものである。


「ウチの息子には丁度良いわ。これ貰える?」

「ありがとうございまーす」


 女は武器のバッテリーを1つミクに渡して、シャツを受け取った。そのバッテリーの左側面には小さなメーターがあり、それは中のエネルギーが満タンであることを示している。ミクはそれを確認して「どうも」と言った。


 トウの街と違い、通貨が無いのでバッテリーをその代わりにしているのだ。


 ようやく売れたとミクが溜息をつく。


「安いのには安い理由がある」

 先生が呟く。

「はい?」

 それに対してケンが聞き返した。


「いえ、安い物には安い理由があると思いませんか?」

「そりゃあ、まぁ……」


 一体何を言い出すのかとケンは呆けた顔をする。

 ミクもそれに気付く。


「例えば、某洋服屋なんかそうですね。あそこは賃金の安い外国で商品を作ることで生産コストを抑えています。他にもとあるイタリアンレストランのチェーン店は、そこで出す野菜専門の農家を抱えて材料費を抑えていたりします」


 企業によって物を安く提供する為に様々な工夫をしているということだ。


「昔、そんなニュース見ましたねー」

 ミクが外の世界にいた時に、テレビでそんな話を聞いたことを思い出す。


「しかし、だからといって安くて良い物を求め過ぎるのは如何なものかと思うんですよ」

「そりゃあ、売る側からすれば……」


 2人は首を傾げた。

 確かに売る側からすれば、いくらお客が安くて良い物を求めていても、限界というものがある。


「いや、買い手側もそうですよ」

「はぁ……?」

 

 何の事だろうと2人は疑問に思う。


「例えば、私はとあるアニメのファンで、そのゲームが発売したから買おうと思ったんですが、そのゲームが次の週にはワゴンセールになってた事がありました。コラボでプラモも出てたんですけどねぇ……」

「そりゃあまた……」

「そのゲームプレイして、すぐにワゴンセールになった理由が分かりました」


 つまらなかった訳かとケンが苦笑した。彼にも同じ様な事があったからだ。


「そういうことなら私にもあるわ」

 そこにいたのは武器屋旅団団長の星ユウコはだった。

 手には、どこからか手に入れたライフル等が数本紐で括られていた物を握っている。


「私もブランド物の腕時計が安売りされて買ったんだけど、すぐに壊れてしまったことがあったの。それで、修理に出そうとしたらメーカーにパーツが無いって断られたわ。どうも修理出来ないことも含めて安かったみたい」


 ユウコは苦々しい顔で言うと、手に持った武器をケンに渡す。やはり、どこからか取引して手に入れた武器だったようだ。


「物事には何でも理由があるってことね」

 先生の左側に腰掛ける。


「勿論、値段が高ければ良い物かという訳でも無いですが」


 その先生の言葉にそれぞれ頷いて返事をした。

 他愛の無い話しである。


「そういえば、ケンちゃんって凄く戦闘が上手いけど、それにも何か理由はあるの?」

 ユウコが尋ねた。


 それに対してケンは「はぁ」と声を出す。

 特別に自分が強いと思っていなかったからだ。故にそんな理由など聞かれても答えようが無い。


「努力の成果だよねー?」

 からかうようにミクがククッと笑いながら言う。

「努力?」

 聞き返したのはケンだ。


「ほら、何かリストバンドに重り仕込んでみたり」

「あぁ……」


 そういえばそんな事をしていたなと、昔の事を思い出す。

 あの時は誰かに認めて貰おうとしていたのだ。

 結果的に追い出された訳だが、今となってはどうでも良いことだと思う。


「そんな事してたの?」

「してましたね。他にも裏山で射撃練習とか」

「意外に普通ね」

「そんなもんですよ。簡単に強くなる方法があれば俺が教えてもらいたい」


 そういうものかとユウコは思った。

 もしかしたら、何か外的要因があるのかとも期待していたのだが、本人はそう思っていないらしい。


 やはり自分の考えは見当違いなのかとも思う。それとも外的要因がある事に本人が気付いていないのか。


 どの道、そう簡単にこの世界の謎に迫れる訳も無いかと軽く落ち込む。


「ところで、私が集めた武器はどう?」

 これ以上は考えても無駄と話題を変えた。


「武器そのものは悪くありませんが、今はバッテリーの方が足りませんね」

 そう答えたのは先生だ。


「仕方無いわね。少し遠回りになるけど、あのルートで行くしかないか……」

 ユウコは珍しく顔を曇らせる。それを聞いた先生は「はぁ」と、これも嫌そうな反応。


 あのルートとは何だろうと、ケンとミクは顔を見合わせた。

 ユウコと先生の反応は危険な事では無く、面倒故に嫌悪するという表情である。


 先程の話では無いが、この2人の反応にも何か理由があると思うと、先が思いやられるなとケンとミクはダウナーな気分になった。

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