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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
武器屋旅団
50/112

50話

 武器屋旅団とは、その名前の通りに武器を売っている旅団である。

 基本的には廃墟エリアで物資を集め、マンハンターと戦闘をして武器を集めているのだ。

 やっていることは、さして珍しくも無い話である。


 旅団の代表は星ユウコ。

 女性がこういった旅団の団長をしているという点では珍しいことだ。

 そして副団長は高田アキラ。

 明朗快活なユウコに比べると、物静かで落ち着いた男である。


 他にも狙撃手の加村雅平。武器の整備及び改造担当の先生と呼ばれる人物らを含めて、総勢31人の団員で武器屋旅団は構成されているのだ。

 その殆どの団員は10代後半から20代の若者達の男女である。


 その中には訳有りの人間も多いらしく、腕の立つ者がほとんどであった。


 それ故か、武器屋旅団が混乱するトウの街から脱出するのは簡単だった。ケンを狙う追っ手を蹴散らしながら、あっさりと街を抜ける。


 それから3日経った。

 武器屋旅団は辺りに何も見当たらない荒野を進んでいく。


 その中でケンは集団の中にいる自分に馴染めずにいた。

 それまで基本的には1人で行動していた為か、集団の中ではどういう風に振る舞えば良いか分からないでいたのである。


 その一方で、ギジの世界に来て長いミクや、社交性のあるユリ、ケンの倍以上の人生を歩んできた泉は、武器屋旅団の面々とうまくやっていた。


「君ィ……、いつも仏頂面だねぇ……?」

 そう声をかけたのは加村だった。相変わらず人の神経を逆撫でするような言い方だとケンは思う。


「……」

 これに対してどう返そうかと思考するが、結局思い付かないまま無言になるケン。


「まぁ、良いけどね……」

 あまり気にするでも無く加村が呟く。

 ケンはそれに対しても無言でいた。


 戦闘の事ならいくらでも話せるが、こうした日常会話というのは何を話せば良いのか分からないのだ。

 しかし、無理に話すことも無いだろうとも思う。この加村という男も、武器屋旅団の面々もそんなことで気を悪くするような者達では無いからだ。

 そんなことで気を悪くしていたら、この旅団ではやっていけないだろう。それだけ、この旅団は曲者が揃っていた。


「着いたわ!」

 先頭を歩いていた団長、星ユウコが声をあげる。

 見れば、いつの間にやら廃墟エリアの前にいた。


「探索、ですか……?」

 ユリが尋ねる。

「大急ぎでトウの街から出てきたからな。商売に品の武器なんかが足りないんだ」

 それに答えたのは副団長の高田アキラだ。

「皆、マンハンターを相手にすることになるぞ。武器のチェックをしろ」

 アキラはそのまま振り返って団員達に言った。


「マンハンターか……。相手にするのはいつ以来だ?」

 トウの街では競闘ばかりで、探索などは一切出ていなかったケンは人間ばかりを相手にしていた。マンハンターと戦うのは久しぶりだと思う。


「ビビっているのかい?」

 加村が嘲笑するように尋ねた。左腰の専用ホルスターに狙撃銃である“物干し竿”を挿している姿が、侍が日本刀を挿している姿に似ている。

「いや、人間を相手にするよりかは気が楽だ」

 ケンは静かに答えた。


「ユリちゃん、いける?」

 心配そうな顔でユウコが尋ねた。ミクから、ユリは人を撃つことが出来ないことを聞いていたからである。


「人間じゃないならやれます!」

 ここで戦えなければ、私は本当に役立たずだとユリは思いながら答えた。

「そう? それなら良いけど……」

 そう言いつつもユウコは懐疑の目でユリを見る。


「なら、俺が一緒に行こう」

 ケンが言った。

 その事にユウコは若干驚く。

 今までケンが自分から発言をすることは殆ど無かったからだ。


「俺の競闘の試合を見ていたなら分かると思うけど、ユリさんは後ろから援護してくれ」

 驚くユウコを横目にしながら、ケンはユリに言った。それが当然であるというような風である。

 ユリも「分かった」と答えた。


「なら、私も着いて行くよ」

 それにミクも続く。顔見知りとお互いの戦い方をよく知っているからである。

「なら、俺も着いて行こうかなぁ?」

 加村が言った。

 一瞬だが、ケンが苦い顔になる。


「身内だけで逃げられたくないからねぇ?」

 そんなケンのを見逃すこと無く加村が嘲笑するように言う。

「ひどいなー、行くとこなんか無いっていうのに」

 ミクが頬を膨らませる。


「構いませんよね?」

 加村が振り向いて尋ねた。

「頼むわ」

 一緒に獅子王会に乗り込んだ事がある加村に任せれば大丈夫だろうとユウコは頷く。


「あぁ、それならこれを持って行って下さい」

 横からそう口を出したのは先生だ。

「これは?」

 先生が渡したのは1メートル程の長さはある、鉄パイプのような物だった。先端には箱形となっており、更にそこから突起物が出ている。反対側はラッパ、もしくは漏斗のようになっていた。


「射突槍……。ロケットスピア?」

 ケンは先生からそれを受け取る。思った以上に重かった。


「何だそれ?」

 ユリが尋ねる。


「名前の通りですよ。ロケットを使って槍を飛ばす武器です。普通のロケットランチャーと違って、これは槍を飛ばす武器です。威力はありますし、槍そのものも原形を留めていれば推進部を交換して再利用出来るという優れものですね」


 自慢気に先生が説明した。

 本来、ロケットランチャーというのはロケットを使って爆弾や炸薬が詰まっている砲弾を飛ばすものなのだが、この武器はそれらの替わりに金属で作られた槍を飛ばす武器なのだ。


 この武器はロケット砲等とは違い、発射された槍が敵に命中しても爆発すること無く貫通する。その為に貫通した槍を回収できれば推進部を交換、もしくは修理して再利用出来るのだ。例え回収したものが槍の形を留めていなくても、推進部を取り付けて発射すれば、並大抵の敵に対しては十分な威力がある。


 問題としては、槍そのものはマンハンターの装甲や廃墟エリアにある物資から製作すれば良いのだが、推進部や推進材が貴重な物である為に多用出来ないという事と、マンハンターの武器を奪った物では無く、完全なハンドメイドである為に物によって精度や品質にかなりの差があるという事だ。


「でも、何でこんな物を?」

 予備の槍を受け取りながらユリが尋ねた。

 その瞬間、ユリ以外の全員が顔をこわばらせた。


「これを使うって事は……」

 ミクがユウコに視線を向けた。

「まぁ、察しの通りよ」

 珍しくユウコが苦い顔をする。


「大型種、ブルタンクね……」

 ミクが呟く。

「聞いたことはある。見たことは無いが」

 そう言ったケンを見て、知らないのは自分だけであることにユリは気付いた。


「一体、何なんだよ?」

 自分だけ除け者のように思えてくる。


「ブルタンク……。まぁ、マンハンターの大型種ってとこかな? 大きい上にとてつもない火力があって、ライフルじゃ歯が立たないんだよ」

 ミクが説明した。まるで、以前に戦ったことがあるようだ。


「交戦したことは?」

 加村が尋ねる。

「見たことがあるだけだよ。あんなのとマトモに戦おうなんて思わないねー」

 ミクはやれやれと頭を振りながら答えた。


「アンタはどうなんだ?」

 加村を肘でつついて尋ねる。


「あるさ。……少なくとも武器屋旅団に入ってから3回はね」

「そうか」


 勝手が分かる者がいるなら、やりようは幾らでもあるとケンは思った。


「なら、これはアンタが使ってくれ。使ったことはあるんだろ?」

 受け取った射突槍を加村に渡す。

「ま、そうなるかなぁ……」

 加村はそう言って受け取った。


「また、置いてきぼりか……」

 話が次々と進んでいくのを見ながらユリは思う。

 何故いつもこうなのだろう。自分が何も出来ない間に話が進んでいき、いつも置いてきぼりだ。

 ユリはケンやミク達が遠い存在に思えてきた。


「それじゃあ、気を付けてね。何かあったらすぐに連絡するのよ」

 そう言ってユウコが通信用のトランシーバーを差し出した。それは市販で売られているような物であり、100メートル程の距離まで通信が出来るタイプである。

「あ、はい」

 ユリがそれを受け取った。せめてこれくらいは使えるべきだろうと思う。


「良いわね? お互いに通信の届かない範囲までに行かないこと! ここにはブルタンクの目撃情報もあるからそのつもりで!」


 武器屋旅団全員に向かってユウコが号令をかける。その堂々とした団長振りにユリは自分もこうなりたいものだと思った。


 武器屋旅団の面々もユウコの号令に答えると、それぞれ武器を持ち、幾つかのグループに別れて廃墟の探索に向かう。


「久しぶりに戦うかもしれない」

 ユリが呟く。その事実に緊張してきた。

「いつも通りにやってくれれば良いですよ」

 何てことも無いようにケンが言う。

 その小さい背中が妙に頼もしかった。

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