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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
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5話

 村長は「うむ」と言って一度咳払いをする。


「先程の説明で、この世界やマンハンターについては分かったと思う」

 ケンは頷いた。

 この世界が異世界で、マンハンターというロボット兵が人間を襲ってくるということである。


「次に、君の処遇についてだ」

「処遇?」

「そうだ。君はこの世界でどう生きていくかということだ」


 その村長の言葉でケンは自分が異世界に来たのは理解したが、その異世界で自分がどうやって生きていくかについて、全く考えていなかった事に気付く。


 ここには自分の身内は誰もいない。

 誰かを頼る事は出来ないのである。

 そんな中で1人でどうやって生きていけば良いのだ?


 ケンは自分は危機的な状況である事を、今更になって理解したのだ。

 そう思うと、不安になり全身から冷や汗が出てくる。


「今、お前には2つの選択肢がある」


 志村が言った。ケンは額に流れる汗を拭ってから志村を見る。

「選択肢?」

 そう聞き返したケンに志村は「ああ」と頷いた。


「1つは、この後に村から出てお前の好きなようにする事だ」

「それは……!」

 ユリが思わず声を出す。


 志村が提示した選択肢は、何も持たないままで外に放り出すことだ。

 いつ襲ってくるかも分からないマンハンターがいるこの世界ではあまりにも危険なことである。

 それは死ねと言っているの同義であった。

 この世界に来て間もないケンだが、今までの説明でそれくらいは理解できた。当然ながら、それは避けたい選択肢である。


「話はまだ終わってないよ」

 何か文句を言おうとしたユリをミクが手で制して止めた。

 ミクは志村に目配せすると志村がそれを確認して頷く。


「続けよう。もう1つの選択肢はこの村で暮らすことだ」

「この村で暮らす?」


 それは理想的な選択肢である。

 少なくとも、この村で暮らしている限りは衣食住は確保できるはずであり、マンハンターに襲われる可能性も少なくなるだろう。

 その選択肢が提示され、ユリも胸を撫で下ろすのが見えた。


「が、ただでこの村にいられるとは思って欲しくはないな」

 志村が皮肉っぽく笑うと村長を見た。

 村長は「あぁ……」とバツの悪そうな顔をする。


「この世界は外の世界に比べて物資が乏しい。その上マンハンターだ。我々も生きていくには必死にならざるを得ない」

 村長はそう言うと机に肘をついて手を組んだ。

 ケンは何が言いたいのだと疑問に思う。


「村のために働いてもらうとういうことだ」

 志村が言った。

「ああ……」

 それを聞いてケンは納得する。

 

 つまりは村で暮らしたいなら何らかの労働に従事しなければならない。

 要はただ飯は無いということだ。


「まぁ、そりゃあそうでしょうよ」

 何らかの形で労働をすることで報酬を得る。それで生活をするというのは社会では当たり前のことだ。

 そんなことは学生のケンでも知っていることである。


 といっても、実際に社会に出て働いたことの無いケンは頭でそのことを理解しているだけであり、実感は沸かなかったが……。


「まだこの世界のことが全然分かりませんからね。俺としては2つ目の選択肢でいきたいんですが?」

 ケンは即答する。

 と、言うより初めからそれしか選択肢は無い。

 

「だろうな」

 志村が頷きながら言った。そして村長を一瞥する。


「ここで働くという事は、戦闘に参加する事にもなる」

 村長が重い口を開いた。

 先程からバツの悪そうな顔をしていたのは、これが原因である。


「待ってください! 彼はまだここに来たばかりなんですよ? しかも、まだ子供じゃないですか!」

 ユリが思わず声を荒げて言う。それに対して村長は口の中で何やらモゴモゴと、言葉にならない声を出していた。


「落ち着いて」

 ミクがそう言ってユリをなだめる。

「俺は子供って歳じゃ無いですよ」

 ケンはユリに子供扱いされた事を不愉快に思いつつも、それを悟られまいと落ち着いた声で言ってた。


「いくつだ?」

 そう年齢を尋ねたのは志村だ。

「14です」

 ケンははっきりと声に出す。


「え? そ、そうか……」

 ケンの堂々とした言い方に志村は思わず言葉が詰まる。


「子供じゃん」

 そんな志村をフォローするようにミクが言った。

「そうですか?」

 ケンはムッとした表情を見せる。


「私とミクは18で、志村さんは23歳だ」

 ユリがケンに負けず劣らずな顔をして言った。

「そっちの志村さんはともかく、18と14じゃそんなに違わないと思います」

 その差はたったの4年だ。そこまで大した年月でもないだろうと思い、ケンが言い返す。


 ユリがそんなケンを生意気だ思い、言い返そうと口を開いた時だ。

「まぁ、すぐに戦えとは言わんよ」

 これはイカンと思った村長が2人の会話に割って入る。


 その横で志村はケンと一回り近く年齢が違う事に軽いショックを受けていた。

「これが若さか……」

 心から思って呟く。

 自分が同じ14歳で中学校に通っていた時、彼はまだ幼稚園だったのだ。

 この気持ちは、ある程度年齢を重ねて初めて分かる感覚だろう。


 そんな事を考えて呆けていた志村に気付き、ミクはどうしたのかと見つめる。ややあってそれに気付く志村。

「まぁ、いきなり戦わせるようなことはしないさ。ユリの言うとおり彼はまだ子供だ。俺から見ればな……」

 9歳。四捨五入すれば10歳違うことを思いながら志村が言った。

「ああ、もちろんその通りだ」

 村長も志村の言葉に同意する。


 ちなみに、このときのケンは自分がこの村に置かれれば戦闘に駆り出される事よりも、自分が子供扱いされている事に腹を立てていた。


「まぁ、一番は彼自身がどうしたいかだけどな?」

 今度はケンに視線を向けて志村が言った。


 そうなのだ。

 村長や志村が言った、この村にケンを置くというのはあくまでケンに対する提案であり、強制では無い。

 それを決めるのはケン自身である。


「ケンちゃん、どうする?」

 ミクが尋ねる。


 ケンは自分を子ども扱いすることを止めてもらいたいと言おうとするが、その方がかえって大人気無いと思って言い留めた。

 そして考える。自分の体1つで来てしまったこの異世界では何が最良の選択なのかを。


「結局、どっちを選んでもマンハンターとやらと戦って死ぬかもしれないっていうのは変わらないんですよね?」

 その言葉を聞き、村長は顔を伏せる。志村はゆっくりと頷き、ミクは苦笑した。

 ユリは確かにその通りだと歯噛みするが、それを認めたくないという否定の言葉を探す。

 

「だったら、この村お世話になろうと思います。そっちの方が良さそうですし」


 それがケンの選択だった。

 何も分からないまま、いつ襲われるかも知れない所に1人でいるよりも、いずれ戦わされるかもしれないとはいえ、何らかのコミュニティに入っていたほうが安全であると判断したのだ。

 それは状況を考えれば当然の判断である。

 村長、志村、ミクの3人は顔を見合わせた。


「この村に留まるのは良い。でも、君が戦うのは反対だ」

 ユリはそう言うと、もう知らんといわんばかりにそっぽを向いてしまい、そのまま部屋から出て行ってしまう。

「あ、ちょっと!」

 それをミクが追う。部屋から出て行く際に「ごめん」と軽くジェスチャーをした。


「あの人、何をイライラしてるんです?」

 ケンが尋ねた。

「白河ユリだ」

 志村はそう言うと一度嘆息する。


「あいつもこの世界に来てまだ間も無くて、誰かに助けられてばかりだったからな……。そんな中で初めて助けたのがお前だ。それがすぐに戦わせようなんて話になれば、何のために助けたのかと怒りもするだろうよ」

「そうなんですか?」

 ケンはそう言って、ユリとミクが出て行った方向を一瞥する。


「だからって、あんなにイライラする事無いよなぁ……」


 見えなくなったユリの背中にそう呟いた。

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