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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
武器屋旅団
49/112

49話

 薄暗い階段を降りてケンは部屋の灯りを付ける為に、壁に掛けられたスイッチを入れる。

「付かない?」

 しかし灯りは付かない。


「あぁ?」

 その事を疑問に思いつつも、付かないものは仕方無いと思いながら、店の扉を開けて先生を含む武器屋旅団を店に入れた。

 その後ろで一緒に降りてきた泉が「あら?」と言う声をあげる。ケンと同じように部屋の灯りのスイッチを入れたのだろう。


「一体どうしたって言うんです?」

 招き入れた先生にケンが尋ねた。


「どうしたも無いですよ!」

 先生が肩で息をしながら声をあげる。


「獅子王会の中で跡目争いの隙を突いて、他の競闘チームが行動を起こしたんですよ。獅子王会の所持している施設は滅茶苦茶です」

「それだけでこうなりますか?」


 ケンは扉の窓から外の様子を伺う。火の手が上がり、街を赤く照らしている。


「勿論、それだけじゃありませんよ。傘下のチームは下克上を狙って獅子王会のメンバーを襲ってますし、それらの混乱に乗じて火事場泥棒的なのもいるみたいです」

「よくやるよ……」


 武器を持った男が駆けていくのが見えた。


「あなた達だって危ないですよ」

「へえ?」


 ケンは外を見るのを止めて先生に向き直った。連れの団員が窓から外を見ている。


「あなた達は獅子王会の会長を殺しましたからね。敵討ちで狙っている連中もいるみたいです」


 だろうなとケンは思う。

 そして、ミク、ユリ、泉の3人を見た。


「ここにいると危ないってことか?」

 ユリが頭を傾けながら尋ねる。

「ま、そういうことだねー」

 ミクは何処からレーザーライフルを持ち出して、バッテリーのチェックをしていた。

「こういう事は初めてじゃないけど、もう……!」

 憤りを顕にしながら泉はケンと同じ型の“でんでん銃”をカウンターの下から取り出す。自衛用のものだ。


「私達が見張ってます、佐原君達は急いで仕度をして下さい」

 先生はレーザーライフルを持ちながら言う。

「頼みます」

 ケンが頷く。しかし、眼鏡をかけた線の細い男てあるが故に、あまり安心感は無かった。一緒に2人の男が着いて来なければ任せなかっただろう。


 それを見ていたユリがある事に気付く。

「あの人には敬語を使っている」

 ケンは先生に対して敬語……、というより、ですます調で話しているのだ。

 昔は、自分達に対してもああいった口調だったが、この村で会った時にはやさぐれた口調に変わっていたのである。

 この違いはどういうことなのだろうと思う。


「急ごう。いつまでもここにはいられない」

 ケンが声をかけた。



/*/



 仕度といっても時間も無い為に、持っていけるものは数少ない。

 普段着、というよりも戦闘が出来るような服に着替え、武器と予備のバッテリー、少しの食糧と水。

 1番早く仕度を終えたのはケンだった。何時もの白い鎧の上にフード付きマントを羽織り“でんでん銃”を持つ。


「遅い」

 ミク、ユリ、泉の3人か準備を終えた時にケンか開口一番に言った言葉である。


「ごめん、ごめん」

 ミクがエヘヘと笑う。が、目は笑っていない。


「全員伏せろ!」

 武器屋旅団の男が叫び、全員が床に伏せる。

 次の瞬間には道路側の扉や窓ガラスからレーザーの弾幕が一斉に飛び込んで店の中にある物を粉砕した。


「見てこい」

 外で男の声がする。

 それに対して手榴弾を投げた者がいた。


 それは泉である。

 泉が投げたプラズマ式手榴弾は白い光と熱を発して様子を伺おうとした男を焼き払った。

「裏口から出ましょう」

 何やら騒ぎ立てる男達をよそ目に泉が言う。是非も無く、その場にいた全員が頷いて賛成した。


「なら私が先導を……」

 ライフルを抱えたユリが言う。

「裏口にも奴等がいるかもしれない。そうなったらユリさん、人を撃てないでしょ?」

 ケンの言葉がユリに突き刺さる。


 図星だった。

 彼女は人を殺した事が無い。それだけでなく、例え敵であっても人を殺すことに嫌悪感を持っている。

 それは真っ当な感覚であるが、このギジの世界では通用しないのだ。


「私が先行するよ」

 ミクが言った。

「頼む」

 ケンはそれを二つ返事で了承する。


 私が戦力外……、というよりも信頼されていないのか?

 ユリはケンとミクを見ながら思った。


 それも当然か。

 村が襲われた時、賊を倒したのはケンだったし、この街に来れたのもミクと一緒にいたからだ。

 自分はケンにとって頼りになる人物でありたいと思っていたのだが、いつ間にか頼りにされるどころか、逆の頼りにならない人物という評価になっている。

 情けない……。

 ユリは悔しさにライフルを握る手に力を入れる。


「俺が殿をやる」

 外に向かって弾幕を張りながらケンが言った。

「しかし……」

 先生も外にライフルを撃ちながら罰の悪そうな顔で答える。


「武器屋旅団と合流するっていうんでしょ? ならアンタが案内しないでどうするんです」

「……分かりました」


 ややあって先生が言う。付き添いの男も頷いた。


「行くよ!」

 ミクが裏口に走り出し、泉、ユリと続く。そしてケンが最後に店から脱出する。


 裏口を抜けて、そのまま狭い路地をしばらく進んで外へ出た。

 広い路地を見渡せば、あちこちから火の手が上がり、爆発や銃撃戦がそこかしこで起きている。

 音をたてて崩れる建物さえあった。


「街が、崩れていく……」

 辺りを見回して泉が呟く。


「いたぞ!」

 獅子王会だろう。叫び声と仲間が集まる足音。

「チッ……!」

 ケンをはじめとした男達がそれらに弾幕を張った。


 ユリも 手持ちのライフルを構え、正面の男に狙いを付けるが引き金が引けない。

 人を殺すという嫌悪感。それに加えて、男が自分に向ける殺意がプレッシャーになり、ユリの体を抑えつけるのだ。


 次の瞬間、ユリはミクに肩を掴まれ建前の影に押し込まれる。そのまま尻餅をついて、ミクの顔を見上げた。

 無表情にライフルを撃っている。

 そこに喜怒哀楽のような感情は無く、ただ敵を殺すという冷たい意思だけだ。


 1つの事にのみ特化した行動。余計なものなど一切無い。

 だからこそ、ミクも、ケンも、迷うこと無く人を撃つことが出来る。

 彼らにとって、自分に銃を向ける者は全て敵なのだ。そこに機械や人間といった区別は無い。


 ミクや武器屋旅団の者達がライフルを撃つ。ケンが飛び出し駆け抜ける。崩れた建物や建材の影を利用して敵の射撃を避け懐に飛び込む。


 次のタイミングにはケンは左に飛ぶだろう。そこを撃てば敵を倒せる。ユリはかつて一緒にマンハンターと戦っていた時の経験から、ケンがどのように動くか、ある程度予想が付いていた。

 しかし、ライフルを敵に向けても引き金が引けない。

 引き金に指をかけると、敵のプレッシャーに、かつての戦闘で死んでしまった志村や村人達の死に顔が脳裏に浮かぶのだ。


 気付けば敵は全て倒れていた。

 戦闘が終わったのである。


「私は、何も出来なかった……」

 ユリが呟く。

「村が襲撃されたのがトラウマになってるんだよ」

 慰めるようにミクが言った。それは一種のPTSDと言えるかもしれない。


 元々、ユリは気が弱い質であり、ミクのような同世代の友人や、歳下であるケンにお姉さん振ることで、それを誤魔化していたのだ。

 そういった人間が、いきなりそれまで住んでいた村か襲撃されて大量の死人ご出れぱトラウマにもなるだろう。

 もっと言えば、村の襲撃を行ったのがマンハンターという機械では無く、明確な殺意を持ち、それを剥き出しにした人間だったのいうのが彼女に大きな衝撃を与えたのだ。


 ユリのそういったところにケンもミクも気付いていたのである。


「おーい!」

 遠くから声が聞こえた。複数の人影か手を振っているのが見える。

 武器屋旅団だ。

 団長である星ユウコと副団長の高田アキラの姿が確認できた。


「大丈夫だった?」

 いの一番でユウコが駆け寄って尋ねる。

「何とか全員無事ですよ」

 先生が一同を見回して答えた。

「良かった……」

 その答えに安堵してユウコは息をつく。


「これからどうするんです?」

 そう尋ねたのはミクだ。

 この状況下では1人でも多くの顔見知りと一緒にいる方が安全だと思い着いて来たが、そこから先のことは考えていなかった。


「私達はこの街から出るわ。もし、良ければ着いて来ない?」

 ユウコが答える。それはミクにとって魅力的な提案だ。

 とう見てもこの街はもう終わりだと思ったからである。


「あー…」

 ミクはケンとユリを見た。

「私は……、この街に留まるべきじゃないと思う」

 ダウナーな気持ちを何とか抑えながらユリが言う。そのままケンを一瞥した。


「集団行動は嫌いだけど、この街にいたら命がいくつあっても足りない。俺は着いて行く」

 ため息をついてケンが賛成する。その意外な答えに、思わずミクとユリの2人は目を丸くしてケンを見た。


「背に腹は変えられないだろう」

 驚いた様子の2人にケンは答える。その顔は不機嫌そうであった。

「そう? それは良かった」

 ユリが言った。


「泉さんは?」

 次は泉に尋ねる。彼女はこの街で店を経営していたのだ。

 ケン達よりも街に思い入れはあるだろう。


「私も着いて行くわ。もう、ここじゃ店も何も無いものね」

 泉は遠い目で燃える街並みを見た。


「そうと決まれば早く出るぞ。そこの坊やの追っ手が来ると厄介だ」

 副団長のアキラが言い、その場の全員が無言で同意した。

「じゃあ行くわよ!」

 最後にユウコが団長らしく声高らかに言って全員が燃える街を進み出す。


 ケンは赤く燃えながら崩れていく街を見て、虚しさを感じていた。


 理由は分からない。


 1人で生きていくつもりが、再びユリやミク達と一緒にいることの為か、それとも自分の中の何かが変わった訳でも無く、無為な時間を過ごしただけだったと思ったからなのか。


 ただ、意味の分からない虚しさがそこにあった。

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