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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
武器屋旅団
47/112

47話

「全く、ずいぶん好き勝手やってくれたな?」


 泉を人質に取っている男の影からもう1人の男が現れた。

 紺色のスーツに淡いピンクのシャツ、ネクタイは金色、その姿はお世辞にも堅気とは言えず、ヤクザそのものである。

 ギジの世界らしく無い小綺麗な格好であるが、それだけ力があるという証明でもあった。


「あぁ、大将自ら出てきてくれたか。探す手間が省けたよ」

 全く動じること無くケンが言う。

「この男……?」

 ヤクザそのままだと思いながらミクが呟いた。


「私が獅子王会の会長。波多鉄雄だ」

 スーツの男はミクに視線を一度だけ向けて答える。


「佐原ケンだ。要件は言わなくても分かるだろう?」

 ケンが一歩進む。

 泉を捕まえてる男がそれに反応して、銃口を泉の頭に強く押し当てた。泉は口にはめられた猿轡越しに声をあげる。


「勿論だ。まさか自分から出てきて、こうも暴れられるとは思わなかったが」

 波多と名乗った男は静かに言った。この状況でも動じている様子が無いのは、流石に大手の競闘チームを率いているだけのことはある。


「なら、話は早い。その人を解放してもらう」

 ケンが言うと、波多はフッと笑う。


「解放するさ。ただし、お前ら3人の首をもらう」

「3人? 俺だけじゃないのか?」

「当たり前だ。こうも暴れられて、佐原ケンの首1つで済むわけ無いだろう? 我々にも面子があるんだ」


 ヤクザに面子もあるものかケンは思いつつ、左右に視線を走らせた。どうやって泉を助け出すかを考えていたからだ。元より首を渡すつもりなど無い。


「意外と優しいねー。女の私は慰み者になるかと思ったけど」

 全く動じていないのはミクも同じだった。

「生かしておく方が危ないからだろ?」

 ケンがすかさず突っ込む。


「まぁ、そういう訳だ。大人しくしてもらおうか」

 泉を拘束している男と同じ、実弾式のリボルバー拳銃をケンに向けて波多が言う。

 銃口を向けられたことにケンの体は無意識に反応して、“でんでん銃”を握る手に力が入った。


「マンハンターの物とは違う。確実に動作するから安心したまえ」

 波多はニヤリと笑う。


 ギジの世界に溢れている武器のほとんどはマンハンターから奪った武器である。それらはレーザーやプラズマといったものであり、外の世界から見ればオーバーテクノロジーなのだ。

 それ故に、動作の確実性には不安が残る。

 しかし、波多達が手にしているのは外の世界の拳銃であり、そうした心配は無い。


 加村は人質の泉、それを拘束する男、波多を順に視線を走らせる。

「残念だけど、交渉は決裂かなぁ?」

 加村が言って“物干し竿”を構えた。


「何のつもりだ?」

 突然の加村の行動にケンは“でんでん銃”を向ける。


「それはそうだろう? 俺の目的はあくまで君の無事だ。その人の命は興味が無い」

「なんだと……?」


 睨み合う2人。ミクは目を丸くしてその光景を見ている。


「おい! 無視するんじゃない!」

 泉を拘束している男が叫ぶ。

 それを無視して加村は自身の“物干し竿”のトリガーに指をかけた。狙いは波多である。


「……」

 無言で加村を睨みながらケンも“でんでん銃”のトリガーに指をかける。


 辺りに緊張した空気が漂う。

 そこに居合わせた全員が誰が最初に動くのかという思考を巡らせた。


「おい! いい加減にしろ!」

 重苦しい空気に耐えられ無くなり、一番最初に行動を起こしたのは泉を拘束している男だった。銃口を加村に向ける。


「馬鹿が……!」

 波多が呟く。こんなチンピラを雇うべきでは無かったと後悔する。

 男か銃口を向けるという動作の後、狙いを着けるという、わずかなタイムラグを加村は見逃すこと無く、波多に向けていた銃口をずらして男に向けると、そのまま頭を撃ち抜いていた。

 始めから銃を構えていたとはいえ、恐ろしい早業である。


 そして、それと同時にケンは“でんでん銃”を波多に向けて、トリガーを引いて弾幕を浴びせていた。

 同じように波多も手持ちの拳銃をケンに向けてトリガーを引く。しかし、僅かにケンの動作の方が速く、波多の放った弾丸はケンの左肩をかすめただけであり、それを認める間もなく波多は胴体をレーザーの弾幕で焼かれた。


「クソッたれ……!」

 かすれた声で波多は言うと、最後にもう1発拳銃を撃とうと撃鉄を落とすも、トリガーを指にかける前に息が絶え、その四肢を床に投げ出した。


「無茶苦茶するなぁ……」

 そう言いながらミクは泉に駆け寄り、彼女を拘束してい縄と猿轡をほどく。


「中々、良いコンビネーションじゃないかなぁ?」

 加村が“物干し竿”を肩に担いで言う。

「本気で助ける気は無かったくせに、よく言う……」

 冷たくケンが言葉を返した。


「え?」

 泉が無傷であることを確認しながらミクが聞き返す。

「人聞きが悪いなぁ……。俺が波多を撃てば奴は動揺する。その隙に君が泉さんを助けるって算段だったんだけど?」

 加村は全く悪びれる様子が無い。


「かなり危険な賭けだな」

「他に方法は無かったろう?」


 その方法に納得がいかないと思うが、確かに加村の言う通りだとケンは目を伏せる。


「あなた達ねぇ……」

 2人の会話を聞いていた泉が唸るような声を出す。

「怪我は、無いみたいですね?」

 ケンがわざとらしく尋ねた。彼女に怪我が無いのは見れば明らかである。


「私もこの世界に来て色々あったけど、ここまで怖い目にあったのは初めてよ」

 泉がため息をつく。


「おい、何があった!」

 部屋の奥にある階段から声が聞こえ、全員が泉を助ける出したという弛緩した思考から、早くこここら逃げなければという思考に切り替えた。


「早く!」

 ミクが泉を支えて立ち上がらせるて言った。階段から複数の足音が降りてくる。


「……!」

 牽制の為にケンが手元に残ったプラズマ式手榴弾を2つ、階段に向けて投げた。

 熱と光、そして叫び声。

 それを背後に感じながら4人は走り出す。

 いつの間にか泉も倒れていた男の死体からレーザーライフルとバッテリーを取り上げている。この人物もギジの世界で生きてきたのだなとケンは関心した。


 急ぎ足で階段を降りる。途中に転がっている死体や、拘束した者達は一切無視。急がなければ、騒ぎを嗅ぎ付けた獅子王会のメンバーがやってくるかもしれないのだ。


 そんな思いが4人の足を早める。

 そうして進んでいくうちに、建物の出口が見えてきた。

 ケンが扉を蹴り開ける。


「アンタ達は……」

 そこにいたのは武器屋旅団の面々だった。


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