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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
武器屋旅団
45/112

45話

「尾けてきたのか……?」

 ケンが旅支度の為に食糧を手に入れようとした時だ。

 目の前に武器屋旅団の加村雅平がいた。


「まぁ、返事を聞く前に街から出られても困るからねぇ」

 フフンと嫌味な笑みを浮かべて加村が言う。

「まったく……」

 ケンは舌打ちをした。


「それに、君の今までの態度を見れば、どんな行動に出るかなんてある程度は予想出来るさ」

「お見通しって訳か……」

「あの人達……、ユリさんとミクさんって言ったかなぁ? 君がこの街を出たら追いかけて来るだろうからねぇ?」

「そうだろうな……」


 それが嫌だから、こうして誰にも告げずに街を出ようとしたのである。

 もし街を出るなんて言い出したら、あの2人……、特にユリが何を言い出すか分かったものではない。

 それどころか私達も着いていくなどと言い出しす可能性もある。それだけは何としても避けたかった。


「俺は1人の方が落ち着くからな……」

 ケンが呟くように言った。

「そうなんだ」

 それに対して、加村は疑うような口調で返す。


「君の戦い方は、誰かに援護してもらうこと前提の動きに見えたからね。てっきり、仲間がいた方が良いんじゃないかと思ったんだけど?」

「それは競闘の話だろう?」


 ケンの戦い方は、基本的に弾幕を張りながら相手の懐に飛び込むという動作を基本としている。

 しかし、この戦法は弾幕を張りながらの移動中は後方からの援護射撃が欠かせない。

 いくら移動してるからとはいえ、援護無しで単騎駆けは自殺行為なのだ。


「実戦でもそうさ。だからユリさんを人質に取られた……、そうだろう?」


 その言葉にケンは顔を加村にしかめる。

 確かに後方に任せっきりの癖がついていたかもしれないと思う。でなければ、ユリを人質に取られるなどというミスを犯したりしない。


「だったら尚更1人が良いな……。俺の戦いに誰かを巻き込まなくて済む」

「それが本音……。という解釈で良いのかなぁ?」


 解釈も何も無いだろうとケンは思い、加村の顔を加村に見る。

 加村はニヤニヤとした、悪巧みでも考えていそうな表情をしており、その顔が不愉快に思えた。


「どうとでも……」

 フゥとため息をついてケンが言った。


「加村くん!」

 その時、急に知らない男の呼び掛ける声がした。語気は荒く、何やら焦っているようにも聞こえる。


「先生?」

 加村が声の方向に答える。


 そこには眼鏡をかけた、長身の細い男が肩で息をしながら立っていた。年齢は20代後半くらいだろう。


「いや……、私は先生では……。まぁ、その話は良いです」

 先生と呼ばれた男は、どうやら武器屋旅団の人間らしい。

「どうしたんです?」

 そう加村が問いかける。


「それよりも、佐原くんは……」

 自分の名前を出されて、ケンはまた俺かと思い、顔をしかめた。


「ここにいますよ」

 加村が顎でさし、それと同時にケンが返事をする。


「それは良かった……。ってそうじゃない! 今すぐ2人共来てください! 大変なんですよ!」


 ケンと加村の2人は目を丸くして顔を見合わせた。


「君……、随分とトラブルが多いみたいだね?」

「だから1人が良いんだよ」


 加村が肩をすくめて言うと、ケンはやれやれとため息をつく。



/*/



 2人が先生と呼ばれる人物に連れて来られた場所は、街の中心部にある巨大なビルだった。

 そこは武器屋旅団のような、団体を客層にした宿屋である。

 そんなビルの1階のフロアにケンと加村は先生と呼ばれた男に連れられて来たのだ。


「で? 一体何があったんです?」

 そこに集まっていた武器屋旅団の面々を見回して、ケンが尋ねた。


「オアシスが襲われたんだよ……」

 武器屋旅団の中から暗い顔をしたユリが現れる。

「私達は何とか逃げられたんだけど、泉さんが……」

 今度はミクだ。


 その2人の言葉を聞いて、泉とは誰だったかとケンは首をかしげる。オアシスの人間でケンが関心があるのはユリとミクの2人だけだからだ。


「一体どういうつもりなかしら!」

 そう語気を荒くして言ったのは武器屋旅団団長であるユウコである。

「目的はケンちゃんみたいですよ? 私達が逃げる時にアイツらがケンちゃんと引き替えにって言ってましたし」

 ミクはチラリとケンを見て答えた。


「成る程……。さっきの返しか……」

 チッと舌打ちをしてケンが呟く。

 そこでケンは泉というのがオアシスの女主人であることを思い出す。


「まぁ、彼がオアシスを利用していた。オアシスの人間と親しくしていたのは衆知のことたがらねぇ……」

 加村が言った。


 まさか、私がケンと何度も接触していたのが原因じゃないだろうかとユリは思い、背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。


「なら、俺がこの街をさっさと出ていけば全て解決……」

 ケンは辺りを見回す。

 そして、全員の冷たい視線が自分に刺さるのを見て頭を振った。

「……という訳にはいかないか」


 頬をかいて眼をそらしながら、面倒な事だとケンは思う。


「まぁ、そうなったら泉さんが殺されて、あの店は連れ去った連中のものになるねー。そして、私達もおそらく狙われると……」

 ミクが言った。


「でも、そこまでしてケンに執着するのは何故なんだ?」

 自分のことに話題が昇らないように、ユリは話題を振る。これは無意識に出た言葉だ。


「俺に目を付けているなら獅子王会の一派だろうさ。奴等の傘下のチームとよく競闘でやり合っていたからな。あいつらならそれくらいやる、か……」

 ケンはユリを見て、その後に周りに視線を走らせた。ユリは競闘に興味が無いので、何のことやらという顔をしていた。


「あー、あのチームね。確か競闘を取り仕切るくらいの大手チームだっけ?」

 説明するかのようにミクが頷いて言う。


「つまり君にやられたまんまじゃ面子が丸潰れだと?」

 今度は加村の言葉だ。


「何それ! 逆恨みじゃない!」

 怒りを隠すこと無く、ユウコが叫ぶ。

 まるで、ケンの代わりに怒っているようだとユリとミクは思った。


「全くだ……」

 副団長であるアキラが静かに言う。

「まぁ、世の中往々にして納得のいかないことなんていくらでもありますからね。特にこの異世界自体とか……」

 合わせるように先生が言った。


「やれやれ……」

 ケンはそう言うと、顔を上げて一堂に背を向ける。


「何処へ行くんだよ?」

 ユリがそれを呼び止めた。


「奴等と話し合いに行く」

 振り向くこと無くケンが返す。

 ……が、肩に“でんでん銃”を担ぎ、腰のポーチに予備のバッテリーや、手榴弾をぶら下げている姿は話し合いをしに行く格好では無い。どう見ても一戦交える気満々の格好だ。


「ユリさん達は奴等に狙われない為にも武器屋旅団に匿ってもらうといい」

 ケンの言葉に武器屋旅団の面々が不満気な反応する。


「まぁ、安全は安全だろうが……」

 アキラが呟く。


「武器屋旅団の人に助けてもらうとか……」

 思い付いたようにユリが言う。武器屋旅団の一部はその言葉に眉をしかめたが、ユリはそれに気付かなかった。

 

「確か、武器屋旅団はマンハンター退治が専門で、対人戦はやらないんだろう?」

「あっ……!」


 対人戦という言葉にユリは反応する。

 対人戦……。つまりは殺し合いだ。ケンはこれから人を殺しに行くのである。

 それは、表立った言葉では無いが、彼の言わんとしていることは、そういうことなのだ。

 そんな事に赤の他人を巻き込む訳にはいかない。

 ただでさえそんな人達に匿ってもらっているのだから。


「まぁ、私達は人殺しはやらないわ。あくまで行商人だからね」

 ユウコが言った。周りの団員もお互いに目配せをして頷く。彼女は武器屋旅団団長であり、彼女が駄目と言えば駄目なのだ。


「あ! じゃあ競闘で使うショックガンは? あれは殺傷力無いんだろ?」

 ユリはすがるような目で辺りを見る。

「無駄だよ。あんなのは所詮玩具だ。対処方法なんていくらでもある。しかもあれは競闘の時にレンタルするのが基本だから俺は持ち合わせていない」

 マントを軽く翻ながらケンは自分の着ている白い鎧を見せた。この鎧でも少し弄れば対処可能という意味を暗に示したのだ。


 ユリは口をつぐむ。


「そういう訳だ。ま、何とかしてみせるさ」

 そう言ってケンは再び一堂に背を向けて、左手をヒラヒラと動かした、


「ケン……」

 そんなケンを心配して見つめることしか出来ない自分に、ユリは苛立ちを覚える。



/*/



「ここ、だったかな……?」

 闘技場の側にあるビル。その前でケンが呟く。


 獅子王会。

 トウの街にある競闘のチームの中で最大手のチームであり、傘下チームは弱小から中堅まで含めれば20を越える。

 大手チームの中には傘下にチームを持つことは珍しくは無いが、それでも平均は5つから6つくらいなのだ。


 こうした事もあり、このチームはトウの中にはではかなり幅を利かせており、更に競闘自体を取り仕切ってもいた。


 所謂ヤクザのようなものであるといえば分かりやすいであろう。


「ここに泉とかいう中年の女が連れて来られなかったか?」

 ケンはアジト前に立っていた見張りの男に尋ねた。


「はぁ? 誰だお前は?」

 突然の来訪者に男は思わず聞き返す。

「あぁ、佐原ケンだ。ここに来るように言われていたんだが……?」

 フゥとケンは肩をすくめてみせる。


「あぁ、そういうことか。大将から話を聞いてるぜ。何かやらかしたらしいじゃないか?」

 男はニヤリと笑う。

 どうやら話は通っていたようだとケンは確信した。


「そうかい……」

 それだけ呟くと専用のホルスターから“でんでん銃”を抜き、そのまま男の顎に突き付けて引き金を引く。


 ほんの一瞬の出来事だった。


 男はケンが何をしたかを理解する前に頭をレーザーで撃ち抜かれ、その意識は途絶える。


 一切、容赦の無い行動。

 ケンは敵と認識した者は、例え人間だったとしても殺すことに躊躇いが無い。


「正面突破かい? 君、随分と無茶をするねぇ……」

「旅団は対人戦はしないんじゃ無かったのか?」


 ケンの真後ろには加村がいた。その左側にはミクの姿もある。


「俺は団長達みたいに甘く無い」

 ニヤリと口の端を歪ませると、加村が近付いて言った。

「それにしても手伝う理由が無い」

 ケンの言葉を聞きながら、加村はそのまま横を通り過ぎてアジトを見上げる。ケンもそれに倣った。


「君が気に入った……、という理由じゃ駄目かなぁ?」

「訳が分からない……」

「言葉通りさ。君、結構腕が立つからねぇ……? 俺の仕事を楽にする為にも君には旅団に入って欲しいのさ」

「その為に、旅団の決まりを破るのか?」

「それは違う。旅団として対人戦はやらないけど、個人では別さ。俺は個人的に君を手伝う」

「ものは言い様だな……」


 次にケンはミクに視線を向ける。

 

「で? ミクさんは何なんです?」


 その言葉にミクは「つれないなー」と口をとがらせた。


「泉さんは私達の恩人だからねー。助けるのは当然でしょ?」

「対人戦になりますよ?」

「ケンちゃんよりかは対人戦……、殺した人の数は多いと思うよ?」


 そう言ったミクの目は本気だった。

 口調はいつもの気の抜けた雰囲気だが、目は何人もの人間を殺したドス黒い目である。


「じゃあミクさん……。援護をお願いします」

「りょーかい!」


 ミクは右手で敬礼のポーズをした。


「俺は?」

 加村である。

「アンタは好きにしろ。俺はアンタに助けられたからって旅団に入る気は無い」

 キッパリとケンが断言して、加村はそれにフンと口の端を歪ませた。


「なら、好きにさせてもらおうかなぁ?」

 加村が言って、敵である獅子王会のアジトに歩き出す。

 2人もそれに続いた。

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