表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
武器屋旅団
41/112

41話

 あれから数日が経った。

 ケンは一度もミクとユリがいる食事屋、オアシスに立ち寄ることは無く、競闘に選手として参加している。


 ミクとユリの2人はオアシスを手伝いつつ、ミクは競闘に興じ、ユリは競闘を終えたケンを捕まえて、オアシスに連れていこうと試みていた。


「しつこいな……。俺に関わらない方が良いって言ってるだろう」

 その日もケンは試合の帰りにユリに捕まっていたのだ。


「そうは言うけど、お前自分の家さえ無いんだろう? 依頼したチームメンバーや旅人用の宿を借りて、その日暮らしをしてるって……」

「……」

 ユリの言葉にケンは何も答えること無く、着ているマントのフードを被り、顔を隠すようにして競技場出る。


「別に競闘を止めろとは言わないさ。生活費を稼ぐ為には仕方無いだろうし、マンハンターと戦うよりは安全なのも分かる。でも、自分の住む所くらい……」

 口を尖らせながら言うユリにケンは顔をしかめながら街中を歩く。

 だが、言い返す気にはならない。彼女が自分のことを心配しているのであろうことは分かっていたからだ。


「ケン! 聞いているのか?」

 自分の話に何も反応しないで歩き続けるケンに苛立ち、ユリの語気が強くなる。


 その時だった。


「おい、お前ケンとか言ったな……?」

 ケンの後ろから、図体の大きいスキンヘッドの男が声をかける。


「俺か……?」

 ケンは男に振り返った。隣にいたユリはケンが小さく舌打ちをした音を聞く。

 

 男は遠慮すること無くケンに近付くと、ケンの頭を覆っていたフードを剥がした。


「やっぱり佐原ケンだな」

 ニヤリと男が笑う。それに合わせたかのように、何処からともなく似たような図体の大きい男達が現れた。


 ケンは呆れたようにため息をつく。ユリは状況が飲み込めずケンと男達の間に視線を泳がせる。


「何か用か?」

 ユリの一歩前に出てケンが尋ねた。


「何、大したことじゃないさ」

 スキンヘッドの男が言うと、周りの男達もニヤニヤと笑う。

「なら、さっさとしてくれないか?」

 ケンはそう言いながら周りの男の人数を数えて、手持ちの“でんでん銃”のセーフティを外した。


「あぁ、前々からお前に言いたいことがあってな」

「言いたいこと?」

「困るんだよ。お前みたいに実力がある奴が何処のチームにも入らないで、あっちこっちのチームの手を貸すのは」

「談合をするのには都合が悪い、か……」


 談合というケンの言葉にユリは首を傾ける。


「談合?」

「よくある話さ。お互い、事前にどっちが勝つ

かを決めて試合をすることだ」

「それは、ズルいな……。でも、すぐにバレそうな気がするんだが……?」

「だからさ。大手のチームは談合試合専用の弱小チームを傘下に抱えているんだ」


 ケンが説明を進めるほど、男達の顔は強ばっていく。


「それに、談合でどっちのチームが勝つか分かっていれば、そこに賭けて丸儲け出来るからね」

 ケンが嘲笑うかのよう言うとユリは「なるほど……」と納得した。


「よく分かってるじゃねぇか。ならお前みたいな奴が俺達にとって都合が悪いのも分かるよな?」

 男が唸るように言う。今にも襲いかかってくるような生のプレッシャーをユリは感じた。


「あぁ。俺が負けチームに入ることで、勝てるはずのチームが負ける訳だからな」

「そういうことだ」

「それは、そっちのチームが弱いだけだろう? たかが1人の人間に試合をひっくり返されるんだから」

「言ってくれるねぇ」


 男達の中からヒュウという口笛が聞こえる。まるで映画に出てくるギャングのようだとユリは思った。

 これからどうなるのかと不安に思い、額から嫌な汗が出る。


「よーく聞け坊主。お前はこれから2つ選択肢がある」

「選択肢?」


 ありもしないことをよく言うよと内心でケンは男を嘲笑う。


「1つは俺達のチームに入ることだ」

「もう1つは?」

「ここで俺達に二度と競闘に参加出来ない体にされることだ」


 スキンヘッドの男はニヤリと笑い、周りの男達もヘラヘラと静かに笑った。

 ケンはそれらを見回すとフゥと息を吐く。


「第3の選択肢だ。俺は何処のチームにも入らない。競闘も続ける、だ」

 堂々とケンは言うと“でんでん銃”を握っていない左手でユリを押した。

 それは、物影に隠れていろというケンの意思表示であり、ユリはそれをすぐに理解して押されるがままに近くの建物の影に隠れる。


「お前ら! この餓鬼をやっちまえ!」

 スキンヘッドの男が叫び、ユリを押し出したケンはすぐに身を翻す。


 次の瞬間には男達が手持ちの武器をケンに向けていた。

 それらは競闘で使われるショックガンでは無く、全て実銃であり、当たれば命の保証は無い。


「殺し合いじゃないか……!」

 ユリはそれを見ながら恐怖に震える。


 ケンは男の銃撃を交わすと“でんでん銃”を男に向ける。

「撃ったな……? だったら俺も撃つぜ」

 間髪入れずにトリガーを引いて男にレーザーの雨を浴びせた。


 男は全身にレーザーを浴びて息絶える。


「野郎!」

 スキンヘッドの男が叫び、後は乱戦だ。レーザーが飛び交い、それを食らった人間が焼かれて倒れる。


 ユリは目の前で行われる行為に恐怖していた。

 犬の喧嘩の様に軽く始まっているが、これは殺し合いである。

 こうも簡単に人間同士で命のやり取りが起こることに恐怖したのだ。


 しかも、その中心にはケンがいた。

 彼もまた簡単に人の命を奪ったのだ。


 いつかの村の襲撃の時とは違う。

 あの時は感情を剥き出しにした獣のようであったが、今回はまるで流れ作業の様に襲い来る男達を殺していく。


「この餓鬼!」

 男が叫び殴りかかる。ケンはその男を“でんでん銃”で撃ち抜くと、その体を盾にして他の男が撃ったレーザーを防ぐ。

 そのまま盾にした男の体を銃口で押し倒し、その後ろにいた男達に弾幕を浴びせる。


 小柄ですばしっこいケンは乱戦に滅法強かった。

 これは旅の途中でマンハンターや暴徒と、1対多数の戦いを強いられた経験から得られたものである。


 ケンに翻弄されて次々と倒れていく男達をユリは建物の物影から見ているだけであった。こんな乱戦に入っていく自信も無く、人を殺すことに強い嫌悪感があったからである。


 最後の1人がケンのレーザーを背中から浴びて倒れたのを見ていた時だ。

 ユリは大きな手に肩を掴まれる。驚いて後ろを見ると、レーザーライフルを持った男が肩で息をしながら立っていた。


「うわぁっ!」

 ユリが叫ぶ。


 何事かとケンが振り向くと、そこには左腕をユリの首に巻き付けて右手に持ったライフルの銃口をユリの頭に突き付ける男がいた。


「動くな! 武器を捨てろ!」

 男がゼイゼイと肩で息をしながら言う。それを見たケンは舌打ちをした。


 どうする? こいつの頭だけを撃ち抜ければ良いんだが、そんなに俺は射撃がうまくない。おそらくユリさんの頭を撃ち抜く可能性の方が高い。

 なら武器を捨て、こいつが俺にライフルを向けた瞬間に懐に飛び込むか?

 ケンの頭の中で、どう動いたら良いかという思案が次々と浮かんで渦を巻く。


「全く……!」

 吐き捨てるように言うと、ケンは“でんでん銃”を地面に置く。

 男がこちらにライフルを向けた瞬間を狙うことにしたのである。


「ケン……」

 ユリが小声で呟く。

 ケンはどうするつもりなのかという疑問と、こんな目に会う自分に対する情けなさ、申し訳ないという思いから、思わず涙が出る。


「そうだ。関係無い女を巻き込みたく無いだろう?」

 男が言って下卑な笑いを浮かべた。

「……」

 ケンは何も答えない。


 その時だ。


 一瞬、男の額からオレンジ色の光が漏れた。

 ケンが何かと思った次の瞬間、男の額の内側から煙と血飛沫が溢れる。

「あちゃい!」

 男が訳の分からない叫びを上げると、ユリの首に巻き付いた腕を外して、膝から崩れ落ちた。


「やれやれ……、君はもう少し周りを見た方が良いんじゃないかなぁ……?」

 人を見下したような、冷たくもねちっこい声が倒れた男の後ろから聞こえた。


「誰だ?」

 ケンが呟く。

 そこにはレーザー式の狙撃銃こと“物干し竿”を抱えた男が見える。

 男はケンを一瞥すると口の端を歪めてニヤリと笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ