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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
4/112

4話

 村長はケンを一瞥してから、一度咳払いをした。どこから説明したら良いかと考えたからである。

「そうだな……。ここは“ギジの世界”と呼ばれる……、まぁ分かりやすく言えば異世界だよ」


 異世界?


「何ですって?」

 そのあまりに唐突な話にケンは思わず聞き返す。


「君が驚くのも無理は無い。しかし、事実だ」


 村長の言葉通り、ケンは実際にそうとしか説明が出来ない体験をしていた。

 いきなり、自分が知らない場所にやってきたことや、先程のロボットである。


「どうして、我々や君がこの世界に来たのか、そもそもこのギジの世界とは何なのかについてはいまいち分かっていない」

「説明するって言っておきながら分からないんですか?」


 ケンはそのまま思ったことを口にした。村長やミクはそれに苦笑する。


「まぁ、ここがSF小説で言うところの平行世界とか、タイムスリップしてやってきた未来の日本とかって説はあるんだけどねー。でも私たちはその道の学者じゃないから分からないんだよ」


 ミクのその言葉ににケンは「そういうものか」と小声で呟く。


「まぁ、なんにせよここは異世界ということが分かればそれで良いんじゃないか?」

 村長と一緒に部屋にいた青年が言った。


「自己紹介が遅れたな。志村恭平だ」

「どうも」


「話を続けて良いかな?」

 村長が言って、2人は頷く。


「さて、ここが異世界なのは言った通りなのだが……、君も知っての通り、この世界は我々がいた世界とは色々違うところがある」

「さっきのロボットですか?」

 村長が頷く。


「あんなものは外の世界には無かったはずだ」


 外の世界?


 何のことかとケンは思ったが、すぐにそれが佐原研という人間が存在していた、元の世界であることに思い当たる。

 どうやら、このギジの世界では元の世界のことを外の世界と呼んでいるようだ。


「あれはマンハンターと呼ばれているよ」

「マンハンター?」


 ケンは、また知らない単語が出てきたと思い、その単語を聞き返す。

 世界が違うのは分かるが、何でもかんでも名前を付ければいいものじゃないだろうと、呆れに近いようなものを感じた。


「人間を狩っていくロボットだからな」

「分かりやすい名前だよねー」

 村長の言葉に続けてミクが言う。


「そんな大層な名前付けなくてもロボット兵だけで良いのでは?」

 ケンは思ったことをそのまま口に出して言った。それを見た村長は、あまりにもハッキリと物を言うケンに苦笑する。


 若いな……。


 村長と志村はケンを見て同じ事を思った。

 自分が思った事や感じた事を、そのまま口に出して言えるのは若さゆえの特権なのかもしれない。

 人は年齢を重ねるに連れて、社会の中で生きていくことになる。その中では、感情に任せた発言は自分の身を滅ぼすことになるのだ。

 しかし、まだ社会のことを何も知らない若者といのは感情のままに行動する。今のケンはまさにそれだった。


 そして志村が口を開く。


「どの世界にも何でも名前を付けたがる奴はいるものさ。それにロボット兵じゃ味気ないだろ?」

 志村の言葉にケンは「はあ」と返す。


「まぁ、とにかくだ。あのマンハンターは人間に対して見境なく攻撃を仕掛けてくる。いわば、この世界における“敵”だ」

「敵、ですか」

「何故人間を襲うのか、奴等はどこから来たのか、そもそもマンハンターなんてものを作ったのは誰か、その辺りはよく分からないがな」

 

 つまり、マンハンターとは人間を襲うロボットであり、それ以上のことは分からないということだ。


「調べましょうよ……」

 村長の説明をいい加減だと思い、ケンは分からないことがあれば調べるというごく当たり前のことを指摘する。


「そうしたいのはヤマヤマだが、この世界じゃ1日を生きるだけで手一杯になる。そんな余裕は無いんだよ」

 志村がそう言って嘆息する。それに合わせてミクが「アハハ…」と力なく笑った。


「でも、分かっていることもある」

 そう口を挟んだのは先ほどからケン達の会話に加わらないで眺めていたユリである。

 もっと言えば、会話に加わらなかったのではなく、会話の波に乗れなかったというのが正確なところだ。


「分かっていること?」

 そんなユリにケンが聞き返す。そのことで、ユリはようやく自分も会話の波に乗れたと安堵した。

「マンハンターは主に町を中心に活動しているんだ」

「町?」

 聞き返したケンにユリが答える。


「ケンちゃんが最初にいた所だよ。私たちは廃墟って呼んでるけどねー」

 答えたユリの跡にミクが口を挟んだ。


「最初にいた場所……」


 ケンは自分が一番最初にいた町を思い出す。誰もおらず、風化した様な建物がいくつも並ぶ不気味な場所だった。

 そこは確かに廃墟と呼ぶに相応しい。


「そう、マンハンターはその廃墟を中心に活動している。だから私たちはこんなところに村を作って暮らしているんだ」

 そのミクの言葉で、ケンはこの村の作られた理由を理解した。


 廃墟といえど町は町なのだ。1から村を作るよりかは先ほどの廃墟を利用したほうが明らかに生活は楽になる。

 しかし、ここの村の人間はそれを行わなかった。

 その最大の理由が、廃墟をマンハンターが徘徊しており、常に人間を狙っているからなのだ。


「もっとも、その廃墟にいるマンハンターを殲滅して新しく町を作ったところもあるけどな」

 志村が言った。


「ここ以外にも人がいるんですか?」

 ケンは若干驚いた様子で尋ねる。

「ああ、いるさ。結構な数が」

 何て事の無いといった風に志村が答える。


「少なくともこの世界は10年以上前から存在してるって話だ」

「いや、12年以上前だ」

 志村の言葉を村長が訂正した。それを見た志村が肩をすくめる。


「少なくとも私は12年以上この世界で暮らしている」

 そう言って村長はフンと見様によっては自慢げにも見える鼻息をした。


「ちなみに私はまだこの世界に来て3ヶ月だ」

「私とキョウは2年位かなー?」

 ユリが言って、ミクも後に続く。


 ちなみにミクが言ったキョウというのは志村のことらしい。ミクの言葉の後に志村が頷いたことからケンはそう判断した。


「何だか話を聞いていると、みんな外の世界から来たような感じですね?」

 ユリとミクの言葉を聞いてケンが言う。

「というかこの世界出身の人なんていないんじゃない?」

 それに答えたのはミクだ。


「少なくとも私は聞いたことが無いな。この世界で生まれた子供も、親は外の世界から来た人間だ」

 村長が補足する。

「おそらく、この世界に最初から存在するのはマンハンターと廃墟の町くらいのもんだろう」

 志村が言った。


 それらを聞いたケンは半ば呆れた。

 普通に考えて異世界へ来てしまうなんて事を経験する人間などはまずいない。

 例えいたとしてもごく僅かなものだとケンは考えていたからだ。

 しかし、志村や村長の話を聞く限りでは結構な数の人間がこの世界に来ているらしい。


「そんな空想物語みたいな事を経験する人がホイホイいるなんて思いたくないですね」

「だが、そんな人間がホイホイいるのがこの世界さ」

 ケンの言った言葉に志村がニヤリと笑って返答した。


「ま、何かの物語の登場人物になったと考えようや」

 こういう発言をポジティブと言うのだろうか?

 一瞬、ケンは考える。


「あー、話が大分ずれたが続けても?」

 村長が本筋からずれた話題に一段落が着いたと判断して言う。

 3人は首を縦に振って返答した。

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