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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
武器屋旅団
35/112

35話

 ユリとミクが村を出てから数日が経った。

 ミク曰く、ケンの行き先は大々予想が付くとの事であり、それに従って2人は進んでいる。

 道中ではマンハンターに襲われたり、食糧が無くなりかけるといったトラブルに見舞われるも、ミクの機転や途中で集落を見付け、物資を分けてもらうなどをしてやり過ごすことが出来た。


 全くもって生きていくには辛い世界だとユリは思う。それは、この世界に来た時から分かっていたことではあるが、それでも村にいた時と今とでは大分違う。

 あんな村でもコミュニティには違いない。そのコミュニティから外れるだけで、こうも苦労するとは思わなかったのだ。


「ケンは大丈夫なのか……?」

 ミクとの2人の旅とはいえ、ユリはこれまでに何度か命の危険を味わっている。

 1人で村から出て行ったケンは、もうすでに死んでいるのではないだろうか?

 ユリは口に出さないでそう思う。それはミクも同じたろう。


 それにも関わらずケンを追いかけるのは、村から出て行く為の理由付けに過ぎず、ケンの生死など初めからどうでも良かったのかもしれない。


「なぁ、ケンの行き先って一体どこなんだ? 前に大体の見当が付いてるって言ってたけど……」

 ユリはそんな自分の考えを忘れる為にミクに尋ねた。


 それに対してミクは一度「んー」と唸る。ユリはそんなミクを見て、適当な事を言ったんじゃないだろうなと訝しんだ。


「闘の街って場所なんだけどねー」

「“トウ”の街?」


 聞き慣れない単語に不思議な物を見るような顔でユリが聞き返す。


「とりあえず便宜上はそう呼ばれている街だね。私達の村よりも大きい街だよー」

「そうなのか……。でも何でそこにケンがいると?」

「ケンちゃんが向かった先では結構大きい街だし、私とキョウもそこにいたことあったからねー」

「ふーん」


 ミクは志村とこの世界をさまよっていった時期があったらしいという話を聞いたことをユリは思い出す。

 

「その闘の街って一体どんな所なんだ?」

「え? ……あー」


 ユリの質問にミクは言葉を濁した。「何だよ?」と疑問の声を投げかけるユリ。それに対してミクは乾いた笑いを浮かべてユリから目をそらす。


「うん、私は好きだよー? 治安も悪くないし」

「そうか……?」


 だったら何故言い淀んだのだとユリは内心で思った。それを口に出さなかったのは、その街が危険であるとミクが言わなかったからである。もしも危険があるのなら必ず警告されるだろう。


「まぁ、腕っぷしが強いのや、ならず者が多いけどね……」

 ミクが小声でボソリと言った。

「何?」

 思わずミクに顔を向けるユリ。ミクは視線を反らして、何の事やらとでも言うようなとぼけた顔をしていた。


「大丈夫だよー、裏通りに入らない限りは安全な街だからさー」

「アテにならないなぁ……」


 やれやれとため息をつき、そう呟やくとユリは前を向く。


「あ! あれ」

 ミクが声をあげる。

「ん?」

 ユリが視線を向けると遠目に人の行列が見えた。おそらく20人はいるだろう。


「行商人かなー?」

 物資の補給が出来るかもしれないと期待してミクが言った。

「盗賊団かもよ?」

 ライフルを手にしてユリが答える。

 それを聞いたミクは、随分と警戒心が強くなったものだと思った。


「えーと、あれは旗か……?」

 ユリは行列の中に旗を掲げている者がいることに気付く。黄色い下地に黒い模様が入っていた。


「うーん、ここからじゃよく見えないなー」

 目を細めてミクが言った。

「えーっと……、行連09……?」

 同じように目を細めて旗を見ていたユリが言う。

「凄っ! 見えるの?」

 ミクが驚いて言った。

「実は……、目の良さには自信があるんだ」

 照れながらユリが答える。

 道理で射撃が正確なはずだとミクは内心で感心した。単純に彼女の視力が良いことを羨ましくも思う。


「良いなー」

「それよりも、あの人達は……」

「あぁ、行商人連合だよ。行商09っていうのは行商人連合第9旅団の略称だね」

「旅団?」


 旅団という聞き慣れない単語にユリが疑問の声を出す。


「行商人連合っていうのは、元々はいくつかの行商人達が集まって出来たものなんだよ」

「それは知ってる。いくつかの行商人達同士で情報や物資のやりとりなんかをしてるって話だったよな?」

「そう。でもここ最近はその規模も大きくなって、いくつかの部隊に別れてこの世界をあちこち回っているんだよ」

「それが旅団?」

「うん。あれは行商人連合の9番目に出来た旅団だねー」


 ユリは「ふーん」という声を出して、近付いてくる旅団の姿を見る。


「偽物、じゃないよな……?」

 そして突如思い浮かんだ不安を口に出して尋ねた。

「そういうせせこましいことを考える連中なら、行商人連合オリジナルの旗を用意出来はしないよ……。しかも数は4本……。間違い無く本物の行商人連合だね」

 ミクはようやく見えてきた黄色い旗を、行商人連合の物と確認して答える。


「良かった……」

 ユリはホッと胸を撫で下ろす。行商人連合なら信用に足るからである。


「ユリちゃんは行商人連合を見たことは……」

「あるよ。一度だけ……。この世界に来たばかりの時……」

「そうだっけ?」


 ユリが頷く。

 行商人連合もユリ達に気付いたのか、先頭にいる者がユリ達を指差して後ろの者に何かを伝えていた。

 それを見たミクは行商人連合に向かって大きく手を振る。行商人連合もそれと同じ動作で答えた。


「一応、武器は持ってなよ? 絶対に安全って訳じゃないからねー」

 武器を下ろそうとしたユリにミクは釘を指すように警告する。

「あ、あぁ……」

 ユリは手持ちのレーザーライフルを持ち直した。


「絶対に安全か……」

 ユリが呟く。


 思えば、外の世界でも事故や病気による死の可能性がというものは存在する。

 しかし、ギジの世界に比べればその可能性は遥かに低く、普段から意識することは無く死というものは非日常なものと言っても過言ではない。

 だが、ギジの世界において死は日常の中に溢れるものとなっており、それ故に普段から死を意識して生活をしている。


 つまり、いつ死ぬか分からないということだ。


「だからか……? 私がケンを探すのは……」


 いつ死ぬか分からないから、生きている間に何かをしたい。死ぬ時になって何もやらないで、ただ生きているだけの人生だったと後悔したくないから、ケンを探しているのかもしれない。


 だとしたら皮肉なものだとユリは思う。


 それはつまり、死と隣り合わせになって初めて生きる目的を見付けたということであり、そこまで追い詰められなければ、ただ毎日を意味も無く生きているだけの空っぽな人間だったということだ。


「本当に、おめでたい人間なのかもな……、私は……」

 ユリは誰にも聞こえない声で呟いて自嘲する。


「ユリちゃん?」

 そんなユリにミクが声をかけた。

「ん? どうした?」

 我にかえってユリが返す。


「やっぱり本物の行商人連合みたいだよ?」

 いつの間にかユリ達の目の前に先程の集団がいた。


「あぁ、私達は行商人連合第9旅団ですよ」

 先頭に立っていた男が言って、営業スマイルを見せる。

「どうも……」

 ユリとミクは軽く会釈をした。


「えーと、私達はこれから闘の街へ行きたいんてすけど……」

 ミクが言った。

「それなら、このまま道なりに行けば3日程で着きますよ」

「あら、意外と近くまで来てたんだ」

 驚いたような声でミクが言う。ユリは逆に、まだ3日も歩かないといけないのかと憂鬱になる。


「そちらは闘の街から?」

 ミクが尋ねる。

「ええ。もしかして何か入り用で?」

 男はさも当たり前のように話題を商談に持っていく。


「あー、そうですね。食糧と飲料水? あと闘の街のアレを少しばかり……」

 エヘヘと苦笑するような表情でミクが言った。

「成る程……」

 それを見た行商人連合の男はそう答えて、何やら後ろの男に指示を出す。

「ユリちゃんは何か欲しい物あるー?」

 ミクは振り向いてユリに尋ねた。

「え? いや、私は無い……かな?」

 急な質問に頭の回転が間に合わず、ユリはいい加減な答えを言う。


「うーん、バッテリーにライフルかぁ……」

 行商人の男とユリはいつの間にかお互いの物資を見せ合って商談に入っていた。


「結構苦労したんですよー?」

「それは分かるけど、こんなもんですね……」

「えー、もう少し色付けてくださいよー」

「市場価格としてはこれでも多いくらいですって」


 そんな会話が行商人とミクの間で繰り広げられる。それを見たユリは場慣れしているなと思う。


「仕方無いかー」

 ミクが落胆したような声で言った。商談はまとまったらしい。


「話はまとまったのか?」

「うん。まぁ、しばらくは食糧は何とかなりそうだねー」

「そうか」


 ユリはこれから自分達が進んで行く道に視線を向ける。延々と一本道か続いているのが見えるだけで、その先に街があるとは思えなかった。

 まだまだ先は長いのだと思い、ため息をつく。

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