34話
「しかし、よくここまで色々ため込んでたな?」
ミクの背負ったバックパックとユリ自身の背負うバックパックを思ってユリが言った。
2人が背負った冷蔵庫にも似たバックパックには武器の予備バッテリーに保存の効く食糧、飲料水や衣料品等といった様々な物資が詰まっているのだ。
「何だかんだで皆こっそりためているよー?」
探索班が集めた物資は一同全て提出してから、村人に必要な分だけ分配されるのだ。したがって、普通に考えれば個人で持てる物資はたかが知れている。
しかし、ミクはどうにかして提出する物資をチョロまかして、分配されている以上の量を所持しているのだ。
こうした物資のチョロまかしは珍しいことでは無く、他の村人も行っており、公にならない限りは黙認されていた。
だが、ユリは真面目な性格からそういった事情を知らなかった為に、分配された量の物資しか所持していない。
「何か、ゴメン……」
自分とミクの物資の量の差と、自分の馬鹿正直さを思って謝る。
「まー、気にすること無いよ」
ミクはニヒヒと笑いながら答えた。こんなことほ予想の範囲だからである。
「それじゃあ行きますか」
「ああ」
「ユリちゃん、覚悟は良い?」
「ケンは私達以上に辛い目にあっているかもしれないんだ。だったら私だって」
「オーケー、それならいいよ」
2人は村の門へ向かった。そこはケンが出て行った門であり、そこからケンの足取りを辿って行くことに決めたのである。
「ん? アンタ達どうしたの?」
門番の女が、明らかに重装備の2人を驚いた顔で見て何事かと尋ねた。
間髪入れずにミクは手持ちのライフルの銃口を女に押し付ける。
「私達、この村から出て行きます。大人しく門を開けてくれませんかねー?」
「なっ……!」
女はユリの突然の行動に驚いて、その動きを止める。
その後ろで、ゴゴゴという重い物が引きずられる音が響く。
「開けたぞ」
門を開けたのはユリだ。ミクが門番の女を脅している間に開いたのである。
「ありがとー」
その光景を、銃を突き付けられた女が目を丸くして見ている。ややああって何が起こったか理解して怒りを露にして口を開いた。
「アンタ達、こんなことして何のつもり……?」
ユリが目を伏せて、ミクがフンと鼻で笑う。
「見ての通り、村から出て行くんですよ。素直に出て行くと言っても止められるのがオチなんで乱暴なやり方ですけどねー」
「そう……。志村さんや佐原君の事を恨んでいるのね……!」
門番の女が歯軋りをしながら言った。
「すいません……」
「白河さん……、あなたまで……」
「この村の、勝手な都合に付き合うのはもう嫌なんです……!」
「ユリちゃん、行くよー」
ミクは門番の女に銃口を向けながら、開いた門へ足を向ける。ユリも頷いてそれに続く。門番の女は2人を恨めしそうな顔で睨んだ。
「じゃあそういうこと、でっ……!」
ミクはそう言うと、脅しの為にライフルを女の足元に数発撃った。
「きゃあっ!」
足元をレーザーで焼かれた女は驚いて尻餅をつく。
「行くよっ!」
「今までお世話になりましたっ!」
その隙にミクは走り出して、ユリも軽く会釈をしてからミクの後に続いて走り出す。
その後ろで門番の女が罵りの言葉を叫ぶ。
「もう、後戻りは出来ないよー?」
走りながらミクが尋ねる。
「何を今更……」
言ってからフフっとユリは笑う。
ユリの心は不思議と軽い。出て行く前はあんなに不安だったのに、今はそれが全て消えたのだ。
あの重苦しい村から出たことで、心に巻き付いた鎖から解放されてのである。
それはミクも同じであった。
「何だろうな……? 少しワクワクしてきた」
「ここからき大変だよー?」
「大丈夫だよ、きっと」
しばらく走って、村からの追っ手が無い事を確認した2人はそこで笑いあった。
もう、2人の行動を縛るものは無い。
あるのは広い世界と自由と危険である。