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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
31/112

31話

 一緒に戦っていた仲間であるはずの香川が死んだ。

 しかし、ケンは何の感慨も沸かずにそのまま敵の拠点の中へ侵入した。


 それは香川が迂闊な行動を取った結果であるために自業自得だろうと思ったからか、それとも日が経っていないので関心のある人間で無かったからか?


 そんな事を思いながら建物の間取りがどうなっているかを確認する。


 拠点の建物は元々雑居ビルだったのか、階段を中心に廊下が左右に伸びて、廊下を挟み込むように部屋が幾つか配置されていた。


「狙撃っていうなら一番上だろうな……」

 ケンはそう呟いて階段を上ることに決める。その途中の玄関では、建物内まで響かせる戦闘音の中で敵の兵と思われる人間が右往左往しており、時折誰々がやられたというような声が聞こえた。


「ちゃんとやってるじゃないか」

 香川は無駄死にをしたなとケンは思った。

 敵に見付かる前に狙撃手を倒そうと階段を駆けていく。


「誰っ……!」

 3階へ上がった時だ。ケンは女の声を聞く。


 振り向けば、自分と同じくらいの年齢の女がライフルを構えていた。

 自分に向けられたライフルを見て、脊椎反射的にケンもでんでん銃を女に向ける。

 女は自分に向けられた銃口を見てビクっと体を震わせた。


 素人だ。


 この女の反応はロクに武器を持ったことの無い素人のものだとケンの思考が告げる。

 ならば、適当に脅せば抵抗しないだろうと思った。


 が、体は全く違う行動を起こしていたのだ。

 つまり、この女は敵であると。


 銃口を見て震えた事を一瞬の隙と判断。そのまま狙いを付けて、でんでん銃の引き金を引いて女を撃つ。


「え……?」

 女の声では無い。


 それは体が勝手に動き、女を敵として排除したケン自身の驚きの声だった。

 目の前でスローモーション再生のように倒れる女。


 その肢体が廊下に倒れこんだ時、ケンは銃を降ろす。心臓が馬鹿みたいに早い鼓動を打ち、冷たい汗が背中を伝う。


「何をしてんだ俺は……!」


 殺した女を見下ろして歯噛みする。殺す必要性は無かったのに、体が勝手に動いて女を殺したことに憤りを覚えた。


 しかし、その憤りも外の戦闘音を聞いて流れる様に消えてしまう。

 今はそれどころじゃ無い。

 自分のやることがあるだろうと思い直して、再び階段を昇る。一歩一歩進むごとに心は冷えていき、殺した女の事を忘れていった。


 そのまま4階に上がった時だ。ケンは更に上に上がる階段を見付ける。それは屋上へ続く階段だった。


「屋上か……」

 ケンはそう呟いて、迷わず屋上へと進んでいく。

 階段を昇り、屋上へ出る扉のドアノブに手をかけて音が出ないように慎重に回した。

 扉が開いて、目の前に何も無いコンクリートの屋上が広がる。


 屋上の中央には男が寝そべるようにして長物のライフルを下に向けていた。それがケンの排除対処である狙撃手である。

 この時、初めて狙撃用ライフルこと“物干し竿”を見たが、やはり言われた通りにライフルよりも長い物だとケンは思った。


 ケンは足音をたてないように摺り足で狙撃手へ近付いていく。


「やった!」

 狙撃手か歓声を挙げる。おそらく村野側の誰かがやられたのだろう。

 それを見たケンは次はお前だろうと内心で冷笑する。


「楽しそうだな? 俺も仲間に入れてくれよ」

 狙撃手のすぐ後ろに立ち、でんでん銃の銃口を男の頭に突き付け口の端を歪ませて笑う。


 あまりに突然の事に狙撃手は得物を取り落とし、顔を真っ青にして全身から冷や汗を流す。


「1人でいたのは迂闊だったな?」

 引き金に指をかける。

「待ってくれ! 俺にはこど……!」

 男が言い終える前にケンは引き金を引き、でんでん銃から放たれたレーザーが男の頭を焼いた。


 そして男が死んだ事を確かめると、死体を蹴ってどかす。

 やはり、何の感慨も沸かないことに、ケンは自分がこういった事に慣れてきているのだと思う。


 下ではそれに気付かない阿笠の一味が銃を撃ったり、バッテリーを交換したりと戦闘を行っていた。


 フンと鼻で笑い、ケンは持っていた火薬式の手榴弾のピンを外して左右の手に持つと、敵が固まっている方へ放り落とした。


 落とされた手榴弾は地面に当たってカツンという音をたてる。

 それに気付いた敵が足元を見た瞬間、男と周りにいた他の男達は、爆風で思考と共に肢体をバラバラに吹き飛ばした。

 爆風と共に四散したそれを見て、ケンは顔をしかめた。今夜は肉を見ても食欲が沸きそうに無いと埒も無いことを思う。


「何だ!」

 誰かが叫ぶ。


 ケンは先程まで自分の味方を撃っていたであろう狙撃銃を手に取ると、右往左往している阿笠側の男を取り付けられたスコープを覗きこんで狙い撃つ。


 しかし、それは外れた。


 ケンの存在に気付いたのか、1人が空に向かって指を向けて何やら叫ぶ。

 その隙をケンは逃すことなく、狙い撃つ。撃たれたレーザーは男の胴体に当たり、男は糸の切れた操り人形のように倒れた。


 その混乱で防御に乱れが生じたのか、阿笠の戦闘員が次々と倒れていく。村野側の攻撃である。


 それまでじり貧だった村野側は一転して攻勢になり、次々と阿笠側を撃破していく。ケンも狙撃を続けて、村野側は挟み撃ちになる形になった。


 後は簡単だ。


 ケンはエネルギーが切れた狙撃銃を投げ落とすと、手持ちのでんでん銃で真下に弾幕を張って建物内に入ろうとする敵を撃っていく。


 村野側は既に阿笠側の敵陣地に侵入して、格闘戦を繰り広げていた。その中には坂井や村野の姿も見える。


「勝ったな……」


 そのケンの呟きの通りに、阿笠側は数分後には完全に沈黙した。

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