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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
3/112

3話

 ケンは自分が置かれている状況を把握するために、まったく見知らぬ人間であるミクとユリの2人に着いていくことにした。

 進んでいくごとに、今までいた廃墟の様な町並みは徐々に建物の数を減らし、その代わりに緑色の自然が増えていく。

 アスファルトの道路を草花が隠し、時折見られる建物には細いツタや茶色の木が絡みついていた。その光景はあまりにも常識から離れていて、不安と好奇心が入り混じったものがケンの中に芽生えていく。


「一体ここは何なんです?」

 そのケンの質問にミクは困ったような顔をする。

「村に着いたら話すよ」


 “村”?


 村がある事を知り、ケンはわずかに安堵した。村があるということはある程度の人間が存在するからである。


 それから30分程歩き、いい加減に周りの景色に飽き飽きし始めたときだ。

「あれだよ」

 ミクがそう言うと指を差す。


 見れば、ミクの差した先には丸太などで作られたと思われる城壁の様なものが見えた。

「あれが村?」

 ケンはそう言って目を凝らして見ると、所々に物見台の様な物が城壁の上部にあり、そこには数人の人影が見える。

 縄文時代とか弥生時代の村のイラストを歴史の教科書で見たことがあるが、それにそっくりだと思いフフンと笑う。


 今まで見てきたロボットの兵隊に、そのロボットと彼女たちが持っていたレーザー銃。それらのSFじみたものと、この村でギャップが強かったからだ。


「町にいけばアイツらが襲ってくる。だから私たちはこんな辺鄙なところで村を造ることになったの。そう考えれば、こんな弥生時代みたいな村になるのも仕方ないんだよね」


 そのミクの言葉にケンはギクリとした。まるで自分の考えていることが分かったかのような物言いだったからである。

 しかも、この村を弥生時代のようであるという感想をピンポイントで言葉にしたのだ。


「まぁ、なんにせよ人がたくさんいるのは安心しますよ」

 ケンは自分のそんな動揺を悟られまいと思い、適当な言葉を口にする。

「とにかく皆にこの事も話さなくちゃ」

 ミクとケンの、そんなやりとりを特に気にすることもなくユリが言った。2人は是非も無いと、その言葉に同意して首を縦に振る。

 

 そして、3人は村の入り口に着く。入り口は全長5メートルはありそうな木製の門によって閉ざされており、その門の前には門番である2人の女が、やはりミクやユリの様な格好でレーザー銃を持って立っていた。


「お帰りなさい」

 門番の1人が声をかける。中年の女だった。

「ただいまー」

 ミクがそれに返答する。


「あの……、その人は?」

 ケンを訝し気な目で見ながら、もう1人の門番の女が尋ねた。こっちはケンとさほど年齢が変わらないであろう女だ。グレーの縁の眼鏡をかけている。

「うん、まだこの世界に来たばかりの初心者だよ」

 そんなミクの返答に門番2人は「ふーん」と相変わらず訝し気な目でケンを見る。


 それにしても、目の前に4人の女性がいるわけだが、その4人全員が兵隊みたいな格好をして銃を持っているというのは随分と奇妙な光景だとケンは思った。

 果たして、これは本当に現実なのだろうかと改めて考える。

 

 意識はしっかりしているし、体もおかしいところは感じられない。むしろ、おかしいのは自分が置かれている状況である。


 ケンは話し合っている4人を見た。

「どうかしたか?」

 そんなケンを見たユリが尋ねる。

「どうもこうも、改めて考えると自分が妙な事になっていると思いましてね」

「初めは皆そうだよ」

 初めとかそういう問題じゃないだろうと思い、ケンはもう1度辺りを見回した。

 

「分かってますよ。だからこれから村長に会いに行こうと思って」

 ミクがそう言ったのが聞こえる。

「そうね。それがいいわ」

 どうやら、中年の女とミクの会話が一段落着いたようだ。


「村長ですか」

 ケンはユリに尋ねる。

「うん、この村の代表って言うのかな?」

 ユリはケンの顔を見ないで答えた。ケンはふーんと言う声を漏らす。


「あ、ちょっと良いかな?」


 後ろから声をかけられる。中年の女だった。


「いきなりで分からない事だらけだと思うけど、私たちの言う事を聞いてれば大丈夫だから安心してね?」

「はぁ……」


 その女の物言いは、何か含みがあるようで釈然としなかった。

 隣にいる眼鏡の女は仏頂面でケンを見ている。

 

 ケンはそれらの態度を見てある事を直感する。

 つまり、この場における自分の存在は異端であり、腫れ物のようなものではないかということだ。

 

 勿論これは確証ではないのだが、彼女らの態度は、ケンがいた料理同好会の女子がケンにとった態度と酷似していた。

 何を聞いても曖昧な答えに愛想笑い、訝しむ様な顔。


 それは自分たちの輪の中に異端の存在が入ってきた時に人が見せる特有の態度である。


 それらのことを思い出してケンは不愉快に思った。

 こういうハッキリしない態度ほど不愉快なものは無い。異端なら異端とはっきりと言って、叩き出してくれた方がよほどスッキリするというのが彼の思いである。


 そんなケンのしかめっ面を見たユリは何を思ったのか、諭すように声をかけた。

「大丈夫だ。いきなりこんなところに来たら誰だって不安になる」

 そのあまりにも唐突なユリの言葉にケンは思わず「へ?」と間抜けな声を出す。


「え?」

 そのケンの返答にユリも同じような声を出した。


「何してるの? 早く行くよー」

「あ、待って!」


 2人は先に進んでいたミクの後を追う。そして、いよいよ村の中に入った。

 

 それはユリやミクにとっては見慣れた光景だが、ケンにとっては初めての光景であり、「へぇ」と感嘆の声を漏らす。


 その村は外だけでなく中も弥生時代の村のようであったからだ。木材や石材を組み合わせて作られたのであろう掘っ立て小屋に櫓。そして畑や田んぼが所々に見られ、そこで作物が作られていることが分かる。

 また、村の中央には井戸があり、そこが村の主な水場となっているらしく、井戸の周りには食器や洗濯物などの洗い場が設けられて、その周りで談笑する村人が見られた。

 

 ケンは談笑する村人たちの中に、片腕が無い男や、片足が無い男がいることに気付く。

「どうかした?」

 ミクが尋ねる。ケンは何故あの男達は四肢の一部が無いのか尋ね返しそうになったが、先ほどのロボットを思い出して、その疑問を口に出さずに押し止めた。

 おそらく彼らはあのロボットにやられたのだろう。


「いや、普通の服だと思って」

 ケンはいい加減な事を口にした。それを見て何を思ったかミクはクスクスと笑ってみせる。

「そりゃあそうでしょう。もしかして村の人たちも昔の人みたいな格好をしてると思った?」

「少しだけ……」

 ケンは白いシャツにジーンズを履いている男に目をやりながら答える。その答えにミクは相変わらずクスクスと笑い、ユリは嘆息した。

 そして、3人は再び歩き出す。


「それにしても、さっきから見てると随分余裕そうだねー?」

 ミクがケンを見て言った。

「何がです?」

 ケンは銃の手入れをしている男を見ながら答える。


「普通、こんな状況に置かれたらもう少し驚いたり、不安になったりすると思うんだけど?」

 ミクのその言葉にケンは足を止めた。

 

 確かに、ミクの言う通りである。

 普通、こんな状況に陥ったら不安になったりするものだが、自分の中でそういった感情が薄い事にケンは気付く。


 不安よりも好奇心の方が強いのか。そういった感情が何かの拍子で欠如したのか。それとも、ただ単に能天気なだけなのか?


「不安が無い訳では無いですが、よく分からないです」

 ケンはそう答える。


 もしかしたら、妙なのはこの世界じゃなくて自分自身なのではと一瞬思ったが、銃を持つ村人たちを見て、そんな訳が無いと思い直した。


「まぁ、良いや」

 そう言って、ミクは再び歩き始める。ケンとユリもそれに着いて行く。

 

「あそこだよー」

 少し歩いた先でミクがそう言って指を差した。


「あれか……」

 

 そこに見えたのは3階建てのコンクリート製のビルであり、この村の中で唯一近代的な建物だった。

 しかし、近代的なものといっても建物そのものは、先ほどの廃墟の町のように、表面はヒビ割れ、窓ガラスは外されており、廃墟の町と似たような雰囲気だとケンは思う。


 そのまま建物の中に入ると、外見と同じような感じでボロボロであり、窓からの光のみで明かりが取られているらしく薄暗かった。

「何だか陰気な場所ですね」

 何気なくそう呟いたケンにミクは苦笑する。

「まぁ、ここは倉庫みたいなものだからねー」

 そう言われてケンは通りかかった部屋を覗き込む。そこには確かにごちゃごちゃと木箱やらプラスチックのケースやらが置かれていた。


「ここだよー」

「あ、はい」

 ミクに呼びかけられて、ケンは部屋を覗くのを止めて隣の部屋に入る。


 その部屋には乱雑に木材を組み合わせて作られてた机が中央に配置され、その右側に似たようなベッドがあり、壁にはホワイトボードがかけられている。そして、そのホワイトボードや部屋の壁にメモ書きと思われる小さい紙が貼り付けられており、机の上には書類が散乱していた。

 そして、机を前後に挟む配置で中年の男と青年の男の2人がおり、何かを話している。


「やあ、戻ったか」

 その部屋の机の前に座っていた中年の男が、それまでもう1人の男と話しながら眺めていた机の上にある書類から目を離して言う。


「無事だったか?」

 若い方の男はそうミクに尋ねた。ミクは首を縦に振って返答する。ケンはその男がミクと同じくらいの年齢であることに気付く。

 しかし、それ以上に目を引くものがこの男にはあった。


 それは、本来ならあるはずの左腕が明らかに無いのだ。

 大方、先ほどのロボットにでも襲われたのだろう。


「この少年は?」

 中年の男がミクに尋ねた。

「あ、どうも」

 その中年の男と目が合い挨拶するケン。それを男は訝しむような目で見る。その隣で片腕の男は軽くケンに会釈をした。


「ええ、ついさっきこっちに来た初心者です」

 男の質問に答えたのはユリだった。

「まだ右も左も分からないからここで説明しちゃおうと思いまして」

 それに続けてミクが言う。片腕の男は「だろうな」と言う様な顔で首を縦に振ってミクに視線を向ける。


「この人が村長?」

 ケンは中年の男に視線を向けながらユリに小声で尋ねた。

「ああ、そうだ」

 ユリもケンに合わせるような小声で答える。その間にミクはこの村長に事情を説明していた。


「君、名前は?」

 村長がケンに声をかける。突然だったのでケンは「え?」と思わず聞き返す。名前を聞かれたことに気付いたのはややあってからだ。


「佐原ケンです」

「ケンちゃんですね」


 ケンが返答し、その上にミクが言葉を被せる様に言う。

 ケンは、ミクが先程から勝手に自分を“ちゃん”付けで呼んでいるに対して子ども扱いしていると思い、顔をしかめる。村長はその2人の顔を一瞬見比べたが、気にするでもなく口を開いた。


「まぁ、まずはこの世界について説明しよう」

 村長の言葉を聴き、ケンは自分がここへ来た目的。つまり、自分が現在置かれている状況を知るためにここへ来たことを思い出す。

 自分が全く知らない状況、そこにケンは不安と一緒に期待のようなものを感じていた。

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