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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
27/112

27話

 ケンを乗せたバイクはひたすら走り続けた。

 そして、バイクの後ろに乗っているという感覚に慣れ始めた時に、バイクの主が口を開く。


「見えてきた。あそこだ」

「はぁ」


 ケンは体を左にずらして、バイクの主が言った方向を見る。


「集落か……」

 その先には、ケンがかつていた村のと同じ様な掘っ立て小屋やテントやらが建ち並んでいた。

 その周りには何人かの人影もある。

 見た限りではケンのいた村よりも規模は小さい。


 しかし、そこの集落の人間は何かしらの武器を持っていた。

 また、腰にポーチを着けていたり、ジャンパーを改造したタクティカルジャケットを着ている人間もいる。


 そして目付きだ。


 どの人間も鋭い目付きが鋭く爛々と光っておりプレッシャーのような独特の圧力を放っている。

 それは何度も戦闘をこなしてきた人間の目付きだった。


「ここの人達は、修羅場を何度も……」

「何を言ってるんだ?」

 バイクの女が小声で呟いたケンに問い掛ける。ケンは「いや……」と頭を振った。


「おーい!」

 1人の男が走ってくる。

 それを見たバイクの女はバイクから降りた。ケンもそれに倣い降りる。


「俺のバイク勝手に持っていくなよ……」

 呆れた口調で男が言った。


 どうやらバイクの持ち主のようだが、どうにも線が細くバイクというイメージには合わない男だとケンは思った。


「いやー、悪いねぇ!」

 バイクに乗っていた女がヘルメットを外す。やや癖のついた髪が広がり、それを手で整える。


「でも、流石だな。かなり調子良かったぞ」

 女はカカと笑って、男にバイクの鍵を渡した。

「当たり前だ。俺が整備したんだ」

 それを受け取り、男が答える。


 この2人はどういう関係なのだ?

 そんな疑問が沸き上がる。志村とミクの関係を思い起こさせるが、あの2人よりもフランクな関係にも見えた。

 ただ、女の口調はミクのようおっとり口調では無く、ユリの様な姉御口調に似ている。雰囲気は真逆でこっちのがいかにもな姉御といった風であったが……。

 ケンはそんな事を考えながら2人を観察していた。


「ところで、この坊やは?」

 男が女に尋ねる。

「あぁ、廃墟で拾った。阿笠の連中では無いみたいだ」

「ふーん……」

 男と女はケンを見た。

 

 阿笠? さっき襲ってきた連中のことか?

 ケンは2人の会話とこれまでの状況から、阿笠という名詞の意味を予想する。


「俺は坂井だ」

 線の細い男が言った。

「私は香川、よろしく」

 それに続いて女が言う。


「佐原ケン」

 ケンは無表情に名乗り返した。

 久しぶりにマトモに人と会話をしたような気がする。

 名前を名乗ったは良いが、どう会話を繋げればいいか分からない。


「何だ? 表情が暗いぞ?」

 香川はケラケラと固まった表情のケンを笑う。

「いや……」

 ケンは曖昧な返事をする。


「戻ったのか」

 その言葉と共に、前髪が後退しつつある壮年の男が歩いてきた。


「村野さん」

 坂井が返事をする。村野と呼ばれた男はそれに頷くと、香川の方に向き直った。


「おぅ、あんまつっ走るもんじゃねぇ。確かにこっちの物資は少ないが、今すぐにどうにかなる程でも無ぇんだ」

 村野が香川に諭すような言葉をかける。

 その村野の言い草はヤクザのようであり、あまり品が良くないなとケンは思った。


「で? その坊やは?」

 また坊やか……。村野の言葉にケンは落胆する。

 そこまで子供に見えるのかと思った。


「阿笠の連中に襲われていたのを拾ったんです」

「佐原ケンです」


 香川の言葉に村野が「ふーん」と答えて訝しげにケンを見る。


「1人か?」

 村野が尋ねる。

「あ、はい」

 それに答えるケン。

「なるほど……」

 村野はそんなケンを警戒しているようだった。

 余所から来た人間と考えれば、当たり前の反応だろうとケンは村野を見ながら思う。


 そもそもケン自体もこの集落や、そこに連れてきた香川とバイクの主だという坂井や、この村野という人間を警戒しているのだ。


「しかし、何で1人で?」

 ふんと鼻息を鳴らして村野が尋ねた。


 その質問にケンは思わず村野から視線を逸らす。

 村に敵を呼び込むミスを犯して追い出されたなどとは言えない。

 どう答えたら良いか分からずに、そのまま黙り込む。


「答えられん、か……」

 村野はそんなケンを見て言う。

「まぁ、色々とありまして……」

 結局、そんないい加減な答えしかケンは思いうかばなかった。


「まぁ、良いさ。ここはそんな奴らが集まったようなもんさ。阿笠の連中はもっとタチが悪ぃけどな」

 村野が言った。ケンはそれに「は」と答える。


「お前は俺達に敵対するつもりは無いんだろう? 少なくとも阿笠の連中じゃないんだ」

 その言葉にケンは安堵した。

「どうかな? 敵のスパイかもしれないですよ」

 坂井がニヤリと笑いながら言う。

 疑われるというのは気分の良いものてでは無いなと思い、ケンは坂井を睨んだ。


「それは無い」

 香川だ。「あ?」と坂井と村野が香川を見る。


「奴らだって人数が多い訳じゃ無い。スパイの為に味方殺しはしないだろ?」

 その言葉に坂井と村野は「成る程」と2人は顔を合わせた。

 ケンはケンで、そういえば何人か殺したことを思い出す。


 それに対して何も感慨が沸かないのほ慣れてきた証拠なのか?

 嫌なものだ。

 ケンはそう思って苦虫を潰したように顔をしかめる。


「さっきから聞いてると阿笠の連中って言ってますが、何です?」

 ケンは自分しかめた顔を見られたくない思い、それを誤魔化すように話題を変えた。


「お前が見た通りだ。私達に敵対している連中さ」

「それは分かってますよ。どうして敵対しているかです」


 香川の答えにケンが返す。そんな分かりきったことを聞いてるんじゃないとでも言いたげな口調に、生意気な奴だと香川はムッと表情を曇らせた。


「まぁ、よくある事さ」

 坂井が香川を無視して言う。

「よくある事?」

 いくつか思い当たる節があるが、あえて尋ねてみた。

 内容によってはここを即座に出て行った方が良いと思ったからだ。


「俺達と阿笠の連中は元々同じ行商旅団だったんだがね。まぁ、安定した生活という訳じゃ無かったのさ」

 坂井が説明を始める。何やら長い話になりそうだとケンは内心で思った。


「そんな時にあの廃墟を見付けて、俺達はそこで集落を作って暮らしていくことにした。だが、そこで得た物資の分配に納得がいかない奴らがいたんだ」

「成る程。それが例の阿笠とかいう連中な訳ですね」

「端的に言えば、な……。奴らとは何度も話し合いをしたんだが、どうにもそれがうまくいかなくて分裂。そして今に至る訳だ」


 つまりは、廃墟にある物資の配分を巡って対立したということだ。

 ケンはそれを聞いて「フッ」と口の端を歪ませる。


「平等に分ければ良いだけの話では?」

 馬鹿馬鹿しいと思いながらケンが言った。

「そうしたいのはやまやまだが、廃墟で危険な目に合っている連中と、集落で危険な目に合うこと無く働いているのとて分配が同じなのはおかしいというのが阿笠の言い分でね」

 村野が顔をしかめながら言う。それを見たケンはどこかで聞いた話だと、内心で苦笑する。


「まあ、当然でしょう。危険な目に合うならそれ相応の報酬があってもいい」

 命がけで戦っているのに評価されないことの憤りを知っているケンは思ったことをそのまま口にする。


「奴らはその配分にも納得がいかないのさ」

 それに坂井がやれやれ思いながらと返す。


 何にせよ自分には関わりの無い話であることに変わりない。こういう面倒なことには関わらないのが一番だ。


「まぁ、この集落の状況は分かりました」

 話を切り上げる。

 こんな場所にいても面倒ぎ増えるばかりだおもい、さっさと立ち去ることを決めた。


 しかし、そんなケンの思いの裏腹に香川は全く違うことを考えていたのだ。


「なぁ、もし良かったらお前も協力してくれないか?」


 香川が言った。

 そら来たと言わんばかりに、ケンの肩が震える。


「さっき見てた限り、お前は実戦慣れしているようだし、腕も悪く無い。ここで阿笠の連中を倒すのを手伝ってくれないか?」

 悪びれる事も無く香川が言葉を続ける。


「残念ですが断ります」

 ケンの答えに香川が「えー」と不満そうな声を出す。その反応がミクのようであり、ケンはそれを不快に思った。

 村野と坂井は苦笑する。


「確かにマンハンター相手なら慣れてますが、人間相手はどうもね……」

 何で人殺しを進んでやらなければならないのかと、内心で怒りと呆れの入り交じった感情を抱えながら言った。


「そうなのか? 随分手慣れていたようだったが」

 手慣れている? 人殺しに手慣れているだって?

 香川の言葉にケンは言い表せない怒りを覚えて、睨み付ける。


「正当防衛というならそういうこともありますがね。好き好んでやってる訳では無いんですよ」

 やや語気を荒くして言う。

 その鋭い言葉とケンの表情に香川は顔をしかめる。地雷を踏んでしまったかと気まずい空気を感じた。


「いや、そういうつもりで言った訳じゃ無いんだ」

 愛想笑いを浮かべて、内心でどうしたものかと思う香川。

 助け船は無いかと坂井に目を向けるが、坂井は横からニヤニヤ笑いながら見ているだけだった。


「まぁ、何にせよ今日はここで休んでいくと良い」

 そう助け船を出したのは村野である。香川はホッと胸を撫で下ろして坂井を忌々し気な顔で睨んだ。


「申し訳無いが、交換出来るような物資は持ち合わせていませんが?」

 ケンが言った。タダで休ませてくれるほど裕福な集落には見えなかったからだ。


「構わんよ。食糧は分けられんが……」

「でしょうね……。今までの話を聞く限り」

「だが、飲料水ならそこの川でいくらでも手に入るぞ」


 村野の言葉に「はぁ」と答えるケン。

 飲料水が手に入るだけマシかと思う。

 日も陰ってきたこともあり、ケンはここで一晩休ませてもらうことに決めた。

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