25話
今の佐原ケンは孤独だった。
それまで住んでいた村を追われて、親しかった人からも離れ、1人ギジの世界を当ても無くさまよっているのだ。
その心のほとんどが自身の無力さから生まれる絶望が占めていたが、その中でも“生きる”という意思は捨ててはいなかった。
しかし、それは自分の意思で生きたいと思うのではなく、自身のせいで死んでいった者達への罪滅ぼしの為に絶望の中で生きろと命じられたからである。
贖罪と孤独と絶望。
それはケンの心を黒く染めて、鉛の様に重く乗しかかっている。
その中でケンは歩く。
ギジの世界と呼ばれる異世界を。
周りには鬱蒼と植物が生い茂る。その緑の中にはアスファルトの道がまっすぐ伸びており、周りの自然と比べると明らかに不釣り合いなものだった。
「お出ましか……」
ケンはそう言って正面を見据える。
そこには、マンハンターと呼ばれる人型をした機械が立っていた。
人間とあらば無差別に攻撃をしてくる、この世界における人間の敵。
ケンはすぐさまに、手持ちのでんでん銃を振り上げて弾幕を張った。
マンハンターもそれに応戦する。
しかし、決着はすぐに着いた。
マンハンターが手持ちのライフルを数発撃つも、ケンは臆するはこと無く突っ込み、ほぼ零距離での射撃を受けて、その機能を停止させたのだ。
1対1の戦闘ならば、負けることの無い実力をケンは持っていた。
「こんなものか」
ケンは倒れたマンハンターを見て呟く。
そして、もっと戦いたいと思った。
戦ってる間だけは、彼の罪の意識や孤独を忘れることができ、生きているという実感も得られるからである。
しかし、この程度じゃ足りない。
マンハンターが1機の時点で既にケンは自分が戦闘に勝つことを確信していた。そして実際にその通りになったのだ。
面白く無いと思いながら、倒したマンハンターのライフルからバッテリーパックを回収する。
マンハンターの武器のバッテリーパックはどれも武器のカテゴリに関係無く互換性があるのだ。
つまり、マンハンターのレーザーライフルのバッテリーパックは、でんでん銃のバッテリーパックとしても使えるのである。
といっても、エネルギーの消費量は武器によって違う為に1つのバッテリーでどれだけ撃てるかはそれぞれ違うのだが。
「お? これは……」
ケンはマンハンターの腰に握りこぶし程の鉄球がくっついているのを見つける。
「ラッキー、良い物見っけ」
それはプラズマグレネード。所謂、手榴弾と呼ばれるものである。
通常の手榴弾のように火薬による爆発ては無く、プラズマの様な熱と光を特定範囲で発生させることによって攻撃をする、この世界特有のものであった。
「倒した敵から武器を奪う……。まるでゲームたな」
ケンはプラズマグレネードを取り上げながら呟く。
何だか出来すぎた話だとも思うが、このギジの世界とはそういうものだと思えば納得が出来た。
人間というのは結局のところ、そうやってありのままを受け入れて、適当なところで納得して生きていくのかもしれないとケンは考える。
それが大人になるという事なのだろうか?
ケンは顔を上げた。
「何だ、ありゃ?」
正面より遥か遠くに、僅かだが灰色をした四角が並んでいるのが見える。
それはどう見ても人工物であった。
「建物! 集落か廃墟か?」
そう思った時には、既にケンの足はそちらに歩みを進めていた。
自分のいた村のテリトリーの外で初めて見る人工物にケンの心が踊る。
その先にあるのは何なのか? 好奇心が刺激されて高揚する。
これだけの刺激が心に現れるのはいつ以来だろうか?
ケンの足は歩を早めた。