19話
「1人が持つには大した量だな?」
志村が行商人の持ってきた調味料を見て言った。
「ええ、行商人連合と取引しましてね」
それに対して行商人が背負っていたバックパックから次々と調味料の入った袋を取り出してながら答える。
「これだけあれば半月は持つかもしれないですね」
その様子を見ていたケンが横から口を挟む。
「そうなの?」
河内が尋ね、ケンが「ええ」と肯定する。
「使い方次第ですが」
肩をすくめて付け足した。
「彼が例の行商人?」
村長である。村の男に車椅子を押されてやってきたのだ。
「そうです」
志村とケンが同時に答えた。
「ケン、そろそろ門番に戻れ」
「え?」
「ここは俺と河内さんで良い」
ケンは行商人が出した調味料の入った袋達を一瞥する。
「吉岡に替わってもらっているんだろう?」
志村にそう言われ、「分かりましたー」と名残惜しそうに言い、門番に戻りに向かった。
「ところで、アンタは1人でここまで来たって言ってたな?」
志村はケンの背中を見送りつつ尋ねる。
「ええ」
行商人がそう答え、それを確認した志村はしゃがみ込んで行商人の持ってきた物を漁りはじめた。村長はそんな志村と行商人を見比べて、顎を指で擦る。
「それにしちゃあ、自分が食べる分の食糧やら水やらを持っていないようだが?」
志村はそう言って行商人を見上げた。
「いや……、だからそれを手に入れる為にここに来たんですよ」
行商人はそう言って顔をしかめる。
「そこまで疑わなくても……」
ボソッと小さい声で河内が呟いた。
「仕方ないさ」
村長が苦笑しながら言う。
「食糧ねぇ……。どんなのが欲しいんだ?」
その志村の質問にややあって行商人が答える。
「長持ちするやつ? って言うんですかね?」
行商人は首をかしげながら言った。
長持ちするようなものなどあったかと志村は思考する。そして思い浮かんだのが佐原ケンであった。
「ケンの奴に聞いてみるか……」
それが志村の結論だった。そういった料理的な事はケンの方が詳しいのである。
「とりあえずは、今日はこの村に泊まっていくといい。そちらの欲しい物を用意する時間がいる」
志村の言葉を聞いて村長が行商人に提案する。
「それはこちらもありがたい」
行商人は笑顔を見せる。
「監視は付けるがな」
志村が言って河内に目配せした。それに頷く河内。
「お手柔らかに頼むよ」
一度肩をすくめて、行商人が河内に言う。
「善処するわ。……怪しいことが無ければね」
河内は持っていたライフルの銃口を行商人の背中に押し当てた。
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その日の夜である。
佐原ケンは未だに門番として村の門前に立っていた。
理由は行商人が来た時のゴタゴタと行商人と交換する予定の保存の効く料理の相談で出来たロスタイムによるものである。
「暇だな……」
真っ黒に見える夜空を見上げて呟く。
そして、一度溜め息を着いた時に後ろから肩を叩かれた。
驚いて振り向く。
そこにいたのは河内だった。「はて?」とケンは疑問に思う。
交代にくるのは吉岡のはずだからだ。
「あれ? 吉岡さんと交代のはずじゃ……」
ケンは首をかしげながらが尋ねた。
「あぁ……、吉岡さんなら少し遅れるって」
河内はそう言って視線を反らす。それを見たケンは妙な話だと思うが、吉岡も人間である以上、何らかの事情で遅れることもあるだろうと思い直した。
「でも何で河内さんなんです? 見張りは……」
ケンは河内が行商人の見張りをしていたことを思い出す。
「えぇ、彼ならもう寝たから他の人に変わってもらったわ。私は吉岡さんが来るまでよ」
ややあって河内が答えた。
「そうですか」
そんな河内の様子にケンは違和感を感じる。妙に落ち着きが無いのだ。
おそらく行商人と何かあったのだろう。
もともと、余所者に対して好ましく思わない村である。見ていないところで、余所から来た行商人と一悶着あってもおかしくない。
それは志村の行商人に対する態度からも明らかである。
「なるべく早く出ていって欲しい訳ですね」
ケンが聞こえるか聞こえないかというような声で、思っても無いことを呟く。
「え?」
河内がビクッと肩をあげて声を出す。
「余所から来たんですから」
それだけ言って、「じゃあ」と会釈してケンは歩き出した。
河内のその反応で、やはり彼女は余所者を嫌っている確信する。
それはこの村のほとんどの人間がそうなのだろう。
「村の外はそういう所なのか……?」
村の外から出たことの無いケンは、それらの反応に納得出来なかった。