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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
14/112

14話

 物事が上手くいかない時。3つの理由が考えられる。


 1つ、才覚の問題。

 人間には向き、不向きというのがある。

 生物というのは不思議なもので、同じ種類に関わらず、それぞれ個性があり、それがその生物の個体に得意不得意を生み出しているのだ。


 2つ、努力不足。

 どんな物事も初めから上手くいくなんて事はまず有り得ない。

 物事というのは日々の鍛練や試行錯誤の上で初めて成すことが出来るのである。

 それはどんなに才覚がある者でも変わらない。それどころか、努力次第では才覚を凌駕する事もある。


 3つ、物事の進め方が悪い。

 これは単純に順序や方法の問題だ。

 どんなに才覚があり、努力をしていてもやり方が悪ければ上手く物事が進む訳が無い。

 

 もし、どんなに努力しても物事が上手く進まないなら、その方法を変えてみる事だ。

 もしかしたら、やり方が自分の特性に合っていないのかもしれない。


 閑話休題。


 ケンがこれまでの戦闘で上手くいかなかったのはそこにある。

 才覚でも努力不足でも無く、本人の特性と戦い方がマッチしてなかったのだ。


 マンハンターとの戦闘は、障害物を盾にしながら一定の距離を保ちながらの銃撃戦というのがセオリーである。ケン達が住む集落の探索班が行う戦闘は基本的にこの戦法で行っていた。


 しかし、この戦い方は味方の被害を抑えることは出来るが長期戦になりやすく、退屈を良しとせず、常に動いていないと気が済まないタイプの性格であるケンとは相性の悪い戦法なのだ。 


 だが、先の戦闘はケン1人だけで行ったものであり、そういったセオリーに縛られることなく戦うことが出来た。

 その結果、彼は初めて自分の実力を発揮したのである。


 ケンは、この時の手応えが本物かどうか疑わしく思っており、その時の戦闘を誰にも告げないでいた。


 そして今日もケンは探索班として集落の近くにある廃墟の町に向かう。その後、マンハンターと遭遇して戦闘になるのだった。


「千載一遇」

 マンハンターと遭遇した時にケンは歓喜する。

 あの時の感覚が偶然ではないかどうかを確かめることが出来ると思ったのだ。

 

 マンハンターと探索班のメンバーとの間で撃ち合いが始まる。

 探索班はセオリー通りに建物をの影に隠れながら一定の距離で各々のレーザーライフルを撃つ。

 マンハンターは陣形を組んでそれに対抗する。マンハンターの数は6、探索班はケン、ユリ、ミク、村の女の4人であった。


 探索班は左右に別れて、道の中央に陣取るマンハンターを迎撃する。

 その日の探索班のメンバーであるユリの撃ったレーザーが当たり、まず1機倒れた。


 しかし、そこから中々敵が倒れない。建物の影に隠れながらの射撃では射角に制限が出てしまう上に、マンハンターがやたらと動き回る陣形にシフトした為に狙いが定まらないのだ。


 徐々に追い詰められていく。


「手榴弾とか無いんですか?」

 ケンが尋ねた。尋ねた相手は前回の戦闘でケンを先に村に返した女である。


 ケンの言葉を聞き、女は口の端を歪めてケンを睨んだ。

「君は持ってないの?」

「持ってません」

 ケンの回答に女は舌打ちをした。

「だったらそんな事言わないで、何とかする方法を考えてくれる?」


 女の言葉にケンは憤りを覚える。持っていないなら初めからそう言えば良いのに、尋ねた自分が悪い様な言い回しをしたからだ。 

 そもそも、自分の手持ちがライフルと予備のバッテリーパックだけなのは、そちらも知っているだろう。

 ケンはマンハンターにライフルを撃ちながら思った。


 そして、その憤りはケンを動かす燃料となる。

「分かりました。何とかしますよ」

 ケンは女に声をかけた。


 ケンの言葉に女は呆気に取られて動きが止まる。そして、マンハンターのレーザーが足元を焼いたところで気を取り戻した。

「援護してくださいよ?」

 ケンが言った。女は何か声をかけようとするが、次の瞬間にはケンは隠れていた建物から爆ぜるように飛び出した。


 マンハンターがそれに反応して、僅かだが陣形が乱れる。

「今!」

 ケン達の反対側にいたユリがその隙を見逃さず1機撃墜。

「お見事!」

 そう言ったのは同じくユリと反対側にいたミクだった。


 そこへユリ達から見て反対側にいるはずだったケンが飛び込んでくる。

「ちょっ!えぇっ?」

 それに驚いたユリが声をあげた。


「え?何やってんの?」

 それは何度も修羅場をくぐり抜けてきたミクにとっても予想外であり、思わず素に戻ってしまう。


 反対側ではケンと一緒にいた女がミク達を見ながら右手でライフルを持ち、左手をパタパタと動かして、自分の指示でないことを伝えていた。


「何とかしろって言われたんで」

 ケンが悪びれもせずに言う。

「そりゃ、今ので敵の動きは乱れたけと……」

 ミクが呆れて言った。この場合は怒るべきかどうか判断に迷う。


「馬鹿!危ないだろ!」

 そう言ったのはユリだった。

「ユリちゃんの言う通りだよ」

 ユリが言った言葉に、そりゃそうだと思って同意の言葉をかける。


「どの道、このままでも危ないですよ」

 ケンは全く反省の色が無い。それを見た2人は少しイラっとする。

「援護、お願いしますよ」

 ケンは手持ちのレーザーライフルのバッテリーパックを交換しながら言った。


 大きく息を吸って吐く。隣でユリとミクが何か言うが、そんな事はどうでも良い。

 マンハンターは4機、それらの動きを確認する。

 敵は容赦の無いレーザーをこちらに放つ。これからあの中に飛び込むのかと思うとゾッとする。


「何、やってみればどうって事無い」

 息を吸う。

「俺が死んでも……」

 吐いて、先程の憤りを思い出す。

「変わりはしない……!」

 ケンは一気に飛び出した。


 恐怖は感じない。

 敵の動きを把握して、レーザーがどこに当たるかを予想して体を動かす。

 その事にのみ集中したからだ。

 ケンの中の歯車が回り出す。


 ケンはマンハンターにレーザーを撃ちながら右へ左へと歳の割に小柄な体で飛び回る。

「まるで猿だね」

 ミクが感想を漏らす。

「何考えてるんだ……!」

 ユリはケンが何時レーザーに当たるかと気が気じゃ無い。

 動き出した歯車は完全に噛み合い、ケンの特性に合った戦闘動作を行わせた。


 敵と味方のレーザーが入り乱れる。ケンの体が左に飛ぶ。次の瞬間、ユリの撃ったレーザーが 1機撃墜する。

「残りは3!」

 ミクが声をあげた。


 ケンとマンハンターの距離が縮まる。その至近距離でケンは初めてマトモに狙いを付けてレーザーライフルを撃つ。


 命中。


 しかし、ケンは足を止めずにライフルを撃ちながら突撃。

 マンハンターの持つレーザーライフルの銃口が光る。

ジュっという音と左脇腹に熱を感じた。


「しまった!」

 そう思うもケンの中の歯車は止まることなくケンの体を動かし続ける。

 まだ、目の前に敵がいるからだ。


「おぉぉぉぉ!」

 叫ぶケン。

 敵の陣形に真正面から突っ込んだケンは、さながら自殺志願者のようにも見えた。

 陣形に突っ込んだことで、ケンはマンハンターに取り囲まれる形になる。

 しかし、それはケン予想通りの展開だった。


 だが、脇腹の熱がジワジワと痛みに変わり、ケンの意識を削ぎ落とすのは予想外である。

「これはマズい」

 そう思いながらも残った意識で体を動かす。

 

 射撃。ステップ。向きを変える。更に射撃。

 

 その妙に形式化された動きは、ケンがこれまで何回もイメージしてきたものである。

 つまり、もしも自分を中心とした戦闘が起きたらどのように動くかという想像。イメージトレーニングというべきものだ。


 その動きから行われるケンの射撃は確実にマンハンターに命中し、さらにユリ達の援護射撃も加わり、それまでの防戦だった状況が一転して攻勢に変わる。


 マンハンターがケンの左右と中心に囲い混みレーザーライフルを構えた。

「ここだ!」

 左右のマンハンターの射撃。ケンは倒れ込むように体勢を低くして目の前のマンハンターを撃つ。


 ケンを挟み込むように位置していたマンハンターの射撃は体勢を低くしたケンを外れてお互いに反対側にいたマンハンターに当たる。

 所謂同士撃ちだ。


 そしてケンの射撃は目の前にいたマンハンターに直撃。すでに稼働限界になっていたマンハンターのトドメとなる。


「やった!」

 倒れるマンハンターを見てケンは1人で喝采した。

 

 敵を倒した。戦闘に勝ったのである。

 その事実を認識して、ケンの意識は限界を迎えた。


 先程撃たれた脇腹が急激に熱くなって痛みに変わる。胃の中の物が逆流して口から吐き出された。足に力が入らなくなりそのまま倒れる。


 そこでケンの目の前は真っ白になり、意識が途絶えた。

 断片的にユリやミクの顔が見えたが、思考力を失った今のケンに意味の分からない記号でしか無い。

 そんな薄れゆく意識の中、ケンは自分の中にある戦闘に関する歯車が確かに噛み合ったの感じていた。

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