13話
やはり自分には無理だったのだ。
ケンは歩きながら考える。
これまでに何度か戦闘を行ったが、初陣以来一度もマンハンターを撃破していない。
初陣の時は偶然だというのは確かに分かっていたのだが、心のどこかで自分にも出来ると思っていたのだ。
だが、現実はこの通り情けない結果になっている。
もし評価出来る事があるとすれば、今まで怪我一つしていない事だろう。
ただ、それは味方に頼っているだけともいえる。つまりは甘えだ。
ケンが一歩進むたびにそれらのようなな考えが浮かんでは周りの景色と共に流れていった。
ぼんやりと前を向いて歩く。
頭には憤り、その目には背景としての廃墟の町が映っていた。
その時である。
ケンの目に映る背景に違和感が現れた。
廃墟の町という景色の中に異物が紛れ込んでいたのである。
「マンハンター!」
異物は金属で構成された人型の敵、マンハンターであった。
戦うか逃げるか、2つの選択肢が浮かび上がる。
マンハンターがケンにレーザーライフルを向けた。
「やられるか!」
そんな言葉を叫びながら、ケンは逃げるという選択肢を選ぶ。
レーザーがケンの背中を掠める。それを認識しながらもケンは目の前にあった廃ビルに飛び込んだ。
「まだ残ってたじゃないか……」
悪態をつきながら震える右腕を左手で押さえる。
どうすれば良いんだ? その思いがケンの思考を沸騰させる。
そんな事を考えている間にもマンハンターは迫ってくるのだ。
「なら、やるしかないか」
たかが1機くらいなら自分1人でもやれるはずだ。
それに、死んだら死んだで怖い思いをする事も無い。
良いじゃないか。どうせここは異世界で、元の世界に帰れるかも分からないのだ。
自分がここで死んでも誰の迷惑にもならない。
そう考えてケンは嘲笑した。
「どうせ俺なんて……」
死んだところで誰が悲しんだり、迷惑になることもあるまい。
そう思いながら呟くとケンは隠れていた廃ビルの影から弾けるように飛び出す。
そのままマンハンターを確認して、その方向にライフルを乱射した。
それに対してマンハンターも当然ながら反撃する。
そのマンハンターの射撃はケンの側をかすめはするが当たらない。
というのもケンはマンハンターの動きを見て、どの辺りのポイントにレーザーが飛んでくるかを大雑把ではあるが予想していたのだ。
そして、そのポイントを避けるようにして、右に左にと自分の体を振り回すように移動しながら牽制の射撃をしていたのである。
このケンの予想能力は日頃の戦闘で培われたものだった。
彼は戦闘の際、女達の企てによって牽制をさせられていた為、後方に位置する事が多く、マンハンターの動きをよく観察する事が出来たのだ。
それにより、ケンはマンハンター達の動きの規則性や法則のようなものを感じとる。
それを元にすることで敵の動きを予想することが出来たのだ。
もっとも、これは本人の意図的なものでは無く、死にたくないという思いが成した火事場の底力である。
追い詰められた人間というのは時折とてつもない力を出すものだ。
「どうせ零距離くらいじゃないと当たらないんだろ!」
ケンはライフルを乱射しながら徐々に距離を詰める。
敵のレーザーがケンの左肩をかすめた。
かすめたレーザーはケンの肩の皮膚を焼き、その痛みで顔を歪ませる。
「知ったことか!」
叫ぶケン。
ジャッという音が聞こえた。ケンの撃ったレーザーが命中したのだ。
「まだぁ!」
更にレーザーを撃ち込みながらマンハンターに真っ直ぐ向かっていく。
「でぇい!」
叫びながらマンハンターに飛び蹴りを入れる。
後ろに倒れるマンハンター。そのまま動かなくなる。
「やった?」
肩で息をしながら、ケンは動かなくなったそれを見下ろす。
ややあってケンの顔の筋肉が弛んでニンマリと笑みを浮かべる。
敵を倒したという手応えを感じたのだ。
それは空回りしていた歯車が噛み合ったような感覚。
初陣での偶然とは違う確かな手応えだったのだ。
次も同じ事が出来るという確信。
「本当にそうかな?」
確信の高揚感の中、自分の心の中からそんな声が聞こえた。
今回もただの偶然じゃないのか?
そんな考えが、高揚していた心の温度を下げる。
「もう一度確かめる必要があるか……」
もう一度同じ事が出来れば、この感覚は本物になる。
そう思ってハっと息を吐く。
とりあえず、この事は自分の中だけに留めておこうとケンは思った。
ただの偶然だったらいい恥晒しだ。
「戻るか……」
ケンは集落に向かって歩き出す。
先ほど撃たれた肩がピリピリと痛み出した。