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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
自分と世界とその正体
111/112

111話

「何のつもりだい?」

 安野は心底不思議そうな顔をする。

「見ての通りだ」

 ケンは右手に持った“でんでん銃”の銃口を安野に向けながら答えた。


「私を殺しても何も意味が無いと思うが……」

「そうでもないさ。お前を殺してここの施設を制圧する。ギジの世界に住む人間にとっては有益なことだ」

「ここの技術を君たちが扱うなんて無理だ」

「そうかい?」


 ケンは皮肉っぽく笑う。

 銃口は安野に向けたままである。


「お前だってここに俺達が来ることは予想外だったんだろう? その予想外なことがもう一度起こるだけさ」

 その言葉に安野はやや呆れたような顔を見せる。


「そういう意味じゃないんだが……」

「どういう意味でも構わないさ。お前を殺すことには変わらない」

「結局、君は私を殺したいだけじゃないか?」


 銃口を向けられているにも関わらず、安野は呆れ口調であり死に対する恐怖を表情に見せない。

 その姿は豪胆というよりも、自分の死に対する恐怖が彼の感情の中に存在しないようでもあった。


「銃口を向けられてその様だ。お前は人間の形をしているが機械と同じ、要はマンハンターだ」

「マンハンターが1つの勢力と考えるならその通りだが、私は機械じゃないよ。君たちと同じ様に人間として作られた」


 その言葉を聞いてケンは「ふん」と否定の意を見せた。


「それは身体を構成している物質が同じだけだ」

「操作されて作られた身体を言うなら君も同じだろう?」

「だろうな」


 確かに安野優も自分達も人工的に作られた人間であることには変わらないだろう。

 しかし、安野優と自分達とは決定的に違うところがあるとケンは思う。


「だが、俺達は常に自分の意思で生きてきた。お前と違って、自分のやることは自分で決めてきたし、これからもそうやっていく」

「結局は感情論かい? それと私を殺すことにどんな関係があるんだ?」

「俺はマンハンターが気に食わないから、それを潰しに来たんだ。お前がマンハンターの管理者なら殺して当然だろう? 俺の仲間はマンハンターに殺されたんだぞ」

「君は……!」


 安野が何かを言いかけた時には、既にケンは“でんでん銃”の引き金を引いて安野の心臓を撃ち抜いていた。


「引き篭もってたお前には分からんだろうが、この世界は思った以上に自由に振る舞える。それなら感情に任せて気に入らないものを潰すことだって出来るさ」

 よろめく安野に対してケンは更に銃撃を加える。

 これまでのマンハンターに対する恨みを全て銃撃に乗せるように引き金を引き続けた。


「自由に……、振る舞うというのは……」

 安野は言葉と共に喝っと血を吐き出して床に倒れる。

「もっとも、自由に行動した結果は全て自分に返ってくる。その責任も追わなきゃならないけどな」

 心臓から血を流して倒れた安野を見下ろしながら自嘲気味に笑う。

 一瞬だが、脳裏に志村とミクの顔がよぎった。


「ケン……」

 ユリが呼びかける。

「戻ろう。少し疲れた」

 その言葉の通りに、ケンは疲れ切った表情をしている。目的を達したにしては陰気な表情であった。

 ユリはケンの言葉に黙って頷く。今のケンにはどんな言葉をかけても煩わしく思うだけだと察したのだ。


 それと同時である。

 2人は足元から持ち上げられるような衝撃を受け、宙に投げ出されて尻餅をついた。


「何だ……!」

 驚きの声をケンがあげる。

 その間にも振動が続き、ファクトリーそのものが揺れているようであった。


「……私が死ねば、ここは自爆する……。ここの、施設を君達に渡す訳にはいかないからね……」


 安野である。

 掠れるような声で笑いながら言った。


「この施設を見つけた人間がどう行動するか……。面白い、データが取れた……」

 そう言う安野にケンは冷たい視線を投げかける。


「仕事熱心な奴だ。生まれ変わったら誰かの飼い犬にでもなるといい。忠犬として可愛がられるぞ」

 ケンは吐き捨てるように言った。

 しかし、返事は無い。すでに息絶えていたのだ。


「とにかく、ここから早く出よう」

 辺りの壁にはヒビが入り、いつの間にか立体映像も消えていた。

 2人はその場を後にして、これまで来た道を戻るように脚を進める。


「ケン、私達は一体何なんだ?」

 振動と警報ブザーの鳴る中で走りながらユリが尋ねた。

「この世界の住人だ」

 ややあってケンが答える。


「自分の持っている過去の私は別人だって……」

「皆そうなんだろ。だけど、ここにこうしている自分は誰でも無い本物だ。だったらそれで良いじゃないか」


 何てことも無いような口調でケンが答えた。

 全く何時もと変わらない無愛想な表情である。それを見てユリは可笑しくなった。

 過去の記憶がどうあれ、目の前にいる人物は佐原ケンなのだ。

 そして、ここにいる自分も白河ユリなのだと思う。


「佐原ケン!」

「こっちだ!」


 走った先にオーバーロードナイトの面々が見えてくる。

 どうやら地上までの経路を確保していたらしい。


「お前は、ファクトリーを爆破させるというとんでもないことをしたんだぞ?」

 副長である中村が言う。しかし、その表情はケンを責めるというような表情では無かった。

「あの場にいたのがアンタなら同じことをしなかったか?」

 中村の後を走りながらケンが尋ねる。


「仲間を殺した連中の総大将が舐めた態度をとったんだ。俺も殺していたけどな」

「そうだろう」


 2人は言い合うと声も無く笑う。


「外の世界へ帰る方法を探して私達はここまで来たのに、こんなことになるなんてな」

 ケンの後ろに着いていくユリがため息混じりに言った。

「帰る場所ならあるだろ」

 ケンが答える。

 彼の視線の先にファクトリーの出入り口が見えてきた。


「そうだな」

 ユリはクスリと笑う。

 入り口の先には武器屋旅団の面々が手を振って並んでいたのだ。


 団長である星ユウコ。副団長である高田アキラ。メカニックの本名不明の男、先生。狙撃手である加村雅平。トウの街から巻き込まれる形で着いてきた泉。ケンの後輩である大高エミリ。

 要塞に残っていた者達がここまで来たのは、おそらく何かあったことを察してやってきたのであろう。


「確かに帰る場所だ」

 ユリが呟いた。

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