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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
11/112

11話

 ケンが初陣を終えた日の夜の事である。

 志村とミクに与えられた住居の中、蝋燭の光だけが明かりとなっている部屋で2人は向かい合って話していた。


「で? 結局どうだったんだ?」

 志村がミクに尋ねる。

「よくやったんじゃない?1体倒して、マホちゃんがフォローしてお終い」

 蝋燭の火が揺れて部屋の陰影が変わると、志村は隙間風かと視線だけを左右に動かした。


「そこの扉、たてつけ悪いんだよね」

 そんな志村を見たミクが先程の説明に付け足して言った。それに対して志村は「ふん」と相槌を打つ。


「まぁ、それなら良いさ」

 志村はミクに視線を戻す。

「初めてで立ち回りも分からなかったからねー」

 戦闘時の立ち回り……。

 敵との距離のとり方や、武器の射程、障害物を活かした戦術、攻撃のタイミングなどである。


「そういうのは口説明や訓練なんかで身につくもんじゃない」

「確かにね」

 

 戦闘というのは頭で考えて行うものではなく脊髄反射的に行うものである。

 つまり、それは体で覚えるものであり、実際に何度も戦闘をこなしていく上で身に付くのだ。


「問題はケンちゃんがこれからも戦ってくれるか、だね……」

 ミクがため息交じりに言った。

 戦闘後のケンは、どう見てもやつれた顔しており、戦闘の怖さを嫌というほど思い知った感じだからである。

 これでは二度と戦闘に出たくないと言い出しても不自然では無い。


 志村もミクの話からそれを感じ取っていた。

 しかし、志村は嘲笑してみせる。

「あいつは戦うさ。今まで見てきたが、あいつは中途半端は責任感と惰性でやってきたタイプだ」

「中途半端な責任感?」

 ミクの言葉に志村は頷いた。


「本当はやりたくないけど、一度引き受けからやめろと言われるまではやっておこうって奴だな」

 惰性に任せてダラダラと物事を続ける人間に多いタイプである。

 しかも、ケンの場合は自ら引き受けた様なものなので止めるに止められない、とうのが志村の言い分である。


「でも私達がやっていたのは戦闘だよ?」

 命に関わる事を惰性や中途半端な責任感で続けられるのかとミクは疑問に思った。


「戦闘だろうが同じ事だ。生き方の癖だな」

「癖?」

「今までそうやって生きてきたんだろう。あいつの生き方の選択肢は中途半端な責任感や惰性から来るものしか無い。生き物が食わないと生きていけないみたいに、ケンはそうやってしか生きていけないのさ。……現状ではな」

 

 その言葉を聞いてミクは少し考える。


「でも、ケンちゃんは14歳だよ? それに、つい最近まで外の世界にいたことを考えれば当たり前のようにも思えるけど?」

 志村は頷いた。

「だろうな」


 志村は立ち上がると窓に向かって歩き出す。

 何となく明日の天気が気になった。


「もし、戦いたくないって言っても戦わせるさ」

 そう言って窓にはめ込まれた、風避けの戸板を開いた。

 ミクは志村の背中を見ながら、彼の“戦わせる”という言葉に顔を曇らせる。


「このギジの世界ではマンハンターがいる。生き残るなら戦わないといけない……。理屈は分かるけどね」

「特にこの村の連中はそれか顕著だ。戦わないっていうなら遅かれ早かれ村にいられなくなる」

「それで戦わせるって訳ね」

「嫌な話だと思うよ」


 そう言って志村は空を見上げる。

 紺色の空には、月だけがぼんやりと乳白色に輝いていた。

 雲が全く見えない事から、明日も晴れるのだろう。


「このギジの世界の空ってさ、星が無いよね」

 ミクが志村の横に立って、空を見上げながら言う。

「そうだな」


 ミクの言う通り、このギジの世界の夜空には月が映っているだけで、星は1つも見えないのだ。

 何故かは誰も分からない。


「ここが異世界だからだろうな……」


 それは自分の理解出来ない物や事象に対して使われる言葉。

 何か分からない物事があれば、ここは異世界だから仕方ないと理由をつけて、疑問に対する思考を放棄する。

 このギジの世界ではよくある話だ。


「異世界だからって、分からないならどうして調べないんですかー?」

 ミクはわざとらしい仕草で口を尖らせて言った。

 それを見た志村はくちをあんぐりと開ける。


「ケンちゃんの真似ー」

 ミクはクスクス笑ながら言った。

 何をしているんだと志村は呆れて顔をしかめる。


「まあ、アイツはそう言うだろうさ」

 やれやれと、ミクの似ていない物真似に頭を振った。





 一方その頃……。

 ミクに物真似をされた当人である佐原ケンは、与えられた部屋にあるベッドの上で頭から布団を被っていた。


 そして思い出す。

 今日の初陣のことである。

 初めは半ばパニックになり、ミクの提案で二手に別れた先での1機撃破。


 改めて思い出してみるが、あれは偶然の産物であり、自分の実力では無い。


 ミクやユリは初陣で1機でも撃破出来れば大したものだと言っていたが、あんなものは撃破とは言わない。


 ケンは歯噛みした。


 これからもあんな事を繰り返すと思うと気が滅入る。

「冗談じゃない……!」

 自分には戦闘の才能は無いのだ。このまま戦闘に参加すれば、いつか自分のミスで誰かが死ぬのではないか?


 自分のミスで自分が死ぬのは構わないが、自分じゃない誰かが死ぬは許される事じゃない。


 ケンのはそんなことを思って身動ぎする。


「明日、無理だって言おう」


 戦闘から外してもらおう。

 村の連中から白い目で見られても、誰かが死ぬよりかは良いじゃないか。


 志村の考えを余所にケンは戦う事を拒否しようとしていた。

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