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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
自分と世界とその正体
107/112

107話

 船前の言う通りの方向に進んで約10分。

 その間に通路の左右に幾つかの扉があったが、どれも開かなかった為に無視して真っ直ぐにケン達は進み続けていた。


「何らかの警備システムみたいなものかものな。私達が中で散々暴れたからいくつかのエリアを閉鎖しているんだろう」


 船前は開かない扉の前で軽く笑いながら言う。


「ご丁寧なことで」

 一緒にいた隊員の1人が肩をすくめた。


「じゃあ、それを作動させた誰かがここにいるってことですか?」

 そう尋ねたのはユリである。

 その質問に船前と加村、それにケンが顔を見合わせ、その後ろで隊員達も同じような行動をとった。


「おそらくそれがマンハンターを操っているのだろう」

 船前が答える。

「ここに隠れていた行商人連合がマンハンターに攻撃されていたことからも、そう考えるのが妥当だろうね」

 それ続いて加村が言う。


「じゃああの偽物だかクローンだかはマンハンター側か……」

 行商人連合と偽物が戦闘したという報告は聞いていないという事と、もし例の偽物が行商人連合側なら先の戦闘で確認できていたはずであろう事からケンは自分の考えを口にした。


「クローン?」

 船前である。

「ああ……、偽物よりか語感が良い」

 どの道、偽物であることには変わりないと答える。


「しかしマンハンターは機械だろう? それが何で生身の偽物を用意したんだ?」

 後ろで隊員が伸びをしながら尋ねた。


 彼の言う通りに、マンハンターは間違い無く機械である。しかしケン達が戦った偽物は生身の身体であり、機械では無かった。

 それが機械であるマンハンター側というのもおかしな話である。


「さあな。俺が聞きたい」

 隊員のもっともな疑問にケンが無表情に答えた。その疑問はケン自身も抱えていたからである。


「マンハンターを作ったのが同じ人間だからじゃないのか?」

 ユリが言うと一同の足が止まった。


「マンハンターを作った人間?」

 船前が呟く。

「ええ、マンハンターだって機械なんだから、それを作った人間はいるはずですよね? もしそれがここにいるなら同じ生身の人間を作って私達に差し向けてもおかしくないかなって……」

 あくまで予想であり、自信は無い。言葉の最後には声も小さくなる。


「マンハンターを制御している人間がいるということか……」

 船前が言いながら再び歩き出す。一同もそれに続いて再び歩き始めた。

「でも、それなら何で同じ人間を襲うのか、理由が分からないな」

 そう言ったのは加村である。


「昔、この世界では戦争があって、マンハンターはその時に使われた兵器。それが暴走して人間を襲うようになったって説を俺は聞いたことがありますよ」

 ケンである。それは彼が最初にいた村で聞いた話であった。

「俺達はそんな未来の世界へやってきた。あるいは、平行世界へやってきたという説だろう? 俺も聞いたことがあるよ」

 壮年の隊員が言う。

 それはギジの世界に住んでいる者なら一度は聞いたことがある話である。


「怪しいものだ。戦争をしていたなら、その痕跡があってもかしくないのに、この世界にあるのは廃墟の街とマンハンターだけなんてね」


 船前が言う。

 右側の壁に扉。それを開けるであろうスイッチに指を押し付けるが反応が無い。

 無視して再び歩き始める。


「でもその痕跡がこの先にあるかもしれないですよ?」

 開かなかった扉を未練がましそうに見ながらユリが答えた。

「どうかな?」

 端からかつて戦争があったという説を信じていない船前は嘲笑するような表情を見せる。

 彼は自分の目で見たもの、もしくは明確な物証が無いものはあまり信用しない性格なのだ。


「それでも、この先に俺達の知らないものがあるのは間違い無いようだ」


 ケンの一言で一同は足を止める。

 目の前にはファクトリー入り口とよく似たデザインの扉が鎮座しており、そこが丁度今まで歩いていた通路の終着点となっていたのだ。


「行くぞ」

 そう言って扉を開くスイッチが押された。

 引きずるような金属音と共に重量のある振動を響かせながら鉄の扉が上がっていく。


「これは……」


 その場にいた全員が息を飲んだ。

 そこにはマンハンターの大型種と呼ばれている、全長10メートルはある4本脚の鉄の牛、ブルタンクが整然と左右に並んでいたのである。

 それらの周りにはクレーンや天井からぶら下がっているアームが取り付いており、中には頭や脚の付いてない機体もあった。


「ブルタンクの工場か……」

 隊員の1人が呟く。

「心情的にはぶっ壊しておきたいところだ」

 その感想にその場にいた全員が同意する。


「異常を嗅ぎ付けて、マンハンターが集まっても困る。やめておくんだ」

 船前である。確かに、彼らの人数は少なく、マンハンターが大挙して押し寄せてきたら勝ち目はないだろう。


「すでに手遅れだ……!」

 ケンが苦々しい声をだして自身の愛銃である“でんでん銃”を抜く。

 船前がケンの銃口の先に視線を流す。

 そこには数体のマンハンターが物陰からゆっくりと現れ、その特徴的な1つ目をケン達に向けようとしていたところであった。


「ええい!」

「やられるかっ!」


 それぞれ声をあげて手に持った得物でマンハンターを撃ち始めた。

 レーザーの火線が飛び、それに命中したマンハンターが倒れていく。

「全く……!」

 どうしてこう荒事ばかりなのかと船前は呆れとも憤りとも取れる感情を抱く。


 それぞれがブルタンクの周りに配置された支柱などの影に隠れながら射撃を行う。

 その中でユリなどは天井にぶら下がっているクレーンの鎖を撃ち、これを破壊してクレーンのアームを落下させ、その下にいたマンハンター数体を排除した。


「器用なことを……、待て! 様子がおかしい」

 船前はユリの射撃の腕前に感心しつつ、ある異常に気付いて声をあげた。


 全員が船前に視線を向けて攻撃を止める。そこで船前が気付いた異常に他の者達も気付いたのだ。

 攻撃が止み、辺りに聞こえる音は機械音だけになる。


「攻撃が、無い……?」

 ケン達が攻撃を仕掛けたのにも関わらず、マンハンター側からは反撃が一切無かったのだ。


「あれを見ろ。何だいありゃあ?」

 隊員の1人がマンハンターを訝し気な視線を送りながら言う。


 そこにいたマンハンターは武器を持っておらず、代わりにその両腕の先からドライバーやレンチの様な工具になっていたのである。

 中には十徳ナイフのように幾つかの薄い工具が折り畳まれているような形状の個体もいた。


「こいつら、戦闘用じゃないんじゃないか?」

 武器を持っていないのを見てケンが呟く。

「なるほど、マンハンターの作業員みたいなものか」

 襲ってこないマンハンター達を見ながら船前が答えた。


 隊員の1人がライフルを構えながらドライバーの腕を持つマンハンターに近付いてみるが特に反応は無い。

「あくまで作業用で戦闘はしないということか」

 隊員に顔を向けるだけでマンハンターは攻撃的な行動はさなかった。


「ってことは、ここで今撃ち合ったのはまずかったんじゃ……」

 ユリが不安気な声で言った。

 その場にいた全員もその事を思い、やってしまったかと顔を強張らせる。


 それ合図にしたかのように、辺りからは目覚ましのアラームのような高いを音が小気味良く鳴り始めた。

 辺りにあるランプは黄色の光を点滅させる。これはいよいよやってしまったと隊員達は冷や汗を流す。


「来た!」

 ケン達が入ってきた通路の奥からマンハンター達が迫ってくる。今度は見慣れた武器を持っていた。


「撃て!」

 船前のやや低い声が響き渡る。同時に通路に向かって一斉射撃。

 前方のマンハンターがレーザーを浴びて倒れる。


「……!」

 無言のままケンが飛び出す。

 一同は何事かと驚きの表情を見せながら弾幕を張り続けた。


 ケンは扉のすぐ横の壁に設置された小さいコントロールパネルに取り付くと、入り口を開いた時に押したものとデザインが同じスイッチを押す。

 そして開いた時と同じように金属音を響かせて扉が上から閉じていく。


「でかした!」

 隊員の1人が声を上げる。

 マンハンター達も移動速度を上げるが、足元に先に倒された個体があった上に、相変わらずレーザーの弾幕が狭い通路を塞いで中々進むことが出来ない。


 結局、マンハンターが辿り着く前に扉は閉じる。

 それと同時にケンはコントロールパネルを撃ち、これを破壊した。


「多分、しばらくはこれで大丈夫だろう」

 ケンが言った。


「で? 帰りはどうするのかなぁ……?」

 若干、嫌味っぽい声が尋ねた。加村である。


「あ」

 言われて気付くケン。

「後先考えない……。まぁ、君らしいといえば君らしいけどね」

 苦笑というよりも嘲笑を浮かべながら加村が言う。


「まぁ、ブルタンクを地上に上げる為の通路が何処かにあるはずだから問題無いだろう」

 船前である。


「その通路が水の中じゃなきゃ良いですけどね。 ここ、湖の中ですよ?」

 加村の言う通り、このファクトリーは湖の中心にある島の地下にあるのだ。

 マンハンターやブルタンクが外へ出るための道が水路になっていてもおかしくはない。


「……今更言っても仕方ないだろう」

 そう言ったのはコントロールパネルを壊した当人であるケンであった。

「ま……、確かにその通りではあるけどね」

 壊れてしまったのは仕方ない。

 それに、あの状況ではそうするより無かったのも分かる。


「もう少し慎重になるべきと加村は言いたんだな?」

 そう言ったのはユリであった。

 これまでの行動があまりにも迂闊、もしくは行き当たりばったりであると彼女も思っていたのだ。


「一々嫌味な言い回しをする」

 ケンは不快感を表情に張り付かせて加村に言った。

「そういう性分なのさ」

 対する加村はフンと笑って答える。


「ま、何にせよこれで我々は先に進むしか無くなったわけだ」

 船前がそう結論付けた。

 隊員達はお互いに顔を見合わせ、やがてゾロゾロと流れるように歩き出す。

 いつの間にかアラーム音は止まっていた。

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