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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
自分と世界とその正体
103/112

103話

 そこは大型のトラックが5台から6台くらいが並走しても余裕があるくらい広い通路であり、その左右両側の壁際には他のエリアに向かうであろう狭い通路が幾つもある空間であった。


 オーバーロードナイトの1番隊がその空間にやって来た時、そこは既に乱戦状態となっていた。

 行商人連合は少数の部隊に別れて、それぞれが独自に応戦しており、それをマンハンターが右や左とあらゆる方向から追い回しては攻撃をしている状態だったのである。


「バラバラになったらマズイね」

 大野はそれだけ言って部隊を1ヵ所に留めて防御を厚くさせた。


「今、2番隊が盾になるような物を持ってくるそうですよ」

 飛び交うレーザーな中で大野に声がかかる。武器屋旅団の加村だった。


「それはありがたいね」

 大野はそう言ってレーザーライフルの引き金を引いてマンハンターを1体倒す。そして頃合いを見て、集めた部隊をマンハンターの陣に突入させて敵陣を崩すという作戦を行った。


 やがて武器屋旅団も1番隊に合流してマンハンターとの戦闘に突入する。

 その中には先程まで後方に控えていたユリもいた。


「相手が人間じゃないなら私も戦える!」

 ユリは彼女が戦闘に参加することに不服に思うケンの横で意気込んだ。

 しかし、マンハンターなら戦えるというのは表面上の理由に過ぎず、実際のところはケンの側にいたいというのが本音だった。


「戦力が増えるなら何でも良いよ」

 1番隊の隊長である大野はそう言って武器屋旅団の増援を喜んでいた。


 そして10分もしないうちに2番隊がやって来て、持っている物資を使い最前線にバリケードを作り始める。

 その間にも1番隊と武器屋旅団はマンハンターと戦い、その先では行商人連合の者達が戦闘をしており、マンハンターは丁度挾まれる形になっていた。


 大野はマンハンターの陣に3度目の突撃を試みる。

 その時に彼は行商人連合側で指揮を執っていた大きな体躯の男を目撃していた。


「あれが安野優とかって奴か?」


 ここから先はマンハンターの占領下であることを考えれば、行商人連合はこの場にいる全員であろう。

 そうなると、それらを指揮している男が行商人連合の代表である安野優と考えていい。


「思っていたのとは何か違うけど……」

 大野はそんなことを思いながらマンハンターに得物であるレーザーライフルを向ける。


「行商人連合はあそこにいるの意外は見当たりませんねぇ……?」

 彼のすぐ後ろで加村が言った。彼も行商人連合の存在を気にしていたのだ。


「みたいだね」

 大野がそれに答えた瞬間、左右から挟み込むようにレーザーが飛び交いオーバーロードナイトの隊員が数人程倒れたのである。


 更にそれに合わせるように“でんでん銃”を持ったマンハンターが数体飛び込み、1番隊の陣形を崩しにかかってきた。

「しまった」

 大野は前に出過ぎたと後悔して、余裕を貼り付かせていた表情を崩す。

 それでも冷静さを失わなかったのは流石に1番隊の隊長を務めるだけのことはあると言えるだろう。


「後方の2番隊と分断されています!」

 1番隊の左右に位置する通路からマンハンターが次々と現れ、隊員の1人が叫び声をあげる。


「後退する。俺に続いてくれ」

 大野は完全に分断される前に2番隊へ合流するルートに向かってライフルを撃ちながら突撃をした。

 他の隊員もそれに続く。


「後ろから撃たれたら厄介だな」

 後退する1番隊の殿は武器屋旅団が務めた。

 加村は敵の左右交互に火力を集中させるように指示を出して、接近するマンハンターの足並みが乱れるように仕向けたのだ。


「ここらで俺達も退き時だろう」

 火力の集中による擬似突撃と後退を数回繰り返した後に、得物である“でんでん銃”を撃ちながら呟いたのはケンだった。


「どういうことかなぁ……?」

 加村は入り乱れる敵を狙撃することを諦めて、落ちているレーザーライフルを拾い上げながらケンに応じる。


「さっきから連合の奴らが見えない。多分、全滅したんだろう」

 ケンに言われて加村は敵陣を見渡すが、確かに行商人連合の姿は見えなかった。

「どうやらその通りみたいだね」

 そう答えると加村は旅団の団員全員に本格的に後退することを告げた。


 それとほぼ同時にである。

「1番隊を援護しろ!」

 勇ましい掛け声と共に2番隊が突撃してきたのだ。


「何だ! 2番隊?」

 1番隊の誰かが声をあげて、その横を2番隊の隊員たちが通り過ぎていく。


「ちょっとちょっと! これじゃ押すも引くも出来ないよ!」

 叫んだのは大野だった。

 その通路は後退する1番隊に突撃する2番隊とマンハンターでごった返し、満員電車のような状況になったのである。


 本来であれば突撃する2番隊と1番隊が入れ替わって交戦するはずだったのだが、1番隊の後退速度と2番隊の進軍速度がお互いに速すぎたことに、1番隊が分断されかけていたこともあり、2番隊と連携が取れなかった事が重なった結果であった。


 マンハンターがレーザーを撃とうとすれば、すぐ隣にいる隊員が得物を鈍器として使い、マンハンターの持つ得物を叩き落とす。

 敵を狙う為に狭い中を移動して他の隊員にぶつかり、そこを敵に撃たれた者もいた。


「糞が!」

 小柄な体型のケンでさえ、マトモに動けずに誰かに対するということも無い罵詈を吐き出す。


「ケン!」

 ユリがケンの居場所を確認するために名前を叫ぶ。その横にマンハンターがいることに気付き、ほぼゼロ距離で頭を撃ち抜いた。

 それと同時にケンもユリに気付く。


「ユリさんか」

 ユリが倒したマンハンターの頭を踏みつけながらケンは彼女の側に着いた。彼らはこの混乱で武器屋旅団からも孤立していたのだ。


「マンハンターの増援だ!」

 誰かの叫び声が聞こえた。

 見れば、通路の奥からマンハンターが群れを成して走ってくるのが見える。 


 ケンが舌打ちをすると同時にマンハンターの群れに誰かがグレネードを投げ込み、爆発が起こった。

「こっちだ」

 爆風を背にケンはユリの手を引いて近くに確認できた狭い通路に入り込んだ。


 そこはオーバーロードナイト本隊へ向かう通路でもマンハンターが現れた通路でも無い、何処へ向かうかは分からない通路である。

 しかし、中央の通路はマトモに移動出来る状態では無いので、そこへ逃げ込むしか無い。

 そうした少集団はケン達以外にもあり、オーバーロードナイトと武器屋旅団の一部は本隊から孤立することになった。


「くそっ、追いかけてきた」

 そしてマンハンターは中央から外れた通路に逃げ込んだ集団にも攻撃を開始する。

 それに対し、孤立した部隊はマンハンターの数に押されて通路の奥へと逃げ込んだ。


「駄目だ。ここは奥へ逃げるぞ」

 ケンとユリも同じように何処へ続くか分からない通路の奥へ逃げることになった。

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