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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
自分と世界とその正体
102/112

102話

 マンハンターの拠点と言われ、今は行商人連合の本拠地とされているファクトリーの中枢。


 地下1階は広いホールを利用した居住区となっており、地下2階は黒い金属の板が立ち並ぶ空間となっている。これはコンピューターの一種では無いかと言われているが、詳細は分かっていない。

 そして地下3階はマンハンターそのものを作っていたであろう工場区画となっており、これは今のところは行商人連合の兵士が戦闘時に使う薬物の精製などに使われていた。


 オーバーロードナイトはファクトリー内部に侵入して5時間程の時間をかけて、ここまでの制圧を完了していた。


「問題はここからだ」

 オーバーロードナイトの副長である中村が神妙な顔付きで言う。この人物にしては珍しい表情であった。


「一体、何が問題なんです?」

 戦闘に参加させた武器屋旅団の団員達を集合させ終えた加村が尋ねる。


「この下の階層はいくつもの区画に別れている上に、今まで我々が制圧した場所よりも広い。敵が何処に潜んでいるかも分からない」

「何か地図とかは無いんですかねぇ……? オーバーロードナイトも元々はここにいたこともあるって話でしたよね?」


 加村の問いに中村は首を横に振る。


「いいや、ここから先の調査は連合の技術者達が主に調査していて、我々はほとんど入ったことが無い」


 つまりは何があるか分からないということである。

 厄介なことだと加村は表情にこそ出さないが内心で歯噛みした。


「ン……、偵察に出したのが戻ってきたな」

 グレーの装甲服を来た小柄な男が走ってくるのが見える。肩を大きく揺らした走り方には焦りにも似たものが見えた。


「どうした? そこまで慌てるような事があるのか?」

 中村は腕を組んで尋ねた。

 尋ねられた男は何度か中村の目の前で深呼吸をする。


「マンハンターです。あいつらがそこら中をウロウロしているんですよ!」

 一瞬その場が凍りつく。

 行商人連合がマンハンターが存在する区域に撤退する訳が無いからだ。


「連合はマンハンターを操っている……?」

 加村が自分の考えを呟く。

 しかし偵察の男はそれを首を横に振って否定した。


「それが、マンハンターは行商人連合とも戦闘を行っているんだ」

 つまり行商人連合とオーバーロードナイトの戦いにマンハンターが加わったということである。


「確かに、最下層はまだマンハンターの制圧下だったな。でもデッカイ扉で奴等を封じ込めていたという話だが……、それが破られたというのか?」

 思案した内容そのままを中村は口に出して言う。

「マンハンターと行商人連合の頭数は、分かるかなぁ…?」

 加村は中村の言葉を聞きながら偵察の男に尋ねた。

 数によっては、この状況を利用出来ると思ってのことだ。


「正確な数は……、行商人連合は少数が追われているのを見ただけですし、マンハンターはそこら中にいて20とか30とかっていうレベルでは無さそうです」

 偵察の男は困った表情を見せながら答えた。


「1番隊と2番隊は武器屋旅団は前線へ。3番隊は補給用の物資をここまで持ってきて、すぐにでも補給を行えるようにする」

 それは船前の声だった。彼もまた同じ報告を受けていたのだ。


「……何で今になってマンハンターが?」

 中村は船前に駆け寄ると、従者のように右側に並びながら尋ねた。

「今になって、だからさ。おそらくはオーバーロードナイトと行商人連合の戦いに乗じてここを取り戻すつもりなんだろう」

 言われてから中村はその可能性を失念していたことに気付き、歯噛みする。


「だから総長はファクトリーの攻略に消極的だった訳ですか……」

「まぁ、可能性の1つとして予想はしていたよ。決着が着いてから出てくると思っていたけどね」


 このタイミングで出てくるのは船前にとっても予想外だったのだ。

 もしマンハンターがこの戦闘に介入するなら、オーバーロードナイトと武器屋旅団の決着が着いて疲労しているところを狙ってくると考えていたのである。


「所詮は機械ということか……?」

 中村が呟く。

「それだけとも思えない」

 船前は短く否定する。




/*/




「まったく、どうなっているんだ?」

 偵察に出ていた隊員の1人が物陰から通路の様子を見ながら言う。

 目の前ではマンハンターと行商人連合の戦闘が行われていたのだ。


「1番隊と2番隊が来る。一度、俺達は退けってさ」

 隣にいた男が肩に手を載せて言う。それは上からの指示であった。


「だな。面倒事に関わるのは勘弁だ」

 しかし、その面倒事の回避は叶わなかった。

 マンハンターの1体が振り向いたと思った次の瞬間には、オーバーロードナイトの方向に発砲したのである。


「気付かれた!」

 その叫びを発端にオーバーロードナイトもマンハンターと戦闘を行うことになった。


「ここを守れば良い。敵を追うんじゃない。2番隊は……、まだ部隊編成中か」

 船前は深追いをしないように部隊に指示をだす。その横を大野率いる1番隊が駆けて行った。

 戦線を定めるためである。


「何?」

 そう声をあげたのは中村であった。マンハンターと戦闘になってしまった偵察隊の伝令の報告を聞いたのだ。


 すぐさま、その内容を船前にも伝える。

「総長。奥から行商人連合の増援も現れて乱戦状態だそうです」

「連合とマンハンターと我々の三つ巴か……」

 船前は顔をしかめる。

 

 一度撤退すべきだろうかと思うが、オーバーロードナイトがいなくなった後にファクトリーを連合とマンハンターのどちらが制圧するかによって、オーバーロードナイトもどう行動するかも変わってくる。

 最悪、要塞を放棄して流浪の行商人になる可能性もあるのだ。


「撤退を?」

 中村が船前の表情を見て尋ねる。

「いや」

 船前は首を横に振って短く答えた。


「敵の敵は味方だ。この状況を利用してマンハンターか行商人連合をお互いに戦わせて、疲労した勢力を我々が叩く」


 どちらが敵なのかは分からないと内心で自嘲しながら船前はその場の全員に聞かせるように言う。

 しかし、マンハンターが何故そうしなかったのかという疑問もあり、言葉を発しながらも船前は撤退する場合の行動も脳内でシミュレーションを行い始めていた。

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