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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
自分と世界とその正体
100/112

100話

「ここまで来るのに一体どれだけ時間がかかったんだ?」

 皮肉を込めて副長である中村が言った。

「行商人連合がファクトリーに引き篭もって数年、ファクトリー上層部を制圧してから約2週間だな」

 背後から並び立つように船前が現れる。

 僅かに驚きの表情を見せた中村は船前の丸い顔に視線を向けた。


「果たして何が出てくるか……」

 ファクトリー内部への侵入を閉ざす巨大な鉄の扉、その前には巨大レーザー砲。

 その周りでメンテナンスをするメカニック達を見ながら船前は呟く。


「部隊の準備は?」

「1番隊、2番隊、3番隊、武器屋旅団、全員オーケーです」


 中村の言葉を聞いて頷く。


「じゃあ始めてくれ。君の言うように時間をかけすぎたと思わないことも無いからね」

 その数分後に、レーザー砲の発射準備が整う。


「さて……」

 レーザー砲の後方に突入部隊が控えている。その更に後ろには船町、そしてレーザー砲発射のスイッチを持つ先生が並んでいた。

 船町は静かに右手を上げる。


「撃てっ!」

 その手を振り下ろし、そう言うと同時に隣の先生がスイッチを入れた。


 次の瞬間、直視出来ない程の光がレーザー砲と鉄の扉を覆う。鼻の奥を突くような匂いが立ち込め、何かが爆ぜたような振動と低い音が響く。


「これで大丈夫なのか!」

 レーザー砲から少し離れていたにも関わらず、真夏の閉鎖空間の中のような熱が辺りの空気を支配する。

 瞬間的な熱の発生に数人が声をあげた。


 レーザー砲に一瞬ではあるがスパークが奔る。

「まずい! 皆さん伏せて下さい!」

 先生が声を上げた。

 それ聞いた者達は脊髄反射的に言われた通りの行動をとる。


 次の瞬間、全身を震わせ火花を散らしたと同時に爆炎を上げて本体が破裂して幾つもの金属音と部品を四散させた。

 光は消えて灰色の煙がレーザー砲があった場所を覆い、その姿を隠す。


「何が起こった?」

「扉は破壊できたのか……」


 煙と異臭の中でざわめく。

 敵が内部から現れることを予想して1番隊を先頭に戦闘態勢に移行する。

 しかしその予想は裏切られ、晴れた煙の中から姿を現したのは、丁度真ん中に穴を開け、その周りを一部赤熱させたままの扉であった。


「まずは第一段階成功だな」

 レーザー砲が開けた穴は人が1人通り抜けるには充分な大きさである。それを目視で確認した船前が呟く。


「よし! 1番隊、続け!」

 1番隊の隊長で、歳に合わず少年のような顔を持つ大野が凛とした声を上げた。そしてファクトリー内部へと突入する。

 鬨の声を上げて大野に続く1番隊。


「2番隊も用意しておけ」

 そんな大野たちを羨望の目で見ていた男、2番隊の隊長である早見が言う。

 彼は大野と逆に、年齢に反して顔が老け込んでいる。

 正確に言えば老け込むというよりも、彫りの深い顔に鋭い目付きのせいで年齢以上の圧力が顔から発せられているのだ。その顔はお世辞にもナイトという柄では無く、武将とかヤクザの親分などといった方が誰もが納得がいくだろう。


「……」

 3番隊の隊長である高橋は準備を全て部下に任せて腕を組んで内部へと続く穴を細い目で睨むように見ていた。


「俺達の出番はまだ後になりそうだ」

 加村はオーバーロードナイトと同じ仕様の装甲服姿で言った。着慣れない為か身体にあたるそれを鬱陶しく思う。


 やがて20分もしない頃になり、ファクトリー内部から1番隊の男が戻ってくる。

「地下1階は制圧しました」

 それは予想以上に早い出来事であった。


「早いな」

 訝しむような目で中村が尋ねる。

 副長である彼も早見と同じような鋭い目付きをしており、戻った男はその視線に思わず後ずさった。


「……それが、1階はもぬけの殻でした。一応、誰かがいた形跡はありましたけど……」

 その報告に団長である船前と中村は首を傾ける。


「地下1階っていうのはどんな所なんですかねぇ?」

 そう尋ねたのは加村だ。


「一応、居住区になっているはずだ」

 中村は加村の顔に視線を向けて答える。

 一応、というのは彼が知っているファクトリー内部はあくまで自分達がいた時のことであり、その後はどうなっているかよく分かっていなかったからだ。


「1番隊はそのまま地下2階へ、3番隊は制圧した1階で待機」

 船前が指示を出し、その通りに各部隊が動く。


 それから数分後である。

「1番隊が連合と接触! 地下2階で交戦中!」

 その報告が伝えられ空気が緊張感のあるものに変わった。


「やはり、中に連合の奴等は逃げていたか……」

 当然だと思っていたが、現実にそうであることを知った不快感は大きく、中村は苦虫を噛み潰したような顔で呟く。


「頼めるか?」

 そのままの顔で旅団の指揮官である加村に尋ねた。

「随分早い出番ですね」

 加村は口の端を歪めた皮肉っぽい笑いを浮かべて答える。


「1番隊へ補給物資を運んで、そのまま合流して戦闘を手伝ってくれ」

 加村の返答を了承とみなして指示を出す。

 加村としては了承したつもりは無かったが、このまま待機しているというのも面白くないので大人しく従うことにした。


「2番隊は出来るだけここの守備に当たらせておきたいし、3番隊は地下1階の探索と最前線との連絡手段としておきたいのさ」

「まるで使い走りだな」


 出番を伝えられた武器屋旅団はそんなことを言いながら補給物資を受け取り、1番隊支援に向かう準備を整える。

 口では文句を言いつつも、噂のファクトリー中枢部に入れるとあって気分は高揚していた。


「さて、行こうか」

 加村の声に従い準備を終えた旅団の団員達はレーザー砲で開けた穴に進み、ファクトリーの中枢部に入る。


「何か、普通だな」

 ファクトリー中枢部へ入った団員達全員の第一印象がそれであった。


 周りの壁と床は灰色のコンクリートであり、天井には蛍光灯が入っているのであろうプラスチック製のボックスが取り付けられて光で辺りを照らしている。

 団員達が予想していた銀色に光る壁や、様々な光を放つボタンの群れといったSFチックなものは1つも見当たらなかった。


 そんな地下道をしばらく通り地下1階に達した時、彼らの高揚した気分はその熱を冷ますことになる。


 そこは元々はホールか何かだったのだろう。

 広い空間であることは見れば分かるのだが、部屋の中央に談話用のテーブルとソファーがいくつか並び、その周りにはベニヤ板などで作られた敷居がその空間を区分けしていたのだ。


「居住区だってさ」

「見慣れた光景だな。面白くも無い」


 団員達は口を尖らせたり苦笑を交えながらそれぞれの感想を口にする。


「下に行けば面白いものがあるかもしれませんよ?」

 そう言ったのはケンだった。

「面白いものかよ。戦闘だろう」

 それに団員が答える。


「旅団の連中か、こっちだ」

 グレーの装甲服の男が声をかけてきた。肩の装甲に3番隊であることを示すマークが描かれている。

「了解」

 それに加村が手を振って答えた。

 案内されるがまま更に地下へ向かう道を進んでいく。


 地下2階。

 そこで初めて旅団の面々はいかにもマンハンターの拠点であるという光景を目にすることになった。


 壁、天井、床は光沢のある黒。

 それらに囲まれた空間には、2メートルはある黒い長方形の板が規則的にいくつも並んでおり、それを照らすように白色灯が天井に配置されている。

 長方形の板の中には一部の外装が外されている物もあり、透明のチューブが内部で光を上下させる姿を覗かせていた。


「そうだよ! こういう光景を見たかったんだ」

 旅団の中にはそう思った者が何人かいたであろう。

 しかし、そんなことを口にしている暇も精神的余裕も無かった。そこは既に戦場だったからである。


「あぁ、助かるよ」

 旅団の姿をみとめた1番隊の隊長である大野は笑みを見せながら言う。

「そこにいるのは?」

 倒れている隊員を見て加村が呟く。


「見ての通り。厄介なことだけど、あいつらの中に俺達と同じような格好をしている奴等がいてね」

 敵対している行商人連合だが、その中にオーバーロードナイトと同じような装甲服を着ていた者がおり、それを味方と判別したところを撃たれたということである。


「肩のマークを見れば分かるけど、咄嗟のことだからね」

 大野の笑みが苦笑に変わる。同時に彼が“でんでん銃”から放ったレーザーが突撃してくる敵を倒した。


「前回はウチの副団長が中心に嘘の情報を流していたから、その仕返し、ということかなぁ……?」

 加村はそう言いながら黒い板を盾にしながら狙撃を開始する。

「嫌がらせか……」

 全くと思いながら旅団の面々もそれに続く。


 加村は狙撃をしながらも的確に敵の防御の薄いところを見付けて火力を集中させて敵の陣形を分断させる。

 そして散らばった敵に対しては1番隊が少数団に別れてこれを各個撃破していった。

 約20分後に敵は更に奥へと撤退、戦闘は終了する。


「撤退した?」

 確認するように大野が言った。敵の撤退が自分の予想よりも早かったのだ。

「奥へ逃げた……。というより、我々を誘き出すつもりかもしれませんね」

 大野の副官が言った。


「この下はどうなっているんです?」

 辺りにある黒い板を撫でながら加村が尋ねる。

 この先に行くつもりであるという意思が言葉の端から漏れているようであった。

「マンハンターの工場、といっても機能はしていないはずだけどね」

 そう答えたのは大野である。


「待ち伏せならここよりかは良さそうですね」

 工場なら工作機械などのような盾になるものや、隠れられるスペースも多いだろうと加村は予測して言う。

「行くつもりかい?」

 大野が尋ねた。

「そちらが言うのであれば」

 それに対して加村が短く答える。お互いにニヤリと肉食獣の影を思わせる笑みを浮かべた。


「何にせよ準備は必要だろう」

 低い声が後ろから言った。3番隊の隊長である高橋である。


「高橋さん?」

「上は大体終わったからな。次はここを探索しながらお前らの支援だ」


 辺りを3番隊の隊員達が駆けているのが見えた。

 

「ここには探索するような物は無いと思いますよ?」

 大野が高橋を見上げるように言う。

 その言葉を聞いて加村も辺りを見回すが、確かに周りには黒い板以外の物は見当たらない。


「そもそもここは何なんですかねぇ?」

 加村が尋ねた。自分で言いながら今更そんな質問をするのかと自嘲する。


「コンピュータールーム、らしい……」

 高橋が答える。

「らしい?」

「詳しくは分からん。ここにある物は我々にとって技術レベルが違い過ぎて海の物か山の物かも分からんのだ」

「ふーん」

 流石はマンハンターの拠点だと加村は思う。


「それよりも……」

 ここから先に待ち伏せしているであろう敵をどう攻めるかについて大野が話題を転じる。

 その内容を聞き、3人はそれぞれの意見を出し合ってから作戦をまとめ、それぞれ指揮下の者達に指示を出すのだった。

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