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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
佐原ケン
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1話

 目覚まし時計がジリジリとけたたましい音を鳴らす。一度寝返りを打ってから起き上がると、時計の頭にあるスイッチを押してそれを止める。


「さて、今日もくだらない1日の始まりだ」


 その少年、“佐原研”はそんなことを思って身なりを整えると、1人キッチンに向かい簡単な朝食を作り始める。


 その音で起きたのか、寝室から彼の母親が眠たそうな顔をしながら現れた。


「今日は早いのね?」

「今日“も”だよ」


 研はフライパンの上で音をたてている目玉焼きの火加減を見ながら母親に言う。そして、炊飯器が炊き上がりのブザーを鳴らすと、それが合図であったかのようにコンロの火を止めて1枚の皿に目玉焼きを盛り付ける。その後、炊飯器のふたを開けてしゃもじを使い、中の炊き上がった白米をほぐした。


 研の母親はそんな研の行動をニコニコしながら見ている。ここ最近は、母親よりも研の方が早く起きて朝食を作ることが多かったのだ。

「最近はしっかりしてきたわね」

 母親のその言葉に、研は何てことも無いような顔をしながら「そうかい」と無愛想な返事をする。母親はそんな研の態度を褒められて照れているのかと思った。


 だが実際のところは、早く起きないと色々とうるさく怒鳴られる為に嫌々やっていることなのだ。故に彼の返事は無愛想なものとなる。もっとも研の母親はそんなことに気付かないで相変わらずニコニコしていたが……。


 そして、研が朝食を先に食べ始めた時だ。母親が口を開く。

「そういえばいい加減に部活とか始めたら?」

 その一言に研は嘆息する。

「入ってるよ、料理同好会」

 研が返答すると母親の顔が曇り始めた。それを見た研は、また母親のくだらない戯言が始まると内心で悪態をつく。


「月に1度しか活動してないじゃない」

「調理実習室はそんなにホイホイ借りられないんだよ」

「なら空いた時間に何か他の部活と兼任しなさいよ。野球部とかサッカー部とか・・・・・・」

「運動は苦手なの知ってるだろ?」


 そもそもやる気が無い、というのを研は内心で付け足した。

 例え兼任したところで、やる気が無いものをやったところで何の意味も無いというのが彼の持論である。

 更に言ってしまえば、この母親は運動部以外は部活では無いと内心では考えている節があり、そんな母親を研は視野も考え方も狭いと思い軽蔑していた。

 それに加えて、研は料理同好会に入っていることについても良く思っていない。それにも関わらず入っている理由は、何も入る部活が無いと思っていた時に友人に誘われたからである。

 

 しかし、その料理同好会……。


 当然ながら入っているのは女子だらけで、研とその友人はかなり浮いた存在となっていた。そして、友人はその女子だらけの同好会に嫌気が差したのかすぐに辞めてしまった。


 しかし研は元来、真面目なところがあり、一度入ったからには途中で辞めるわけにはいかないと思い、そのままダラダラと1年近くも続ける羽目になってしまったのだ。

 そして、今の同好会内における佐原研という人間は体の良いパシリである。具体的にいえば調理実習室の使用申請や、活動に関する連絡、資料集めといったことだ。

 もっともそのことに関しては特に文句は無く、それらのことを黙々とこなしていた。


「ちょっと聞いてるの? あんた、来年は中学3年で受験生なのよ?」

 母親が甲高い声で言う。いつの間にやら説教モードに入っており、研はその甲高いキィキィというような声を不快に感じて顔をしかめた。

「その受験に受かった先の高校でやる勉強が将来の役に立つなら、もう少し真剣になるさ」

 研が皮肉を込めて答えると、そのまま鞄を引っ掴み玄関に向かう。

 

 その後ろで母親が甲高い声で何かを言うが、研は気にすることも無くドアを開けて外に出て行ってしまった。

 やりたくない部活やら、受験やら、実にくだらないと研は思う。


 そんなことに何の意味があるのだろう?

 

 そんな事より社会に出たときにすぐに使えるようなスキルを身に付けられる教育を行うべきである。その方が社会においても即戦力となる人材になれるのに、まったく持って大人というものはやたらと回りくどいことや意味の無いことを好むものだ。

 そんな事を考えながらいつものように通い慣れた通学路を歩く。


「おはよう」


 不意に後ろから声をかけられる。それは同じ料理同好会の女子であった。

「おはようさん」

「ねぇ、実習室の使用申請出してくれた?」

 その言葉に研は少々がっかりする。別にこの女子に何か特別な感情を抱いていた訳では無いが、話しかけてきた理由が調理実習室の使用申請についてという、事務的なことであったからだ。


「ああ、出したよ。先生から連絡が行く手はずになってる」

 研はそのがっかりした気分を飲みこんで答える。その顔はひどく無愛想なものであり、見る人によっては暗い性格に見えるだろう。

「そうなんだ。ありがとうね」

 そんな研をどう思ったかは分からないが、女子はそれだけ言うと研の前方にいた女子のグループに混じって行った。


“あいつってさ、暗いよねー”

 

 その女子のグループを見た研は、そんな陰口を叩かれていたのを思い出す。

「何でこんなくだらない事してるんだろ」

 誰に言うでもなくつぶやく。


 そして何気なく横を向けば、通学途中にいつも通りかかる電気屋の見本商品として置かれている大型テレビが能天気なニュースを流していた。

「ではこれから最近に見られたUFOのビデオ映像をお見せします」

 どうやらオカルト特集のようだ。もう、そんな時期だったかと思い苦笑する。

「本当にくだらないんだな」

 

 その時だ。首筋に何かが刺されるような痛みを感じる。

「痛っ」

 何かと思い振り向くも、見えるのは同じ制服の学生が眠そうな顔をして歩いている姿だけだった。

 気のせいかと思い、再びテレビに目をやると画面の左上に表示されている現在の時刻が8時15分であることを示していた。


「やべェ!」

 研は走り出す。研の通ってる中学は8時20分までに着かないと遅刻扱いになるのだ。

 

 走っている最中に研は空に白い皿のようなものが飛んでいるのに気付く。

「UFO?」

 そんなことを思い付くが、すぐにその考えを否定する。

 さっきのニュースのせいだ。おそらく、飛行機か雲を見間違えたのだろう。まったく馬鹿なことを考えるものだと自嘲気味に笑う。


 次の瞬間、激しい耳鳴りと共に目の前が真っ白になった。

 全身の力が抜けると共に、重力に引き込まれて沈んでいくような感覚。

 そこで彼の意識は途絶えた。

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