ゲーセンの女
この話は架空のお話です。
「じゃぁ次は私!私はミクでーす、ミクはミクでも初音ミクじゃないよ☆」
しーん。
え?何か悪いことでも、言ったかしら?初音ミクってメジャーじゃないの?
「あー、ミクちゃんね、宜しくぅ。えっと、じゃぁ次の子の名前は?」
助けを求めようと隣に座る友人のリカを見ると、はぁっっとため息を一つして背中をヨシヨシと撫でられた。
あー、やばい、また空気読めなかったかも知れない、私。自分の背後に暗雲が立ち込めたのが分かる。
大学3年生21歳、彼氏居ない歴21年。
何でかなー、お化粧もお洒落も人一倍頑張ってるつもりだけど、告白する度即効フラれる。
何故だ、何故なんだ。
なんで私はもてないんだろう?
結局その合コンは、巻き返しをすることが出来ず、惨敗した。
一人暗い部屋に帰って、狭いベットに飛び込んだ。
それから4年。
私は大学を出ても就職が決まらず、実家へ帰った。
やっぱり彼氏は出来なかった。
25になった今でもそう。
しかも先月バイトをクビ。契約更新されなかったんだよねー。
人員削減っていう名目で。
だから駄目なんだよ日本経済☆
そんな鬱憤を抱いたまま、次のバイト先はゲームセンター。
うきうきした。
もともとゲームセンターは好きだったし、良く大学時代は遊びに行ったもんだ。
クレーンに関してはプロ級だと、いつも豪語している。
私と同じようなちょっとマニアックな人間は居ない物かと初日にワクワク。
しかし、以外な事に、働いている人間達は、
寡黙な機械のプロか(あだ名は師匠だった)
はたまたチャラ男か(でも喋りは一流)
気の弱い女の子、いつもウジウジなさっているがポップ作りが上手い、アメちゃんというらしい(ロリポップとかけてるのかな?)
そして、社員さんの宇治氏(皆宇治氏と呼んでいる、何故?)
皆、チャラ男以外はごく普通の、普通以上の真面目な人間で驚いた。
私のイメージでは、社会不適合者が集まるような場所だと思っていたから。
少し小さなゲームセンターで、基本は掃除ばっかりの様なところだったけど、機械の故障にも慣れてみれば後は簡単なものだ。
クレームだって、案外私の中では鼻でけなす程度の物で、たいした物でもなかった。
酔っ払いの人間を宥めるのはチャラ男が上手だということも分かったし、見直した。
機械のエラーが直せないときには師匠が速やかに対応してくれた。
時々子供達がウルさくて頭にきそうな時もあったけど、私の中ではとてもいい環境だった。
なんていったって、時々不評であまった景品のヌイグルミ(小さいもの限定)くれたからね!
おかげで、鞄やら携帯にもっさりと生息している。
他店に回すにもどうせ余るだろうからと、分けてくれる時の宇治氏はいつも悪人面になっているけど。
職場の空気にも仕事にも慣れて3ヶ月程経ったとき、私は始めてナンパを経験した。
「ねぇねぇお姉ちゃん、ここの仕事終わったらさ、カラオケでも一緒にいかね?何時までやるの?」
勿論お断りした、だって、ヤンキーだったもん。金髪ツンツンの明らかに年下メン。
「誘ってもらってありがとうございますぅ、でもすみません、私まだまだ仕事がありますので当分おわらないんですよねw他の方を誘ってくださいw」
超笑顔で返してやったぜ。ヤンキーは食い下がったが、超極上笑顔の中にいい加減飽きたのか、どっかへ行ってしまわれた。
どうせならマトモな人にナンパされたいもんだわ。
師匠がヤンキーを追い払った後、やってきて声をかけてくれた。
「大丈夫だった?危険を感じたら助けを呼べよ」
「・・・あ、ありがとうございます」
ボソボソと話すが低音ハスキーボイスは、なかなかご馳走様。その日は初めて師匠から声をかけて貰った日でもあった。
なんだかんだでそのまま半年、私は相も変らずゲームセンターに居た。
途中アメちゃんが辞めてしまい、ポップ作りを泣きながら私がやっていた。アメちゃんは上手かった、絵も上手だった、なのに私は絵が下手。私よりチャラ男の方が遥かにまともな絵を描いた。
「凄い、上手ですね!私より上手!」
「いやぁ~そうかな?でもコレ、ぶっちゃけ何のキャラクター?」
「・・・・ガンダム00です、ガンダムのヒロインなんですよ」
「ぶっちゃけぇ、あんま興味ない感じ」
チャラ男とは生きている次元がいつも違う。今日は合コンがあるから早く仕事を終わらせようとヤキモキしていたのは、少し可愛く感じたけど。
アメちゃんが辞めたのに、次の人間はなかなか入ってこなかった。
基本暇だといっても、忙しい時にはスムーズにいかないときもある。
「宇治氏、まだ新人さん来ないんですか?」
「んー、まだだね。中々来ないんだよ。一回面接来たことあったけど、イマイチだったからね」
「ふーん」
「まぁもう少しの辛抱だよ」
「了解です」
宇治氏はもうすぐ40になるであろう伯父様、しかし独身らしい。まぁ、ちょっと頭薄いけど、優しくて頼れる社員さんだ。
男3人女1人、夕方から深夜まで、この4人でほぼ毎日回していた。
いまだに彼氏もいない生活、毎日多くの鍵を腰に付けチャラチャラ鳴らしながら、フロアの掃除に回る。
早く良い人来ないかなー。
周りは明るく楽しげな機械、遊ぶお客さん達も皆必死だったり、楽しそうだったり。
軽快で明るく、楽しい雰囲気の中、私はいつも1人孤独を抱えている気がした。
多くのヌイグルミが私に向かって微笑んでくれている。
子供達が足元をキャッキャッと笑いながら追いかけっこしていく。
まぁいっか。私はクスリと笑って掃除を始めた。
私は今日も、ゲームセンターに居る。
皆の笑顔に囲まれて。
ゲーセンで働けばヌイグルミくれるって話も架空のお話です。