表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

『その縄、魔法につき。〜十九歳の縛術師は、殺さずの技術で乱世を縛り上げる〜』第5話 王の招請、縄の行軍

この物語には、

剣も派手な魔法も、英雄的な殺戮もありません。

あるのは、

「それでも殺さずに済むなら」という、

少し面倒で、少し遠回りな選択だけです。

縄という取るに足らない道具が、

もしも“力”になったなら――

世界は、ほんの少し違って見えるかもしれません。

静かな異端の物語を、どうぞお付き合いください。


旅に出る準備は、静かに整えられていた。

 リオネルは古い倉庫の床に膝をつき、縄を一本ずつ確かめていく。

 擦り切れ、撚りの緩み、魔力の通り――どれも問題ない。

 剣と違い、縄は正直だ。

 使い手の意志が曖昧であれば、絡みもほどけもする。

 だからこそ、彼はこの道具を信じていた。

 その時、扉が叩かれた。

「リオネル殿」

 外に立っていたのは、王城の使者だった。

 王家の紋章を掲げ、深く頭を下げる。

「国王陛下より招請状をお預かりしております。

 『リオネル殿、お連れするように』と」

 差し出された書状には、短いが重い文言があった。

――家臣が失礼な振る舞いをしたことを詫びる。

――そして、どうしても頼みたい義がある。

 リオネルはしばらく黙って封を見つめた。

「……分かりました」

 そう答えたのは、義務感からではない。

 自分の力が、この国にとって「試される段階」に来たと感じたからだ。

________________________________________

 王城へ向かう馬車の中。

 窓の外には、城下町の夕景が流れていく。

 露店は閉じられ、夜の支度が進んでいる。

 その平穏の裏に、黒怪盗団の影がある。

 接見の間で迎えた国王は、疲労を隠さぬ表情だった。

「リオネル。

 隣国より流入した“黒怪盗団”により、民が難儀しておる」

「彼らは剣を振るわぬ。

 だが、奪われた者にとっては、それも暴力だ」

 地図が広げられる。

 被害は、貧しい地区に集中していた。

「騎士団では、捕らえきれぬ。

 殺すわけにもいかぬ相手だ」

 国王は、真っ直ぐにリオネルを見た。

「力を、貸してほしい」

 即答だった。

「断る理由がありません」

 その一言で、空気が変わった。

________________________________________

 作戦会議は、奇妙なものになった。

「……縄、ですか?」

 フィアと呼ばれた少女は、補佐役に指名され、困惑していた。

「十数本、用意してほしい」

「そんなに?」

「ええ。今回は“囲む”のではなく、“流す”ので」

 騎士たちは首をかしげたが、命令には従った。

 夜。

 黒怪盗団が現れる路地。

 騎士団は周囲を固めるが、剣は抜かない。

 リオネルは、闇の中央に立った。

「……行け」

 低く命じ、短い呪文を唱える。

 闇の中を、縄が走った。

 屋根を越え、影を縫い、地面を滑る。

「なっ……!」

 次の瞬間、逃走経路が断たれる。

 足、腕、腰――

 無駄のない動きで、怪盗たちは次々と縛られていった。

 悲鳴はない。

 血も流れない。

「……剣も使わずに、ここまでとは」

 騎士の一人が、呆然と呟く。

 捕らえられた怪盗の男が、苦笑した。

「殺さない……か。

 あんた、俺たちと似てるな」

 リオネルは答えなかった。

 似ているからこそ、縛った。

________________________________________

 夜明け。

 国王は正式に命を下した。

「リオネルを、騎士団補佐官に任ずる」

 異端は、拒まれる存在ではなくなった。

 だが――完全に受け入れられたわけでもない。

 城の廊下を歩きながら、リオネルは感じていた。

 信頼と警戒が、同時に向けられていることを。

 その夜、彼は王城に泊まることになった。

 それが、次の事件の始まりだとは――

 まだ、誰も知らない。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

リオネルは強い主人公ですが、

彼自身は「正しい」と思って行動しているわけではありません。

ただ、自分が納得できるやり方を選んでいるだけです。

殺さないことは、

時に甘さと呼ばれ、

時に偽善と呼ばれます。

それでもなお、その選択を貫いた先に、

何が残るのか――

この先の物語で、少しずつ描いていければと思います。

引き続き、お付き合いいただけましたら幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ