第3話 悪魔と何か
灰色の魔力を纏った右手がミアの胸を貫いた。
途端に、今までスキル欄に書いてあるだけで使えなかったスキル名が頭に浮かぶ。
"解放"?
効果はわからないが、この状況で浮かぶってことは有効なものなんだろう。
信じるしかない。
既に動き始めている。
勇者め……離せよ!
「"解放"!」
「なに!?」
俺の中で弾けた力が周囲に影響を及ぼす。
あんなにもがいても微動だにしなかった勇者の拘束が解ける。
そのまま加速し、ミアのもとに向かう。
ミアは伯爵によって貫かれ、ぐったりしている。
まだ逝くな!
頼むよ!
ミア!!!!
「力の解放ですか? まさしく悪魔の所業ですな。見ましたか? 皆さん。これこそが悪魔たる証明です!」
「ふざけるな! ミアを離せ!!!」
「もう遅いのですよ。見なさい。聖剣の力を!」
「うらぁぁぁああぁぁぁぁあああ!!!!!」
伯爵がミアから腕を引き抜きながら、現れた剣を見せびらかすように掲げる。
ふざけんな!?
ミアになにしてんだよ!!!!
もしそれが真に聖剣だったとしても。
俺は絶対に認めない。
ミアを生贄に捧げて呼び出した剣なんかなぁぁぁぁぁああああ!!!!
「ふざけんなぁぁぁああぁぁぁああああ!!!!!!」
パリーーーーーーーン!!!!!!!
「「なっ!?」」
「ばかな!?」
折れた?
はは……。折れたぜ?
そうだ、ミアは?
ミアはどうなった?
俺は怒りに任せて魔力をぶつけて叩き折った聖剣から目を離し、ミアを探す……。
「てめぇ、なにしてんだよ!!!!?」
「うごぉ……」
しかし、見つける前に蹴り飛ばされた。
勇者のやつか……。
「なんで折れてんだよ!? なんで!?」
勇者はぽっきりと折れた剣を拾い上げて叫んでいるが……。
なんでだよ、ミア。
なんで倒れたままなんだ?
なぁ、起きろよ。
目を開けて……。
なんで視界が曇る。
これは涙か?
なんでだよ。
ミアは!?
ミアはまだ死んじゃいないはずだ!?
なぁ!?
「てめぇは絶対許さねぇ!!!」
「ぐはっ……」
また勇者に蹴り飛ばされた。
くそ、好きなようにやりやがって……。
俺はミアを助けるんだ。
絶対に……
「ぶっ殺してやる!!!」
『グルルルルォォォオオォォオオオオオオ!!!!!!!』
「なっ!?」
しかし、俺の誓いも。勇者の怒りも。全くもって意に介さない恐ろしい唸り声と共に何かが降って来て、勇者がどこかに行った。
「にっ、にげろ!!!!」
「いやぁぁぁぁあぁぁぁぁあ」
「どけよ!」
「助けてぇぇぇぇえええぇ!!!!」
伯爵が咀嚼され、再び悪魔が顔をあげたところで堰を切ったように民衆が逃げ惑い始める。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺の視線はミアのみを見ている。
処刑台に横たわったミア。
なんとしても救い出すんだ。
絶対にあの悪魔に喰わせてなるものか……。
「くっ、悪魔だと? ふざけやがって。おい、セルフィ―ナ! フェルム! 逃げるぞ!」
「えぇ?」
「……」
クソ勇者は神官の女の人と、あの治療術師に声をかけているが、逃げるのかよ!?
お前、勇者とか威張って言ってなかったか?
それが悪魔を前にして逃げるだと?
『聖剣ヲ追ッテ来タガ、大シタ獲物ハイナイヨウダが、次ハ貴様ダナ」
どうやらあの悪魔は聖剣を追って来たらしい。
もう折れたそれを抱えていた勇者がそのターゲットになったが、クソ勇者はどこまでもクソだった。
「ふん。喰うならそこの女でも喰ってろ! おらぁ!!!!」
『グヌゥ』
勇者は魔力を貯めて魔法を悪魔にぶつけると同時に、折れた聖剣と倒れているミアを悪魔の方に投げつけやがった。
なにしやがんだよ、クソ野郎が!!!!
俺は咄嗟に移動してミアを抱き止める。
『往生際ガ悪イ。醜悪ダナ……』
「なに!? うわぁぁぁぁああああああ」
俺はなんとかミアを抱き上げて処刑台から離れつつ、クソ勇者への文句を頭に浮かべていたが、振り向くと、巨体に似合わない俊敏な動きで勇者が放ったものをあっさりかわした悪魔が勇者の前に飛び込み、蹴り飛ばした。
しかし困った。
ある程度距離は取ったものの、悪魔のこれまでの動作から、こんな距離は一瞬で詰められる程度のもの。
しかもミアが息をしていない。
それを感じるだけで心が張り裂けそうな焦りを感じる。
ダメだ。弱気になるな。
伝説ではたとえ死んだとしても体さえ無事なら復活させる魔法の話しだってあるんだ。
今は今を切り抜けることだ。
なんとかあの悪魔を……。
<何をしたい?>
えっ?
<何をしたいかと聞いたのじゃ? 聞こえておるのじゃろう?>
誰だ?