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第1話 悪夢

「レオ……大好きだよ……元気で……逃げて!」

 ふざけんなよ!?

 何諦めてるんだよ!?


 俺は絶対に認めない。お前を聖剣なんてものを召喚するための生贄になんてさせてたまるかよ!


「ふざけんなぁぁぁああぁぁぁああああ!!!!!!」

「ふん。無駄なことはやめろ。その女はその身に悪魔を宿している。そこから救ってやるのだからむしろ感謝しろ」

 バカなことを言うな!?


 そんな虚言、誰が信じるって言うんだよ!

 むしろ神聖な気配すら漂わせているミアに悪魔なんかいるもんか!

 それはてめぇの仲間の聖女が断言していただろうが! ミアの中に悪魔なんかいないってよぉ!!!


「いつの世にも悲しく視野の狭い愚かなものがいるのです。勇者殿。お気になさらず。既に準備は整っています。あとは、この力を娘に叩きこむだけ。それだけで聖剣はあなたのものです」

「やめろぉぉぉおおぉぉおおお!!!!」

「邪魔するな!」

「ぐはっ……」


 俺は死に物狂いでミアを助けるために抗ったが、勇者を名乗るだけあって強い……。


 チクショウ……。こんなところで終わるのかよ……。


 いやだ……。


「わかるぜ? 可愛い女だもんなぁ。でもな。俺様はこの女を捧げて聖剣を手に入れるんだ! そうすればたくさんの女を救ってやれるからよぉ。くっくっく。その崇高な犠牲に選ばれたことを誇れ!」


 ふざけんな!?

 俺とミアは幼い頃から助け合って生きてきた。そして誓ったんだ。

 冒険者として生活できるようになったら結婚しようって。

 絶対に幸せにするからって。


「止めだ!! 命だけは助けてやる。せいぜい俺様に逆らったことを後悔しながら寂しく生きていきやがれ!」

「レオ!?」



 クソ勇者に魔法を撃ち込まれた。

 ミア……。

 ごめん……。

 こいつ、強い……。


 俺……。




 


 思えば、朝は普通に迎えたんだ。


「おはようレオ」

「あぁ、ミア」

 よく晴れた朝。目覚めと同時に感じられる暖かさに夜のことを思い出して酔いそうになる……が、そんなことをしている場合じゃない。


「今日も頑張ろうね♡」

「あぁ。あと1,2回依頼をこなせば晴れてブロンズランク。一人前の冒険者になれるからな」

「私たち、強くなったし、できることも増えたもんね。レオには力があるって私知ってるし」

「ありがとう。信じてくれて。絶対に使いこなしてみせるからな」

 孤児として育った俺達は冒険者になったものの、まだ稼ぎが少なく2人で小さな部屋を借りて住んでいた。

 俺達は2人とも冒険者の素養があったようで、少しずつ成長している。


「きっと世界を守る竜様だって見てくれてるよね」

「それは信じられないけどな。まぁ、依頼に行こう!」

 今日は薬草採取に行く治療術師の護衛の仕事を受けている。

 約束の時間に遅れないように支度をし、2人で一緒に出掛けた。



「くっくっく。これが悪魔が宿った女か?」

「くっ……なに?」

「誰だ! ミアを離せ!」

 しかし、これが罠だったと気付いた時にはもう遅かった。

 ミアが不思議な魔法の球体に閉じ込められた。


「ねぇブレイド。悪魔なんて全く感じないよ? その話、本当なの?」

「悪いが私も同感だ。ここまで一緒に来たが、善良な市民だった」

「いいんだよ。レムル伯爵が言うんだから従っておけばな」

「「……」」

 依頼主のはずの治療術師が呆れた顔で横から出てきた男女と何かを言い合っている。


「ふざけるな! ミアを返せ!」

 だが、そんなことはどうだっていい。

 ミアになにをするんだよ!?


「ふん、邪魔をするな」

「ぐあぁ」

「レオ!?」

 しかし、男は容赦ない魔法を放ってきて、俺は一撃で吹っ飛ばされてしまった。


 くそっ……。


 気付いた時には魔の森で1人で転がされていた。




 そこから俺は焦って街に戻ったが……。


「レオ……お前生きていたのか?」

「ふん……まさか戻ってくるとはな」

「なにが?」

 街に入るときに険しい顔をした馴染みの門番に話しかけられた。


 なんと、ミアは悪魔を宿した女として捉えられたという。

 しかも俺はそんなミアと結託して街を陥れようとしていたことにされていると言う。


「大人しくつかまれ。そうすれば苦しまずに処刑してもらえるだろう」

「ふざけるな!」

「あっ、おい! 誰か捕まえろ! 逃げたぞ! レオだ!」


 くそっ、くそっ、くそっ。

 追ってくるのは今朝までは俺達によくしてくれた衛兵たちだ。

 それが悪魔憑きとその仲間。


 そんな嘘ひとつで変わってしまった。


「おらぁ!!!」

「くっ、全部嘘だ! なんで信じるんだよ!」

「ふん。悪魔憑きはみんなそう言うんだ。そして女子供を襲う。見逃さねぇ!!!」

「ミアは捕まって処刑が決まってるぞ! お前も大人しくしろ!」

「くそっ」


 俺はひたすら走った。

 孤児で、幼い頃は悪さもしてなんとか生き延びた俺の経験が活きたらしい。

 なんとか衛兵たちをまくことができた。


 ミアが処刑されるだと?

 そんなこと、絶対に許さない……。


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