コミカライズ記念
一迅社様から5/29発売の『婚約破棄されましたが、幸せに暮らしておりますわ! アンソロジーコミック 10』にて、コミカライズ化していただきました。
茶ノ木あん先生が素敵な漫画を描いてくださいました。
ありがとうございます!!
良かったら、そちらも読んでみてください。
side4 キャメル
…じゅわっ
熱したフライパンに溶き卵を流し入れ、火が通ってきたら卵をフライパンの端に寄せて形作る。
トン…トン…
フライパンの持ち手を軽く叩いて動かしながら卵の形を整えると、ふんわりとしたオムレツが完成。
「…うん、今日も上手に焼けたわ!」
私はそう一言呟くと、オムレツをお皿に盛り付け、サラダを添えて、パンを準備します。
パンは勿論、ソニアさんのお店のバターロール。
そしてテーブルに出した朝食は、三人分。
パタパタ…
「おかあさん、おはよう!」
「おはよう、キャム」
朝食の支度が終わった頃、ダイニングへとやって来たのは、娘のフェイニーと夫のレイン。
「おはよう。フェイ、レイン」
「わぁ!オムレツだ!フェイ、おかあさんのオムレツ、だいすき!」
フェイの嬉しそうな声を背に、私はコーヒーとミルクティーを淹れます。
コーヒー豆は、五年前にレインが作ったブレンドで。
「「「いただきます」」」
結婚してからは二人で、娘が生まれてからは三人で、朝食を共にします。
離婚後の時には想像も付かなかった光景。
…ふと、視線を感じると、レインが穏やかな笑顔で此方を見ています。
「どうしたの?」
「うん。君と毎日一緒に居られて、今はフェイも居て、私は幸せ者だなぁ…と思って」
「きゅ、急に何?」
「急じゃないよ。私は毎日幸せを噛み締めている。好きだよ、キャム」
「す、す…っ」
レインの突然の告白に私の顔はたちまち真っ赤に染まります。
彼の口説き癖?は今でも健在です。
せめて、人前では控えていただけませんか…?
「フェイもおかあさんすきー!おとうさんもだいすきー!!」
レインの甘い空気に流されそうになる私を、フェイの明るい声が引き戻します。
「フェイはね、おおきくなったら、おとうさんのおよめさんになるのよ!」
「それは光栄だな、リトル・レディ」
「ま、まぁっ…!?」
私はどちらにヤキモチを妬いたら良いのでしょう?
「「「ごちそうさまでした」」」
朝食を終えた後、コーヒーを飲みながらレインが話を切り出します。
「さて、フェイ。今日はお父さんもお母さんもお休みなんだ。何処か行きたい所はあるかい?」
「えっ?ほんと?あのね…」
*
にゃーん
うなーん
フェイの希望で訪れたのは、猫カフェなる場所でした。
「うわぁ〜!ほんとにねこさんがたくさんいるー!」
…確かに、猫が沢山…
「ミレーユちゃんがいったとおりだぁ!」
ミレーユちゃんはフェイのお友達です。
先日、ご両親と猫カフェに行ったことをフェイに話してくれたのだそうです。
「…ニーサにこのような店があったのだな。しかし、なぜこんなに沢山の猫が?」
レインの問いに答えてくれたのは、店主の女性でした。
「…最近、富裕層の間で血統書付きの猫が流行っているのをご存知ですか?」
「街中で猫をよく見かけるようになったとは思っていたが、まさか…」
「ええ。富裕層は珍しい品種や血統を自慢し合っています。ですが、その自慢会で子を成してしまう猫もいます。すると富裕層は混血種は要らない、と生まれてきた猫たちを捨てるのです」
「そんなことが…」
「此処も始めは普通のカフェだったのですけど、一匹保護したら、二匹三匹…と。営業時間だから、と放ってもおけず…ならば、猫と触れ合えるカフェにしよう、と」
「そうだったのですね。…ですが、カフェの経営もして、猫たちのお世話も、ともなれば大変なのでは…?」
「ええ、確かに大変ですけど…今ではご近所さんやお客様も協力してくださって、それに、此処で新しい里親が決まった猫もいるんですよ」
「貴女は素晴らしい活動をなさっているのですね!」
にゃおーん
にゃおーん
「…あら?あの猫はどうしたのでしょうか?」
「ああ、プティちゃんがおやつをねだっていますね」
「おやつ?」
「プティちゃんはおやつが大好きで、お客様が来られると、こうしておやつをねだるのですよ」
「まぁ!?ちゃっかりさんなのね!」
すると、プティちゃんの様子と私たちの会話に気付いたフェイが
「おかあさん、プティちゃんにおやつあげたい」
と言い出しました。
「私たちもプティちゃんにおやつをあげてもいいですか?」
「ええ。では、こちらをどうぞ」
そう言って店主が渡してくれたのは、ペースト状の猫のおやつ。
「プティちゃん、おやつをどうぞー」
フェイがスプーンに乗せたおやつを差し出した途端
ペロペロペロペロ
ペロペロペロペロ
プティちゃんが凄い勢いでおやつを食べ始めました。
「本当におやつが大好きなのね…」
プティちゃんの勢いに、私は若干押され気味。
「キャム、おやつはフェイに任せて、私たちは此方で待っていようか」
「そうね」
私たちはコーヒーを注文し、テーブルについて娘と猫たちの様子を見守ります。
…そしてふと、私の目に止まったのは二匹寄り添う猫たち。
「あの猫たちは、仲が良いのですね」
「ええ、よく二匹寄り添っています。白い猫がビアンくんで、縞模様の猫がチェルシーちゃんです。…ビアンくんはお耳が聞こえないので、近付く時はそっと近付いてあげてください」
「!お耳が聞こえないのですか?」
「音や声に全く反応しないので…おそらく聞こえていないのだと」
「まぁ…」
「あちらの黒い猫はネロくんです。あの猫はまだ人慣れしていなくて…威嚇してパンチをしてくるので、気を付けてください」
「は、はい」
「…こうして改めて触れ合ってみると、猫にも様々な性格があるのだな」
「そうですね、私も初めて知りました。…貴重な経験をさせてくれたフェイに感謝ですね」
「おとうさん、おかあさん、プティちゃんおやつぜんぶたべてくれたよー!」
「そう、良かったわね!」
プティちゃんがおやつを食べてくれて満足したのか、満面の笑顔のフェイがててて、と私たちの元へやって来ます。
その時
にゃん
「?」
不意に聞こえた声に振り返ったフェイの側に居たのは、濃茶の毛に青い瞳の猫。
「わぁ!このこ、フェイとおなじいろー!」
にゃん
スリスリ
同じ濃茶毛青瞳同士、何かを感じたのでしょうか?
濃茶の猫はスリスリとフェイにすり寄っています。
「この猫は随分人懐っこいのね」
私の呟きに
「この猫はマロンちゃんです。うちでいちばん人慣れしている猫ですけど、どうやら娘さんが気に入ったようですね」
店主が教えてくれました。
…じーーーっ
一頻りフェイにじゃれついていたマロンちゃんが、今度はお座りしてフェイを見つめています。
「?マロンちゃん、どうしたの?」
…じーーーっ
「………?」
「…フェイ、もしかして、マロンちゃんもおやつが欲しいのではないかしら?」
「…そうなの?マロンちゃん、おやつほしい?」
にゃん
「まぁ、お返事が出来るのね!お利口さんね!」
「もう一つ、おやつを貰おうか」
「そうね、フェイ、マロンちゃんにもおやつをあげましょう」
「うん!…マロンちゃん、どうぞー」
…フンフン
…ペロ…ペロ
フェイが差し出したおやつを、マロンちゃんは匂いで確認?した後、ゆっくりと食べ始めました。
「…食べ方にも個性が出るのね」
にゃん
おやつを食べ終えたマロンちゃんが、ととと、と私の足元に寄ってきます。
スリスリ
「!!…か、可愛い…っ!」
スリスリ
「はわわわわ…っ」
「…この猫は随分強かだな。…あっという間に我が家の女性陣を虜にしてしまったようだ」
レインの呟きに私は否定することが出来ません。
だって私もマロンちゃんの可愛さに、気持ちが揺れ動いていますもの…っ。
「…フェイ、マロンちゃんとずっといっしょにいたいなー…」
「!そうよ!レイン、マロンちゃんをうちにお迎えしましょう!!」
「!?待て待て、猫は玩具じゃないんだぞ。軽い気持ちで決めることじゃない。…今日のところは家に帰って話し合おう」
「…そうね、ごめんなさい。気持ちが逸って、つい…」
「フェイも。今日は家に帰って、うちでマロンを迎えられるか考えてみよう」
「…うん。…マロンちゃん、まっててね」
にゃん
私たちの話が解ったのか、マロンちゃんは一声鳴いてカフェの奥へ戻って行きました。
*****
あれから家族で話し合い、三週間のトライアル期間を経て、今日正式にマロンちゃんを我が家にお迎えすることになりました。
カフェの店主との譲渡手続きも終わり、晴れてマロンちゃんは私たち家族の一員です。
「マロンちゃん、これからよろしくね!」
フェイが嬉しさを隠しきれない様子で、マロンちゃんに挨拶をしています。
「フェイ、途中で飽きたなんて通用しないからな。ちゃんと家族の一員として接すること!…キャムも」
「「はいっ!」」
私とフェイはピシリ、と姿勢を正してレインに返事をします。
「…ハハッ」
「…フフフッ」
「?」
にゃん
私とレインは思わず吹き出し、フェイは私たちの様子にきょとんとし、マロンちゃんが一声鳴きます。
これから更に賑やかになりそうですね。
愛する旦那様と娘、休日のコーヒーの香り、そして猫。
大好きなものに囲まれて、私の幸せは益々充実しています。
fin.
登場人物
*フェイニー・ロクス
キャメルとレインの娘。将来の夢はお父さんのお嫁さん。
濃茶髪青瞳。
読んでいただきありがとうございました。




