恒例 勉強会!
いつも通りの日常が続き、期末テスト前最後の休日。
目覚ましが鳴る前に自然と目が覚める。期末テスト前で脳が勝手に覚醒してるんだろう、勘弁してくれ。
スマホを見るが、まだ早い。二度寝したい気持ちを押し殺し、顔を洗いに洗面所へと向かった。
キッチンの方から、包丁の音とフライパンの音がする。
味噌汁の匂いもして、腹が勝手に「朝だ」って認識する。
顔を洗ってリビングに出ると、母さんがエプロン姿でコンロの前に立っていた。
その横で菜々が卵を溶いてる。動きが丁寧で、でも手は止まらない。
「おはよう、翔。起きた?」
「おはよう」
「ちょうどよかった。皿出して」
言われた通りに皿を並べる。
菜々がこっちを見て、いつもの声で微笑みながら挨拶をする。
「おはようございます、翔さん」
「おはよう。早いな」
「お母さまと一緒だと早くなっちゃいますね」
「だよね。うちの母さん、朝だけ異常に強い」
「失礼でしょ」
母さんがツッコみながら味噌汁をよそる。
菜々は卵焼きを切って、皿に並べていく。
「今日、図書館でしょ?十時だっけ」
「うん。十時」
「混むから早めに行きなね」
「分かってる」
「菜々ちゃんも、無理しないでね」
「はい!ちゃんと休憩もします!」
母さんが「よし」って顔をして、俺の前に皿を置いた。
トーストと卵焼きと味噌汁とヨーグルト。朝としては完璧だ。
「「「いただきます」」」
食べながら、母さんが思い出したみたいに言う。
「そういえばさ、あのデートのやつ、本気なの?」
「本気っていうか…まあ、みんなが勝手に盛り上がってるだけ」
「翔がそれ言うの、ずるいわ。原因は翔でしょ」
「俺は被害者だ…被害者なんだ…」
「はいはい、嬉しい癖に」
菜々が箸を置いて、丁寧に言う。
「翔さん、デートの条件、ちゃんと覚えてますか?」
「期末の総合点トップが俺とデート。覚えてる」
「よかったです」
母さんがにやっとする。
「菜々ちゃん、勝つ気?」
「中間の時も一位でしたし…今回も、ちゃんとやれば大丈夫だと思います」
「余裕じゃん」
「余裕…では無いです。結衣さんも夏樹さんもリベンジに燃えてますからね…勝ちますけど」
淡々と言うのが菜々っぽい。
母さんが「かっこいい」って笑って、俺は味噌汁を飲む。
食べ終わった頃に、菜々が立ち上がって俺の鞄を指差した。
「翔さん、確認しますね」
「どうぞ」
そう言うと菜々は俺のカバンを開くと、一つ一つ丁寧に確認していく。
「よし。完璧です」
「だろ?」
朝ごはんを食べ終わると、俺と菜々は図書館に向かうために家を後にした。
母さんが玄関で手を振る。
「いってらっしゃい。帰りは寄り道しすぎないでね」
「いってきます」
「いってきます、お母さま!」
外に出ると空が青い。
寒すぎず、暑すぎず。歩きやすい。
図書館まで並んで歩く。
「翔さん、席、取れるといいですね」
「取れなかったら待つしかないな〜」
「待ってる間に英単語、回しましょう」
「やっぱりやるんだ」
「やります」
即答。
菜々はこういうところが強い。
しばらく歩き学校近くの図書館に着く。
案の定、母さんが言っていた通り人が多い。でも少し探すと六人座れる席が空いていた。
「運がいいですね」
「だな、危うく英単語回されるとこだ」
空いていた席に荷物を置いたところで、声が飛んだ。
「翔〜!」
結衣が手を振ってる。
今日は髪を軽くまとめ、ジャージ姿のラフな格好でのご参戦のようだ。
「おはよ、翔」
「おはよう」
「菜々もおはよ。今日もよろしくな」
「おはようございます、結衣さん。任してください!」
やがてしばらくすると響と柊も来た。
響はすでに満身創痍の顔をしている。柊は参考書を開いたまま無言で座る。
「翔おはよ、俺もう無理ぽ…」
「おはよ、死にかけじゃねぇか」
最後に夏樹が現れた。
今日はどことなく目がギラついてる。
「おはよ。翔くん、今日も頑張るよ!」
「おはよう。お前、やる気すごいな」
「だって勝ったらデートでしょ?激アツじゃん」
「中間の時もその感じで負けてたな」
「引っぱたくよ?」
ギラついた目で笑顔でそんなこと言わないでください。
全員が揃って、菜々がノートを開く。
「では、始めましょうか。今日は期末前最後の休日なので、できるだけ進めます」
「菜々、先生だな」
「はい、ですので厳しく行きますね翔さん」
「ごめんなさい、勘弁してください」
菜々の号令により英語の勉強から始まる。
説明は短く、でも要点だけ刺さる。
「関係代名詞は出ます。例文で確認します。結衣さん、whoの例、いけますか?」
「余裕だろ。I have a friend who plays soccer. だな」
「いいですね。翔さん、whichの例、お願いします」
「ほえ?」
「ごめんなさい、私が馬鹿でした」
夏樹が横から言う。
「翔くん、ほんと英語だけは点でダメだね…」
「聞こえてるんだよ、悪かったな」
そのやり取りを見て結衣がにやっとする。
「翔は頭がいいのか悪いのか分からないよな〜」
「結衣さんの言う通りですね」
「散々な言われ様だなおい」
そんなアホなやり取りをしつつ、各々英語の予習を進めていく。
一通り終えたところで、菜々が時計を見る。
「少し休憩にしましょう。十分くらいで」
「助かった〜!」
椅子にもたれて、俺は肩を回す。
それを見て結衣がすぐに立ち上がった。
「飲み物買いに行くぞ。翔」
「強引だな」
「いいだろ。頭使った後は糖分だ」
「まぁ、確かにな」
夏樹も立つ。
「私も行く〜」
「もうみんなで行くぞ」
◆
自販機の前に並ぶと、夏樹が缶を見ながら言った。
「ねえ、期末終わったら夏休みだよね」
「そうだな」
「早いよね、時の流れって」
結衣が腕を組む。
「夏休み入ったらさ、どっか行こうぜ」
「急だな」
「急じゃねぇだろ。前から言ってただろ?」
響も後ろから来て、笑いながら言う。
「確かに。せっかくだし遊びたいよな」
柊は少し考えてから短く言う。
「映画行きたいな」
「映画いいな、柊前も言ってたしな」
結衣が即座に乗る。
「新作出るもんね、けどホラーは却下」
「結衣、ホラー苦手だもんな」
「うるさい!」
夏樹が楽しそうに言う。
「ゲーセンも行きたい。久しぶりに」
「夏休みは混むぞ」
「それも含めて楽しいんじゃん」
結衣が指を立てる。
「海も行きたいだろ」
「海か……」
「翔、泳げる?」
「普通には」
「じゃあ決まりだな」
「勝手に決めるな」
「遊園地も捨てがたいな」
響が言うと、結衣が頷く。
「絶叫系とかね」
「ホラーは無理なのに絶叫系は行けるのかよ」
夏樹が笑う。
「祭りもいいよね。屋台いっぱいあるやつ」
「それは確かに」
ここで、少し離れたところで飲み物を選んでいた菜々が合流する。
「皆さん、夏休みの話ですか?」
「そう。菜々は行きたいとことかある?」
結衣が聞く。
菜々は少し考えてから、静かに言った。
「映画もいいですし、祭りも行ってみたいです」
「意外と普通だな」
「普通が安牌ですよ。それに」
そう言ってから、菜々は俺を見る。
「翔さんと行けるなら、どこでも楽しそうです」
直球。
やっぱり直球。
「お、言ったな」
結衣がニヤッとする。
「翔、今の聞いたか?」
夏樹も軽く笑う。
「とりあえず、点数勝負だね」
「そうですね」
「勝った人が翔とデートね。前悔しかったからなぁ…今回は勝つ」
夏樹も頷く。
「うん。今回こそは絶対王者の菜々ちゃんを倒したい」
菜々は落ち着いたまま。
「私は、いつも通りやるだけですよ」
その言い方が、もう“勝つ前提”。
「休憩、そろそろ終わりにしましょうか」
菜々がそう言って、みんなが席に戻る。
数学に入ってからは、二人の本気がはっきり見えた。
結衣は勢いで解き、間違えたら即修正。
夏樹は軽い口調のまま、確実に点を取りに行く。
「翔くん、ここ絶対出る」
「だな」
菜々は終始落ち着いている。
焦らないし、手も止まらない。
ノートに目を落とすと、朝よりもページがしっかり埋まっていた。
正直しんどかったけど、ちゃんと意味のある時間だったとは思う。
数学に変更して数時間。
全員が同じところで止まっているのを見て、菜々がノートを少しこちらに向けた。
「この解き方の方が、計算ミスしにくいと思います」
「「「「「お〜!!!」」」」」
そう言って示された途中式は、無駄がなくて分かりやすい。思わず全員声が漏れる。
流石は学年1位、って言葉が頭に浮かんだ。
◆
夕方になって、菜々が時計を見る。
「今日はここまでにしましょう。かなり進みました」
「生き返ったー!」
図書館に鳴り響く、響の安堵の声。
「ってか今回珍しく最後まで居たな柊」
俺がそう言うと柊は少し笑いながらこう言った。
「菜々さんの教え方うまかったし、それにたまには悪くないだろ?」
「そうだな」
◆
帰り道。
「翔、プラン考えとけよ〜」
「何の」
「私が勝ったらデート」
「勝ったらな」
夏樹も笑う。
「私も勝つから。翔くん」
菜々は少し遅れて歩きながら、静かに言った。
「翔さん」
「ん?」
「頑張ってましたね」
「菜々のおかげだ」
「えへへ、それなら良かったです」
花が咲いたような笑顔。
こうして期末テスト前最後の休日は幕を閉じた。




