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偶然は必然なのでぃす!

気が付くと、俺は教室にいた。

寝起きで、状況がまったく呑み込めない。 ぼんやりと視界をさまよわせた、その瞬間――


鼻に、走る激痛。


「――っ!!」


次の瞬間、後ろに引き倒され、床に叩きつけられた。 視界が滲む。笑い声が、耳に刺さる。


「へへへ、木下。もっと泣けよ。つまんねぇな」


男の声。 同級生――たぶん、そうだ。


何が起きているのか分からないまま、 腹、背中、脚に衝撃が走る。


複数人だ。 蹴られている。


「オラァ!!」


腹に入った一撃で、息が詰まった。 そこでようやく視界がはっきりする。


三人ほどの男子生徒。 それを囲んで、笑っているクラスメイト。

声が出ない。 恐怖で、頭を抱え、床にうずくまった瞬間――


意識が、途切れた。



「――うおっ!!」


飛び起きる。

天井。 見慣れた自室。 時計を見ると、朝六時。


……夢?


いや、夢にしては感覚が生々しすぎる。 鼻の奥に、まだ痛みが残っている気がした。


(……あれ、知ってる)


前の人生。 確かに、似た記憶がある。

でも、誰だったのか。 なぜそうなったのか。 肝心なところだけ、抜け落ちている。


「翔〜!ご飯よ!」


オカンの声で、思考が中断された。


……考えても仕方ない。 とりあえず飯だ。 美味いもん食えば、少しは落ち着くだろ。



昨日と同じように、朝食を食べ、制服に着替える。 今日は弁当も忘れずに鞄に入れた。


完璧だ。


時刻は七時半。 ベッドに腰を下ろし、さっきの夢を思い返す。


(……あれが、一度目の高校生活)


なぜ忘れているのか。 なぜ今、思い出したのか。

考え始めると、頭が痛くなる。


「……やめよう」


そして、もっと切実な問題に気づく。

今日の昼―― 結衣と一緒に食べる約束。

夏樹は、絶対誘ってくる。 結衣を断れば、何が起きるか分からない。


詰み、では?


「翔〜、お迎え来たわよー」


ノープランのまま、時間切れ。


「……ええい、なるようになれ!」



外に出ると、夏樹がいた。


「おはよう、翔君」


「おはよう」


「昨日は……ごめんね」


俯き気味の声。


「気にすんな。大丈夫だから」


そう言うと、少し安心したように微笑った。

俺は、昨日と同じように夏樹の手を取った。 その瞬間、ぱっと表情が明るくなる。


……分かりやすい。


「夏樹。部活、陸上部にすることにした」


「……やっぱり?」


一瞬だけ間を置いて、


「じゃあ、私マネージャーやる!」


「……は?」


「翔君、絶対活躍するもん。  そばで応援したいし……見張れるし浮気の心配もないしね」


最後の一言、聞かなかったことにした。



学校に着き、教室へ。

響と柊も合流。 いつもの流れ。


だが――


「あ……」


思い出した。


今日の昼。 結衣。


胃が、きりっと痛む。



そして、昼休み。


「翔君、今日お昼は友達と食べるね」


……勝った。


「おう、了解」


奇跡か? いや、神か?

俺は急いで二組へ向かう。


「翔、こっち」


結衣はすでに席を用意していた。 机を向かい合わせ、逃げ道なし。

弁当を開くと、完璧すぎる中身。


「うまそう」


「ちょーだい」


「あーん?」


「はいはい」


昨日と同じことを、今度は結衣に。

周囲の視線? 2日目にしてもう慣れた。


「翔、部活どこ?」


「陸上部」


「そっか。私も」


「……え?」


「翔と同じとこがいいじゃん。  近くで見れるし」


――また、それか。


頭が真っ白になる。

夏樹はマネージャー。 結衣は部員。


(……終わった)


「浮気の心配もないしね」


同じ台詞。 同じ笑顔。

俺は机に伏した。


(無理だろ……)


弁当のおかずは、ほぼ消えていた。



弁当を食べ終え、教室へと無事帰還した俺は、窓際で黄昏ていた。


……すごいぜ。 人って、後悔とか恐怖とか色んな感情が混ざりに混ざると、笑っちゃうんだぜ。


「翔、何笑いながら黄昏てんだ?」


ちょっと引き気味でそう言ってきたのは響だった。


「いや、ちょっとな……あはは」


「狂ってるな。まあ幸せそうで何よりだぜ」


ん・な・わ・け・あ・る・かァァ!!


確かにな、手ぇ繋いだり、あーんとかしたり、笑顔が可愛かったり、そういう瞬間だけ切り取ったら最高だよ。充実してるよ。 でもな――


怒った時の“目”が、マジでやべぇんだよ。 笑ってんのに、目が笑ってねぇ。 冗談みたいに言ってるのに、冗談じゃねぇ温度がある。


……しかも、そういうのが二人。


偶然にしては出来すぎてないか? 二度目の人生、死ぬにはまだ早いぞ俺。


そんなことを考えていると、5時間目、6時間目はあっという間に過ぎた。 授業は全然頭に入らず、数学の強面先生に「真面目にしろ!」とアホみたいに怒られたしで散々だった。


今日は早く帰って寝よう……。


気づけば教室には、俺と夏樹しかいなかった。


「翔君、帰ろ。……それと、帰る前に話があるんだけどね」


「ん……? どした?」


夏樹は笑ってる。 笑ってるのに、空気が冷たい。


「昼ご飯、なんで結衣ちゃんと食べてたの?」 「なんで……あーんなんかしてたの?」


背中に悪寒が走った。 同時に、全身が鳥肌で包まれる。


なんで知ってんだよ。 いや、どう考えても見られてたか、聞かれてたかだ。


俺は夏樹と目を合わせられず、視線を泳がせた。 だって絶対怖いんだもん。目を合わせたら終わる気がする。


「い、いや、さ……誘われたから……」


声が震える。 喉が固まる。 体が金縛りみたいに動かない。


「ふーん。そーなんだ」


一拍置いて、夏樹は首を傾げる。


「で、なんであーんしてたの?」 「関係ないよね?」 「翔君は私の――」


そこで言葉が止まる。 笑顔のまま、目だけが“狩る側”のそれになる。


「……次したら、分かってるよね?」


「……はい」


怖い。怖すぎる。 泣きたいのに涙すら出ない。 怖さが一周回って、身体の反応が止まる。


「翔君は私だけ見てればいいの。よし、じゃあ帰ろ!」


テンションが一瞬で明るくなる。 さっきの空気が嘘みたいに。


「う、うん……」


震える足を必死に抑えて立ち上がる。 入部届は先生に渡しておいた。そこは問題ない。


……問題があるとしたら。


(明日、部活……)


さっきの出来事で確信した。 明日、100%ヤバい。

回避しようにも、何も思い浮かばない。


「翔君、明日から部活楽しみだね!」


悪気のない一言が、追い打ちをかける。


あぁ……終わった。 二度目の人生よ、さようなら。


「……そう、だな」



家にたどり着いた俺は、昨日と同じようにベッドに倒れ込んだ。 もう考える気力すらない。


「ご飯食べなくて大丈夫なの?」


心配そうなオカンの声。


「うん……大丈夫……」


大丈夫なわけがない。 オカンの飯すら喉を通らないとか、重症だぞおい。


二日連続で晩飯抜き。 スマン母よ……ほんと心配かけてすまん。

布団にうずくまりながら、明日のことが頭をよぎる。


「明日……どうすっかな……」


逃げようとしても、現実は容赦なく突きつけてくる。 非情すぎませんかね?


明日俺にある選択肢は三つ。

学校を休む。 部活を休む。 大人しく学校にも部活にも行く。

学校を休めばオカンが心配するし、俺がいない間に“何が起こるか”分からない。 部活を休むのは、入部初日から逃げるとか最悪すぎる。


つまり――


「……行くしか、ねぇ……」



――side 夏樹


家に帰ってきた私は、明日の部活をとても楽しみにしていた。

だって、好きな人と同じ部活。 それだけで、心が勝手に踊る。


「翔君に会いたいな……」


バイバイして、まだ五分。 なのに、もう会いたい。

顔を見るだけで幸せで、癒されて、何時間でも見ていられる。


そんなことを考えていると、ふと――


「……結衣ちゃん、か……」


昼。 翔君と、結衣が一緒にご飯を食べていた。 楽しそうに話して、距離が近くて、あーんまでしてて。


胸の奥が、ぐちゃっとした。


殺意、って言葉にしてしまうと簡単だけど、 それよりももっと嫌な感情。 自分でも形にできない“黒い熱”。


「ぬ〜……ライバルだ……」


これは戦争だ。 明日の部活では、結衣に翔君の気が向かないように、 いっぱいアピールしなきゃ。


(結衣ちゃん、何部なんだろ……)


……まあ、いいや。 どうせ、すぐ分かる。


「絶対に……私のものにするからね……」


枕元に置いてある、翔君の写真。 それにそっと口づけをして、私は眠りについた。

ここまでご覧くださりありがとうございます!

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ヤンデレは多ければ多い方がいい!ただし見てるだけに限る。
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