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戦場と化した試着会

文化祭準備が本格的に始まって数日。

放課後の家庭科室に、妙な緊張感が漂っていた。


「よし、今日は衣装の試着会するよー!」


夏樹が宣言すると女子陣が歓声。

一方、男子はと言うと――


「え、今日だったっけ……?」


「まだ心の準備が……」


「逃げるなら今だぞ柊」


「いや翔が着るなら俺も着るけど?」


なんで巻き込まれてんだよ柊。


俺と柊は半ば強制的に夏樹に首根っこ掴まれ、家庭科室の奥へ連行されていく。


机には既に完成済みの衣装がずらり。

黒基調のクラシックメイド服、白フリルの可愛い系、パステルカラーのアレンジ版、男子用スーツ風……

そして――


チャイナドレス(赤と青)

スリット深め。露出高め。

俺は見た瞬間に悟った。


(これ絶対俺だ……)


「翔さんは赤ですね!身体のラインが綺麗に出るやつです!」


「いやいやいや!?なんでスーツは俺じゃないの!?」


「似合うからです!!」


即答。

結衣は既に赤チャイナを手にひらひらさせながら笑った。


「スーツ着せたら普通にかっこよくなるじゃん。

 チャイナで恥ずかしがる翔を見る方が……ね?」


「悪意あるだろ絶対!」



更衣スペース(※教室の隅・カーテンで仕切っただけ)に押し込まれ、俺は着替え始める。


滑らかな生地が妙に冷たい。

腕通すたびに背筋がゾワッとする。


「うわ……これ、思ったよりピッチリじゃん」


胸元はぐっと締まり、ウエスト形が出る。スリットは太もも近くまで。

俺は鏡を見て頭抱えた。


(……地味に着れちゃってるのが腹立つ)


「翔ー?できたー?」


外から聞こえる夏樹のうきうき声。


「待て!まだ心の準備が――ぐあっ!?」


カーテンが強引に開けられた。


「見せろーーー!!」


パシャパシャパシャ!!!

スマホのフラッシュ音。

一斉にカメラ向けられる俺。


さっきまで黙ってた男子まで撮ってる。こんの裏切り者どもがぁ…。


「翔さん……綺麗すぎます……」


菜々の頬が赤い。完全に目がハート。

近づきすぎて息が触れそうな距離まで来る。


「動かないで下さいね、写真撮りますので」


「やめろおおお!!!」



そこへ――


「お前ら遅いぞ何して――」


扉ガラッ

チャイナ姿の柊、登場。

青スリット、腹筋くっきり。肩出し仕様。


――一瞬の静寂


「「「似合ってて腹立つ!!!」」」


「は?なんで俺怒られてんの?」


柊は首傾げながら余裕のポーズ。

なんかこう、モデル感あって悔しい。


「おい翔、ポーズ合わせろよ。ほら、こうやって」


「絶対やらねぇ!!」


しかし結衣が俺の腕を掴む。


「翔、これ持ってポーズして。写真撮るから」


小道具:扇子

俺の抵抗をガン無視し、自然な形で扇子持たされ――


結衣「ほら、片足前に出して……顔ちょっとこっち」

菜々「スリット見える角度もっと……!」

夏樹「色っぽい表情して!」


四方から指示が飛ぶ。

俺は観念した。


(……やってやるよ。こうなりゃ意地だ)


扇子を顎に添え、目線だけカメラへ。

パシャッ


――教室がどよめきに包まれた。


「やっぱ翔、こういうの似合うよなぁ」


「男子で色気で殴ってくるタイプ初めて見た」


「当日これで客引きね!!」


「無理だろ!!」



試着会後、休憩。


俺と柊は廊下の窓際でため息ついていた。


「なぁ翔」


「ん?」


「……お前、笑ってたな」


不意に言われて黙り込む。

さっきの騒がしさ、笑い声、ツッコミ、カメラの乱射。 確かに俺、ずっと笑っていた。


「嫌がってるようで楽しそうだし俺も安心したわ。

 最近色々あったしな」


「別に……ただ呆れただけだよ」


「強がんなって。嬉しそうだったぞ」


そう言い、柊は俺の肩を軽く拳で叩いた。


「こういうバカみたいな時間、悪くねぇだろ?」


胸の奥が少しあたたかくなる。


「……そうだな」



教室に戻ると、今度は女子がメイド服試着タイム。

菜々は黒フリルで妖艶。結衣は白基調で清楚。夏樹は青リボンで元気系。


「翔さん、どうですか?」


菜々がスカート裾つまんで回って見せる。


「翔、厨房チーフ命令だ!私の似合ってるやつ評価して」


「翔くんこっちも見てよー!」


一気に囲まれた。


俺は息を整え、一人ずつ見て言う。


「菜々は……綺麗すぎ。喫茶っていうか貴婦人」

「結衣は……清楚。透明感すごい。白似合う」

「夏樹は……動いた瞬間可愛い。看板映えする」


三人が一斉に固まる。

そして――


「「「……翔のそういうとこずるい!!!」」」


怒られた。理不尽だ。



帰り際。部室棟の影で柊が軽く手を上げる。


「翔、当日絶対一緒に盛り上げような」


「ああ。潰れるまで働く」


「おー、その意気!」


拳をコツンと合わせる。

放課後の空気はどこまでも軽い。

笑って、照れて、騒いで、写真撮られて――

少なくとも今だけは確かに平和だった。


文化祭までもう少し。

ドタバタ劇は続くけど――

この時間を守りたいと心から思った。

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