戦場と化した試着会
文化祭準備が本格的に始まって数日。
放課後の家庭科室に、妙な緊張感が漂っていた。
「よし、今日は衣装の試着会するよー!」
夏樹が宣言すると女子陣が歓声。
一方、男子はと言うと――
「え、今日だったっけ……?」
「まだ心の準備が……」
「逃げるなら今だぞ柊」
「いや翔が着るなら俺も着るけど?」
なんで巻き込まれてんだよ柊。
俺と柊は半ば強制的に夏樹に首根っこ掴まれ、家庭科室の奥へ連行されていく。
机には既に完成済みの衣装がずらり。
黒基調のクラシックメイド服、白フリルの可愛い系、パステルカラーのアレンジ版、男子用スーツ風……
そして――
チャイナドレス(赤と青)
スリット深め。露出高め。
俺は見た瞬間に悟った。
(これ絶対俺だ……)
「翔さんは赤ですね!身体のラインが綺麗に出るやつです!」
「いやいやいや!?なんでスーツは俺じゃないの!?」
「似合うからです!!」
即答。
結衣は既に赤チャイナを手にひらひらさせながら笑った。
「スーツ着せたら普通にかっこよくなるじゃん。
チャイナで恥ずかしがる翔を見る方が……ね?」
「悪意あるだろ絶対!」
◆
更衣スペース(※教室の隅・カーテンで仕切っただけ)に押し込まれ、俺は着替え始める。
滑らかな生地が妙に冷たい。
腕通すたびに背筋がゾワッとする。
「うわ……これ、思ったよりピッチリじゃん」
胸元はぐっと締まり、ウエスト形が出る。スリットは太もも近くまで。
俺は鏡を見て頭抱えた。
(……地味に着れちゃってるのが腹立つ)
「翔ー?できたー?」
外から聞こえる夏樹のうきうき声。
「待て!まだ心の準備が――ぐあっ!?」
カーテンが強引に開けられた。
「見せろーーー!!」
パシャパシャパシャ!!!
スマホのフラッシュ音。
一斉にカメラ向けられる俺。
さっきまで黙ってた男子まで撮ってる。こんの裏切り者どもがぁ…。
「翔さん……綺麗すぎます……」
菜々の頬が赤い。完全に目がハート。
近づきすぎて息が触れそうな距離まで来る。
「動かないで下さいね、写真撮りますので」
「やめろおおお!!!」
◆
そこへ――
「お前ら遅いぞ何して――」
扉ガラッ
チャイナ姿の柊、登場。
青スリット、腹筋くっきり。肩出し仕様。
――一瞬の静寂
「「「似合ってて腹立つ!!!」」」
「は?なんで俺怒られてんの?」
柊は首傾げながら余裕のポーズ。
なんかこう、モデル感あって悔しい。
「おい翔、ポーズ合わせろよ。ほら、こうやって」
「絶対やらねぇ!!」
しかし結衣が俺の腕を掴む。
「翔、これ持ってポーズして。写真撮るから」
小道具:扇子
俺の抵抗をガン無視し、自然な形で扇子持たされ――
結衣「ほら、片足前に出して……顔ちょっとこっち」
菜々「スリット見える角度もっと……!」
夏樹「色っぽい表情して!」
四方から指示が飛ぶ。
俺は観念した。
(……やってやるよ。こうなりゃ意地だ)
扇子を顎に添え、目線だけカメラへ。
パシャッ
――教室がどよめきに包まれた。
「やっぱ翔、こういうの似合うよなぁ」
「男子で色気で殴ってくるタイプ初めて見た」
「当日これで客引きね!!」
「無理だろ!!」
◆
試着会後、休憩。
俺と柊は廊下の窓際でため息ついていた。
「なぁ翔」
「ん?」
「……お前、笑ってたな」
不意に言われて黙り込む。
さっきの騒がしさ、笑い声、ツッコミ、カメラの乱射。 確かに俺、ずっと笑っていた。
「嫌がってるようで楽しそうだし俺も安心したわ。
最近色々あったしな」
「別に……ただ呆れただけだよ」
「強がんなって。嬉しそうだったぞ」
そう言い、柊は俺の肩を軽く拳で叩いた。
「こういうバカみたいな時間、悪くねぇだろ?」
胸の奥が少しあたたかくなる。
「……そうだな」
◆
教室に戻ると、今度は女子がメイド服試着タイム。
菜々は黒フリルで妖艶。結衣は白基調で清楚。夏樹は青リボンで元気系。
「翔さん、どうですか?」
菜々がスカート裾つまんで回って見せる。
「翔、厨房チーフ命令だ!私の似合ってるやつ評価して」
「翔くんこっちも見てよー!」
一気に囲まれた。
俺は息を整え、一人ずつ見て言う。
「菜々は……綺麗すぎ。喫茶っていうか貴婦人」
「結衣は……清楚。透明感すごい。白似合う」
「夏樹は……動いた瞬間可愛い。看板映えする」
三人が一斉に固まる。
そして――
「「「……翔のそういうとこずるい!!!」」」
怒られた。理不尽だ。
◆
帰り際。部室棟の影で柊が軽く手を上げる。
「翔、当日絶対一緒に盛り上げような」
「ああ。潰れるまで働く」
「おー、その意気!」
拳をコツンと合わせる。
放課後の空気はどこまでも軽い。
笑って、照れて、騒いで、写真撮られて――
少なくとも今だけは確かに平和だった。
文化祭までもう少し。
ドタバタ劇は続くけど――
この時間を守りたいと心から思った。




