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花火の余熱

今回久しぶりに陸上部メンツが出てくるので、混乱防止のため、後書きにてキャラまとめしておりますので一読していただけますと幸いです。

陽華祭が終わって、最初の登校日。


玄関を出る時間も、駅までの道も、

全部いつも通りなのに——

どこかだけ、微妙に噛み合っていない感じがした。


「……眠いですね」


隣を歩く菜々が、少し小さな声で言う。


「そりゃ三日分動いた反動だろ」


「ですね。身体が一日遅れて抗議してます」


笑いながら言うけど、

俺の方を見る時間が、ほんの一瞬だけ短い。


それが気になって、でも聞けなくて。

校門前で、菜々は一歩先に出た。


「先行きますね」


「おう」


それだけの会話。

なのに、胸の奥に小さな違和感が残った。



教室は、すっかり「日常」に戻っていた。


「翔〜!まだチャイナ着る夢見てるわ!」


「お前だけだろ」


「俺、夢の中でも会計してた」


「それは可哀想すぎる」


柊と響のバカ騒ぎ。

この空気に、少しだけ安心する。


俺が席に座ると、すぐ横の席に結衣が来た。


「おはよ、翔」


「ああ、おはよ」


それだけの会話。

なのに、やけに距離が近い。

昨日までと何が変わったわけでもないのに、無意識に肩が触れそうな距離に立っていることに気づいて、俺は少しだけ居心地の悪さを覚えた。


……いや、悪くはない。


ただ、慣れてないだけだ。

少し遅れて、菜々が教室に入ってくる。


「おはようございます」


いつもと変わらない笑顔。

いつもと変わらない声。


でも――


俺は気づいてしまった。

結衣と俺を一瞬見てから、ほんの一拍だけ視線を逸らしたことに。


「おはよ、菜々」


声をかけると、すぐにこちらを見て微笑んだ。


「おはようございます、翔さん」


完璧な笑顔だった。

だからこそ、胸の奥に小さな引っかかりが残った。



放課後。


久々の陸上部再開。

文化祭準備で数日止まっていたグラウンドは、いつもの土の匂いを取り戻していた。


「よし、集まれー!」


三年の部長、氏原海斗が手を叩く。


「文化祭お疲れ。今日は軽めな。身体戻すの優先な」


「了解です」


副部長の桜陽菜が淡々と頷く。


準備運動が始まり、自然といつもの配置に落ち着く。

翔、結衣、菜々は同じレーン。

少し後ろで木村小和が跳ねながら準備していて、

その横で山岸剛がやたら声を張り上げている。


「いやー!久々の部活って感じするな!!」


「うるさい、山岸」


「それ褒めてる?」


部の空気は相変わらずだ。

けど――


(やっぱ、ちょっと違うな)


結衣は、走る前に俺の方を一度見た。


「翔、今日は無理すんなよ」


「そっちこそな」


短い会話。

それだけなのに、やけに自然で、やけに近い。

スタートの合図。

俺たちは同時に走り出した。


足音、呼吸、風を切る感覚。

身体が思い出す。


(ああ、これだ)


文化祭の喧騒とは違う、

“自分の場所”に戻ってきた感じ。

走り終えて、息を整えていると、菜々がボトルを差し出してきた。


「翔さん、どうぞ」


「ありがとな」


指が一瞬触れる。

菜々は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。


「……楽しかったですね、文化祭」


「ああ」


「翔さん、ずっと忙しそうでしたけど……楽しめました?」


その問いかけに、少しだけ言葉に詰まる。


「……楽しかったよ。正直、めちゃくちゃ」


それは嘘じゃない。

菜々は、少しだけ安心したように微笑んだ。


「なら、良かったです」


でもその笑顔は、どこか“頑張っている”ようにも見えた。


その様子を、少し離れた場所から夏樹が見ていた。


「翔くーん、ちょっと来て」


マネージャーの仕事をしながら、夏樹が軽く手を振る。


「はいはい」


近づくと、タイム計測の紙を見せてくる。


「ほら、文化祭前よりタイム落ちてない。意外とちゃんとしてる」


「意外は余計だろ」


「いや、正直もう少し燃え尽きてるかと思ってた」


そう言って、ちらりと結衣と菜々を見る。


「……でもまぁ、色々あった割には、ね」


「何が言いたいんだよ」


「別に?」


にやっと笑って、ストップウォッチを止める。


「たださ」


声を少し落として続ける。


「人の気持ちって、走り終わった後に一気に来ることあるじゃん」


「……は?」


「ゴールした瞬間に、どっと疲れたりさ」


意味深すぎる。


「翔は今、どのへん?」


「さあな」


俺が肩をすくめると、夏樹は楽しそうに笑った。


「じゃあ、まだスタートラインかもね」


その言葉の意味を考える前に、

氏原の声がグラウンドに響いた。


「クールダウン入るぞー!」



部活が終わり、夕焼けの中で片付けをしていると、

菜々が一人、少し離れたところでストレッチをしていた。


「菜々」


声をかけると、少し驚いたようにこちらを見る。


「はい?」


「無理してないか?」


唐突な問いだったかもしれない。

菜々は一瞬きょとんとしてから、ゆっくり微笑んだ。


「……大丈夫です。ちゃんと、楽しいですから」


その言葉に、俺はそれ以上踏み込めなかった。


(……俺、何か見落としてるか?)


でも答えは出ない。

結衣が呼ぶ声がして、

夏樹が軽く手を振り、

部活終わりの響と柊がくだらない話で盛り上がる。


いつもの放課後。

なのに、胸の奥に小さな違和感だけが残る。



家に着くまで、菜々と並ぶ。


「……翔さん」


「ん?」


「部活、お疲れ様でした」


「菜々もな」


沈黙。

少しだけ、間を置いて。


「陽華祭、楽しかったですね」


「ああ」


「……私も、楽しかったです」


それだけ言って、

菜々はそれ以上何も言わなかった。

玄関の前で、ほんの一瞬だけ立ち止まる。


「お先にどうぞ」


「いや、一緒に——」


言いかけて、止めた。


「……ああ」


ドアが閉まる音が、

やけに大きく聞こえた。



夜。


ベッドに横になって、天井を見る。

陽華祭は終わった。

でも、終わりきっていない。


結衣との距離は近づいた。

菜々の距離は、少しだけ遠くなった。

夏樹は、笑いながら一歩引いた。

全員が、何かを抱えたまま日常に戻っている。


(……これ、どうなるんだ)


答えは出ない。

でも一つだけ分かる。


陽華祭の花火は消えたけど、

余熱は、まだ全然冷めていない。


それはきっと——


次の一歩を、否応なく動かす熱だ。

久しぶりに陸上部メンツが揃ってきたので、ここで一度まとめておきます。

(※忘れ防止用&これからの話の理解補助です)

【陸上部 3年】

氏原うじはら 海斗かいと

 部長。真面目で元気、全体を明るくまとめるタイプ。

 空気を軽くしつつ、要所はちゃんと締める頼れる先輩。

さくら 陽菜ひな

 副部長。真面目クール。

 感情は表に出さないが、部の安定感はこの人が支えている。

日向ひゅうが

 無口な部員。必要なことだけ話す。

 存在感は静かだけど、いると安心するタイプ。

【陸上部 2年】

木村きむら 小和こより

 次期部長候補。元気天然。

 勢いと明るさで場を引っ張るムードメーカー。

山岸やまぎし たけし

 次期副部長候補。とにかくうるさい、でも面倒見はいい。

 キャラは濃いが、練習への熱量は本物。

・長谷川 蓮/井上 颯太

 元不良組。現在は一旦退場中。

 今後の再登場余地あり(あるかも?)。

【陸上部 1年】

・木下 翔

 主人公。気づいたら色んな感情の中心に立たされがち。

・高橋 夏樹

 マネージャー。場を回すのが得意で、誰よりも全体を見ている。

 その分、自分の感情を後回しにしがち。

・如月 結衣

 幼馴染。負けず嫌いで一直線。

 翔との距離が、陽華祭を経て一気に近づいた。

・黒瀬 菜々

 同居中ヒロイン。真面目で優しいが、感情は深い。

 今はまだ「いい子」を選んでいる状態。

陽華祭が終わり、

部活という「日常の場所」に全員が戻ってきました。

ここからは、走るだけじゃ済まない話も増えていくと思います。

次回以降も、じわじわ動いていきますのでお付き合いください。

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