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過去からの脱出 1

「あの時は助けてくれてありがとうございます…翔さん!」


そう言い渡された俺の中学時代の学生証に更に涙が込み上げる、何で俺はこんな大事な事を忘れてしまっていたんだ

頭の中でピースがハマったようにあの日の光景が思い浮かぶ


年月が経っているのに当時の綺麗な状態のまま保存されていたであろう、俺の学生証からは菜々が大切にしていた事が伝わってくる


「気付けなくてこめんな、ありがとう」


俺がそう言い受け取ると菜々は満面の笑みで頷いた。俺は菜々のこの笑顔を守りたい、こんな優しい子が苦しい思いをしていい訳が無い


「菜々、俺の家に来ないか?」


「え…?」


俺の母さんがどう言うかは分からないが、こんな家にそんな話を聞いておきながら菜々をこれ以上ココに置いている訳には行かない


「で、でも翔さんのお母さんとか、私のお母様とか色々……」


「全部大丈夫だ、とにかく俺の家に来てから考えればいい」


俺がそう言うと菜々は目に涙を浮かべながら頷いた

さぁ、ここからが大変だろうな。菜々のお母さんも反対してくるだろうし、一緒に住む事になったって聞いた夏樹や結衣達の反応も中々凄まじいものだろうな

そんな事を考えつつも俺は何故か全てが上手く行く確信が湧いていた


「とにかく準備しようか。家近いし俺も運ぶの手伝うよ」


「…ありがとうございます!」



菜々が用意したキャリーケースやカバンに荷物を詰め、家出の準備を終えた俺達は菜々の家を出ようと玄関へと向かっていた


和気あいあいと他愛の無い話をしながら靴を履いている途中で、玄関の戸が音を立てて開いた

やはり何事もスムーズには進まないものだ、そこに居たのは菜々の母親だった

最悪のタイミング、俺と2人で居るところか一緒に荷物まとめて出て行こうとしている所に鉢合わせしてしまった


「菜々!何してるの!?」


俺と菜々を見るやいなや響き渡る怒声

話に聞いていた通りのヒステリック振りに俺は身構える、このままだと最悪強行突破も考えておいた方がいいかもしれない


「はじめまして、菜々俺が今から家に連れて帰るので」


「はぁ!?アナタそもそも誰よ!意味のわかない事しないでくれない!?ウチのな」


「お母様!!!」


俺のセリフに更に発狂した菜々の母だったが、菜々の叫びに菜々の母は思わず言葉を止めた


「もうやめてください!あの頃の優しいママはどこ!?私はもうここには居たくない!翔さんと2人で幸せになります!」


そう言うと菜々は靴を履き、扉の前に立っていた母を無理矢理突破した

菜々にそんな事を言われた母は突然の出来事に呆気にとられ、顔面蒼白でその場で立ち尽くしていた

そりゃそうだ、菜々の言い方的に結婚でもするのかと思われているに違いない。まぁ今はそう思われてもいいや、この場きりぬけれるなら!


その流れに便乗し俺も菜々の母の横を通り抜け外に出る、外に出ると菜々は満面の笑みで「行こ!」と言うとキャリーケースを引き駆け出した


言うても家までへの距離など徒歩4分の位置なので、2人でふざけながら走っていると直ぐに俺の家へと着いた

家に着き玄関の戸を開けると靴が揃えておいてあった、それを見た俺は母さんが既に帰ってきている事を察知する


「あら、おかえり〜」


ただいま〜と言うと母さんはそう言いリビングからエプロン姿で姿を現した


「お邪魔します!」


母さんの姿を見ると菜々はそう言いお辞儀をする

時刻は既に19時、こんな時間に女の子を家に呼んでいる俺に「やるわね」とか言いながらも、荷物の多さに何かを感じ取っていた


自宅へと入り俺の部屋に荷物を全て運び、母さんに事情を説明しにリビングへと戻る

リビングに戻ると既に菜々と仲良さそうに話していた母さん。ホントに昔から誰とでも馴染むの早すぎるんだからウチの母親は


「母さん話…あるんだけど」


「どうしたの?」


少し切り出しにくい話に一瞬、躊躇するが俺は渋っていてもしょうがないと思い、思い切って言葉を発する


「ちょっと色々事情あってさ、菜々ウチに住ましてあげたいんだけど…大丈夫?」


「いいわよ」


ですよね〜、厳しいですよね。そりゃそうか、急に来た女の子を住ませてあげたいなんて突拍子もない話なんて……ってえ?


「え?」


「なに?いいわよって」


「そ、そんなすんなり!?」


俺がそう言うと母は笑いながらこう言った


「菜々ちゃん今話してみて良い子だったし、何か事情があるんでしょ?アンタも普段から世話になってるし別にいいわよ。まぁ理由は聞くけどね」


「ありがとう母さん!」


「翔さんのお母様ありがとうございます!」


懐の広すぎる母さんに俺も菜々も大感謝する

流石にいくら優しいとは言え1、2回くらい反発されると思っていた


俺は母さんに事情を説明するために3人でリビングの席に着いた



母さんに菜々の過去や今置かれている現状を説明すると、母さんは泣きながら菜々を抱き締めた

涙脆いのは母さんからの遺伝だったか…


「菜々ちゃん偉いねほんとに、もうずっとここに居なさい。あっちの親が何か言ってきてもお母さんが対処してあげるから」


「は、はいぃ!ありがとうございます!」


そんなやり取りに、半ば強引だったが菜々を連れてきて良かったなと心の底から強く思う


「私の事はお母さんって呼んでいいからね菜々ちゃん」


「はい!よろしくお願いしますお母さん!」


「あ〜可愛い!」


母さんと菜々がそんな平和なやり取りをしていると、インターホンの音が部屋に鳴り響いた

めちゃくちゃ嫌な予感がする


インターホンのカメラから伝わる映像へと目をやると、そこには予想通り菜々の母親が居た

まぁこのまま大人しく引き下がってくれるわけ無いよな…

そんな事を考えながら対応しに外に出ようとすると、それを母さんが静止した


「アンタは菜々ちゃんと喋ってなさい。私が何とかしてきてあげる」


そう言い母の顔はいつもの優しい母の顔ではなく、その表情は一目で怒りで満ち溢れているのがわかった


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