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菜々の過去 2

「学年トップの菜々って背中シマウマみたいな模様があるらしいよ」


常に学年トップの成績を取り続け、周りから妬まれている私のそんな噂は女子校では一瞬で広まる

もちろんその話は私の耳にも届きました

体育の時間の着替えの時とかに見られたのでしょうか、一応見られないようにトイレで着替えたりはしていたのに。そんなことを今更考えてもしょうがないと思った私はこれ以上傷跡が見られないように一段と注意することにしました


「菜々〜トイレ行こ〜!」


私は友達にそう言われ席を立つと、教室を後にしトイレへと向かいました。正直余り大声で言って欲しくは無いものです


トイレはと辿り着くとそこには、噂を流したであろう女の子達数名が居ました

私はそれを見て全てを悟りました


「菜々ちゃんシマウマらしいね、背中見せてよ!」


そんなデリカシーのない事を言ってきた女は、私の服を脱がそうと強引に私をトイレの個室へと引きずり込んだ


「っつ!嫌です!やめて!」


「おい!早く脱がせて!」


抵抗する私を数人で押さえつけ、そう指示され私の服を脱がしてきたのは私が友達だと思ってた女の子でした


「うっ!気持ち悪い!マジでシマウマじゃん!」


「噂マジだったんじゃんやばぁ〜」


私の服を脱がしそう言った友達だった()は、まるで汚いものでも触ったように私の服を投げ捨て、女の子達とそんな話をしながら、そのままその場を後にした


私の唯一の居場所も私の中から音を立て崩れ落ちた。そして私の唯一の友達も、楽しかった時間も全部、全部、無情にも今の一瞬で消え去りました

足の力が抜けた私は上の服が無いのも気にせずその場に座り込み、大粒の涙を流しながら声を押し殺して泣いた


世界の全てが私の敵になった瞬間でした

私が自傷行為をする様になったからもそこからでした



私の傷跡が学校のみんなには知られてから数日、先生達も面倒事は避けたいと相手にしないし、母も相変わらずだ。世界のどこからも居場所を失った私はある日ふと死のうと思いたち、学校帰りの駅のホームで死ぬことにしました


ホームで電車を待つこと数分、電車到着の放送が鳴りその数秒後に踏切の音が鳴り響く。なんて不気味なレクイエムなんだろう。そんな事を思いながらも私は一直線に線路へと向かう

電車のライトが白い線を引いて、風が髪を巻き上げ

世界の音が遠くなった気がしました


やがて電車の姿が視野に移り、私の体は既に黄色の線の外側へと飛びでていました

死ぬ瞬間がスローに映り頭の中に走馬灯のようなものが流れるけど、最初の頃の母との思い出以外はろくな思い出が流れませんでした

死を覚悟し目をつぶり私は線路に身を投げました


「危なぁぁぁい!」


そんな男の人の声がホームに響き、気付くと私は知らない男の人に抱き抱えられていました


「だ、大丈夫?」


男の人は私と同じ中学生の様で、私をホームのベンチに座らせるとそう言い私を心配してくれました


「はい…ごめんなさい…」


「なんで謝んの?助かったから全然良いんだよ。ってか電車俺コレ乗らないと!良かったらこれあげるよさっき買ったやつ!それ食べてもう帰りなね〜!」


そう言い男の人は私に菓子パンを投げ渡し、慌てて電車に乗りこんで行きました

包装のビニールが太陽に反射して光った

その温度だけが、世界のどこにもない「優しさ」のような気がしたんです

嵐の様な出来事に一瞬、思考が固まりましたがもう死ぬ気分では無くなった私は帰ることにしました


「あ…お礼言えてない…」


そう思い先程男の人が乗り込んで行った方向を見ても当然、姿どころか電車すらもう出発していて私は後悔に包まれ頭を下げる


でもふと何か足元に落ちていました。私はそれを拾い上げると、その物の正体は先程の男の人の学生証でした



私が死のうとしてから時は流れ、地獄の様な日々は相変わらず続きましたがあの時助けてくれた男の人の事を思うと、何故か全部乗り切れました

こんな世界でも助けてくれる人は居るのに死ぬ訳には行かない

そんな風に思わせてくれるんです


あの日から2年ほどが経ち、私は受験を迎えていました。私の受験する高校は『朝日ヶ丘高校』

偏差値は50程の普通の高校だけど、私はどうしてもここに行きたい理由がありました

最初コレを提案した時、母は発狂していたけど、どれだけ叩かれ怒られても音を上げない私に根負けしたのか「大学は私の言う事を聞け」と言う条件で私はこの高校への受験を勝ち取りました



「って感じですね、私のこの傷の理由は…だから陸上部入るのも正直苦労したし翔さんの看病した日もほんとは大変でした。あ!でもでも今は全然自傷はしてませんよ!あはは」


重い話をしてしまい気を使っているのか、そう言い笑う菜々

俺の目からは自然と涙が零れていた


「ごめんなさい、大丈夫ですよ翔さん」


菜々はそう言い泣いてる俺を抱き締めてくれた、先程までと立場が完全に逆だ。泣きたいのは菜々だろうに情けない話だ


「あ、そうだ」


ふと菜々はそう言いおもむろに立ち上がると、勉強机の参考書の中からカードの様なものを取り出した


「ずっと隠してたんですよ、お母様に見つかったら処分されそうだし」


大事そうにそれを握りそう言う菜々

菜々は大事そうに握っているそのカードを俺に渡しこう言った


「あの時は助けてくれてありがとうございます…翔さん!」


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