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菜々の過去 1


「…ぅうなんか話そうとは思うんですけど、中々どう話していいか…」


ようやく落ち着きを少し取り戻した菜々はそう言うと頭を抱えた


「ゆっくりでいいから、話せるとこからで全然いいから」


菜々に俺はそう声をかける

菜々が頭を抱えるのは仕方がない、俺ですら自分の過去を説明しろって言われたら色々ありすぎてどこから話せばいいのか戸惑う


「じゃあ、とりあえず…」


「っ…!」


そう言い俺に背中を向け服を上げる菜々。露出した背中にはムチで叩かれたような跡が重なり合うように菜々の背中を埋めつくしていた。中には最近付けられたばかりであろう跡も目視できる

俺はあまりの光景に思わず声を失う。菜々の親が毒親な所か虐待までしているのはその傷を見るだけで分かった


「ごめんなさい、急にこんなの見せちゃって。でももう二の腕も見てるから一緒かなって…」


「親の仕業か?こんな事したのは」


俺は体の体温が上がっていくのを感じた。これはさっき見たいな緊張で上がってる訳じゃない、怒りが込み上げてくるのが自分でも分かる


「はい…これにも理由があるから話しますね、コレは先に見せておいた方が分かりやすいと思ったので」


俺の怒りとは反対に菜々は少し笑いながらそう言い自身の過去を語り始めた



私の母はすごく優しい人でした、何をしても怒らないクラスの皆に憧れられる様な理想の母親

私が小さい頃に離婚した母は女手1人で私を育ててくれていました。家庭環境には多少問題ありだったけど母と遊んだ沢山の思い出や、他愛のない幸せな会話は私からそんな事を忘れさせる程、十分に私を幸せに包み込んでくれていました

私は優しい愛を沢山くれる母が大好きでした。本当に、本当に大好きでした

そう、その時までは


「菜々!中学校の受験まで時間が無いわよ!さっさと勉強しなさい!」


私が小学5年生へと進級した途端、母は何かが壊れたように私を怒鳴りつけるようになりました

私は母の急な変わり様に驚きと恐怖を感じたけど、ちゃんと言うことを聞けば、また優しい母に戻ると思い恐怖を押し殺し言う事を聞いていました


そして、そんな怒声が響く生活を続けてから2年。遂に中学受験が始まりました

母に言われるように勉強に明け暮れた私は母が望んだ通りのお嬢様女子中学校への入学が決まり、私はようやくコレで母が元に戻ると思っていました


「ママ私頑張ったよ!」


「流石菜々よくやったわ、けど頑張るのはこれからよ。あなたを絶対に良い子に育て上げるわ、私の様にならないようにね」


それを聞いて私は母がもう二度と元に戻ることは無いと悟りました、母の中で何かが壊れた様に私の中でも何かが壊れる音がしました


そこからは敬語を使う事の徹底、母の事は『お母様』と呼ぶように躾られ、スケジュールの管理、遊びに行く事や異性との交流禁止、刑務所のような生活に私の心は日に日にすり減って行きました

そして事件は中学1年生の最後のテストで起こりました


母の無茶なスケジュールのせいで体調を壊した私は、数日入院する事になりそのテストを受けれませんでした


恐る恐る退院した私は家へと帰るとそこには、花瓶や皿が割れ、家具は倒され、まるで強盗が入ってきたかのような光景が広がっていました


「お、お母様…?」


割れた皿や家具を避けリビングへと足を運ぶと、母はリビングの真ん中でうずくまっていました

私は恐怖を感じつつも声をかけてみました


「…わ……が…だめ…」


リビングも先程同様、荒れ果てており私は足元に気を付けながら母にもう少し近付くと何かをブツブツ言っていました


「私の育て方が甘かったのねダメだったのね」


壊れた様にずっとその一言を繰り返す母

私はここに居ると何をされるか分からないと未知の恐怖を感じ、再び玄関の方へと向かいました

下手すると殺されるかもしれない、私はそんな恐怖と戦いながら玄関へと到着しドアノブへと手を伸ばしました


「ぁあ!いっっったい!!!」


ふと背中に走る激痛と風船が割れたかのような音が玄関に響き渡り、痛みに耐えられない私は思わずその場にうずくまりました


「私は甘すぎたようだわ菜々、今日からは菜々の為に私もっと頑張るからね!」


そんな訳の分からない事を言う母の手には竹で出来た、ムチのような物が握られていた


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


得体の知れない恐怖が確信に変わり、私はとにかく謝ることしか出来ませんでした

逃げる事などもう考える事も出来ず、私は再びあの日々へと逆戻りするのでした


母の虐待はその日以降、更にエスカレートし私をどんどん追い詰めていきました

通報する事も考えましたが、どこか心の隅に優しかった時の母の顔がチラつき行動に移せませんでした



休みの日と学校に居る時間以外を母に支配されていた私は、学校だけが唯一の居場所となっていました

こんな母の事などは口が滑っても言えませんが少しだけ友達も居ました


「菜々ってさ何でそんなに勉強できるの?めちゃくちゃ羨ましいんだけど」


「お母様のお陰ですよ」


「へ〜、菜々のお母さん頭良いんだ。家庭教師見たいでいいなぁ〜」


そんな他愛のない会話すらも最初は私の心を抉りましたが、もうこれぐらいの会話は慣れ始めていました

普通の子達がそう思うのも仕方が無いし、しょうがない事だし私にとってはこれが平和でした


そしてそんな平和な学校生活にこんな噂が出回っていました


「学年トップの菜々って背中シマウマみたいな模様があるらしいよ」


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